おそろい




だって知りたいの。どんな些細な事だって。大好きな貴方の大好きな物。アタシも知って味わって、気持ちを分かち合いたいの。





『………』
「………」
『………』
「………退屈か?」
『え?』
「さっきからジッとこちらばかり見ているだろう。」


ううん。退屈じゃあないの。貴方の綺麗な髮がハラリと揺れる様だとか、眼鏡の奥の真剣な眼差しだとか。そう、そうやってページを捲る指先だとか。ただ読者をしているだけなのに、様になってしまう貴方を見ていても飽きないわ。


「退屈ではないならどうした」
『あのね、』


そうまずはそれ。貴方がいつも飲んでいる珈琲。アタシだって珈琲くらいは飲むけれど、貴方みたいにブラックを美味しそうには飲めないし、そもそも美味しいなんて思った事もないんだもん。


『どこら辺が美味しいのかなって』
「ふむ……」


誓さんが珈琲の奥深さとやらを淡々と語る。何だかよくわからないけれど、香りがいいとかなんとやら。聞けば聞く程に難しくなるアタシの顔に気づいて、クスリと笑った後で、飲んでみるかとカップを差し出した。


「わかるか?」
『………わ、か、る』
「…………無理をするな」
『………わかりません。あーん、口の中が苦いよぉ』


やっぱり珈琲にはミルクも砂糖も欠かせない。しかもたっぷりじゃないと嫌。そう言うと貴方は珈琲に対する侮辱だな、なんて言った。どうせ味のわからない子供ですよーとひねくれて見せると、大人でも飲めないヤツもいるって笑った。








でもね、違うの。子供でもいいから貴方とお揃いの大好きが欲しいの。








『じゃあそれは?美味しい?』


珈琲カップに並んで置いてあるその箱を指差すと、あからさまに眉間に皺を寄せて“駄目だ”と低く唸られた。やっぱりか。そう言うと思った。


『ちょっとだけ、一口だけならいいでしょ?』
「絶対に駄目だ。煙草なんて、君にはまだ早い」
『そんな事言って。誓さんだってアタシ位の年に吸ってたんじゃない?』

ほんのちょっと意地悪く笑って見せただけなのに、パタン!と読みかけの本を閉じてこちらに向き直った。


(ヤバい。怒ってる?)


「さっきの言葉に誤りがあったので訂正する。君は一生吸ってはいけない」
『い、一生?!なんで?!』
「知っているか?煙草というのは発ガン作用があるだけでなく、ビタミンを破壊する。そのビタミンは女性にとって大事なコラーゲンを形成するものだ。百害あって一利なし、という事だ。」
『へぇ〜そうなんだ』
「理解したか」
『はい』
「じゃあもう吸いたいなどと言うな」
『一口なら…』
「駄目だ」


やっぱダメかぁ。何となく予想はしていたけれど。でもそうしたら、一体あと何があるのかな?誓さんが大好きな物で共有出来そうなもの……


「一体どうしたんだ」
『……』
「何故急に煙草なんて」
『だって…、あのね。』


昨日見たドラマでね、恋人同士がお酒を飲んでいたのね。こないだ飲んだものよりも、こっちのワインの方が美味しいねなんて言ってね。最後は彼氏が彼女に自分の吸ってた煙草を一口吸わせてあげていて……(あぁ、ここはベッドシーンだから言えないけれど)とにかく幸せそうだった。楽しそうだった。愛が溢れて見えたのね。


『だから、アタシも欲しくなったの…』
「わからないな、何をだ?」











「……そんなもの、既に俺たちにはあるだろう?」
『え??何??』
「おそろいの気持ち……」


かけていた眼鏡をカチャリと置いて、フッと微笑んでくれたキスは、煙草と珈琲の味がしたけれど、不思議と甘く感じたんだ。





2010.10.25


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