順調に埋められている模様です。
紆余曲折?を経て、意地悪な木手くんとちゃんと恋人としてのお付き合いが始まりました。
学び舎での過ごし方は相変わらずですが。
手を繋ぐようになったのが、唯一加わったことでしょうか。

すっかり習慣なってしまった放課後カフェでお茶してから帰宅するコースに則り、私たちはいまカフェにいる。
私はロイヤルミルクティー、彼はカフェモカ。
あ〜授業で疲れた脳に糖分が染み渡る〜。お茶請けのクッキーも美味しい。

もっと甘さが欲しくて、ガムシロップを足そうとしていると向かいの席に座っていた木手くんがぽつりと言った。

「週末、デートしませんか」

私の方を余裕たっぷりに見ている瞳と目が合う。
そうでした、こうやって放課後や学内で一緒に過ごしていますが、改まって外で会ったことはなかったような?
こ、これは、初デートってやつでは!?
特に予定もないし、断る理由もない。

「いいよ。どこに連れてってくれるの?」
「そうですねぇ、」

それは当日のお楽しみにしましょう、なんて木手くんが目を細めて笑うから胸の真ん中が掴まれたようにきゅっと苦しくなってしまう。
最近増えたこの笑顔の不意打ち、とても心臓に悪い。普段もっと意地悪そうに笑うのに。
私はわかった、とやっとのことで返事を絞り出した。
苦し紛れにカップの中身を啜る。

そして私は悩みがひとつ増えることになる。
デートって何を着て行けばいいの!?





今日は月曜日なので、土曜日まであと・・・4日しかないじゃない!
私もやっぱり女の子ですから、恋人からは可愛く見られたいわけであって、それには準備に時間もかかるわけであって・・・。
駅の改札で別れて、電車内の帰路でそんなことばっかりが頭の中をぐるぐる回っていた。

そして私はふとあることに気が付く。
そういえば貰った(彼が課題で作った私の体型に怖いくらいぴったりな)服を木手くんの前では着用していなかった。
一人で出かける時や友達と遊ぶ時なんかにはヘビロテといっていいほど良く着ていた。
でも学校に来ていくとなるとなんか恥ずかしくって仕方ない。だって彼のクラスメイトがみれば彼が作ったってすぐわかってしまう!
だからと言って、貰った手前着ないというのは勿体ない。服に罪はないのだ。
それを週末のデートに着て行こうかな、と。木手くん、よ、喜んでくれるよね?


貰った中でも愛用している、ミディアム丈のペンシルスカート。
優しい紫色に染まった中厚のジャガード生地を惜しげもなく使われているそれは、後中心のひざ裏までのスリットのおかげで裾捌きもとてもいい。
このスカートをメインに脳内でコーディネイトやヘアメイクを組み立てていく。
足元はどうしよう。甘辛で行きたいからスニーカーでもパンプスでもなく、ローファーがいいだろうか。

(・・・気に入ってくれたらいいな)

そしてあっという間に土曜日になってしまった。





待ち合わせは都内某駅の公園口。
そこは都立の美術館や国立の博物館、それと動物園が集まっているところだ。

(展覧会に連れてってくれるのかな・・・)

専攻分野がやっぱり芸術方面なので趣味と実益を兼ねたデート先と言ったところだろうか。


緑色のラインの入った列車が目的地に着く。
エスカレーターでコンコースに上がって、改札口を目指す。
お天気にも恵まれ、初夏の温かい気温で過ごしやすく今日は絶好の行楽日和というやつだった。
土曜日ということもあり、人であふれかえっている。

ペンギンの磁気カードを改札でタッチし、改札口を出る。
きょろきょろとあたりを見渡せば、すぐに見慣れたリーゼントヘアを見つけることが出来た。

「木手くんおはよう!おまたせ!」

私が声をかけると、見ていたスマートフォンから顔をあげて私を見る。
あれ?いま一瞬目を大きく見開いたような気がしたけど・・・。

「おはようございます。行きましょうか」

まさかの無反応?もしかして好み外しちゃった感じ?
私は気を取り直して、さぁ、と差し出された手をとって繋いだ。

ちょっとした敗北感を味わっていたのもつかの間、デートは順調に進んでいく。
チケットを購入して美術館に入っていく。

(あ、これって・・・)

「苗字さん、これのポスター見ていたでしょう?」
「え、見られてたの?」

入っていたのは私が校内でしげしげと眺めていたポスターの展覧会だった。
私がありがとうを言うと、木手くんはいたずらが成功したという風に笑っていた。
く〜〜!やっぱりずるい男だ!こんなスマートなことされたらもっと好きになってしまう!

私の脳内のちょっとした葛藤までもお見通しなのか、それともお構いなしなのか木手くんは私の手を引いてずんずんと進んでいく。
館内のロッカーに上着や手荷物を預けてしまえば、観覧する準備はばっちりだ。
手には小さなメモ帳と鉛筆。私は気に入った作品があったらメモを取りたいタイプなのである。






展覧会も見終わり手荷物を回収して、館内のカフェでランチを取ることにした。
ランチタイムも終わりに差し掛かる時間帯なこともあり、すんなりと着席することが出来た。
放課後の時同様に向い合せに座るのかな?なんて思っていたら木手くんはなんと隣に座ってきた。
カフェに入って着席するまで手は繋いだままです。わぁカップルっぽいね。カップルでした。

私が広げたメニューをふたりで覗きこむ。
自然と肩同士が触れあい、繋いだ手もいつの間にか所謂恋人つなぎになっているから驚きだ。
う、いつもより距離が近くてドキドキしてきた。

因みに今日の木手くんの服装に触れてませんでしたので、苦し紛れにここでご紹介を。
トレードマークのリーゼントはそのままに、モノトーンのロカビリー風コーデです。
(サスペンダーがちょっとエッチに見えたことは秘密にしてください。お願いします。)
シルエットをちょっと大き目にしてるから、レトロ感も抑えつつちゃんと今時っぽさもあるのが流石だ。
やっぱり自分を見せ方をよく分かってらっしゃるよね。
私大丈夫かな?ふたりで並んでも浮いてないかしら・・・。

「苗字さんは決まりましたか?」

なんてぼやっと考えていたら、木手くんの声で引き戻される。
決めておいたメニューを指さす。

「あ、うん。これにするよ」
「それも美味しそうですねぇ」
「でしょう?」

店員さんに注文してしまえば、あとは運ばれてくるのを待つのみだ。
またぼやっとしてたら、指がくすぐったいなぁ、なんて思って手を見てみれば彼の親指と人差し指で私の同じ個所を撫でられていた。
指を撫でられていたかと思えば、手全体を弄ばれる。もちろんテーブルの下で人目からは見えないと思うが。
どんな顔しているのかと木手くんを盗み見れば、頬杖をついて、前をぼうっと見ているだけだった。
耳も頬にも赤みを見られない。いたって平常心なお顔だ。

私の勘違いでなければ、やっぱり今日はスキンシップが多くないだろうか?
さっき館内のベンチで休憩してた時も自然な感じで腰に手を回されたし、隣に座ったりもそうだし、手もいまこんな状況だし・・・。
はっ!これはもしかしなくても、今日なコーデが大成功なやつでは?
なんだも〜〜そうならそうって言ってくれればいいのに。私は内心ちょっと有頂天になってしまった。
もちろん大成功だったらいいな、という願望も含まれているけど。






ご飯も食べ終わり、食後のお茶をいただいています。
木手くんは食べ方も綺麗なんだな、なんて思って久しぶりに観察していたら、ちょっと見すぎじゃないですか、なんて言われてしまった。


「ねぇ、今日の服似合ってるね。カッコいい。ロカビリー風?」
「ありがとうございます。よくわかりましたね」
「私もね、レトロっぽいの好きだから」
「なるほど」

ふふん、と上機嫌な様子でコーヒーを口に含む木手くん。


「ねぇ、私は?」

不意打ち(でもないかも)で感想を求めてみた。
あ、木手くんが固まった。


「ちゃんと感想言ってくれないと、もう貰ったもの着ないよ?」


うそです、もう既に一人でヘビロテしてます。

ん?ん?と強請るように距離を詰めて返事を催促してみる。


「お、俺の想像以上に似合ってますよ・・・」


左手で顔半分を多いながら答えてくれた。
お顔もちょーっと赤いような気がする。
この態度には私も調子に乗ってしまう。

「ありがとう、嬉しい」

未だに照れた様子の木手くんの目を見て、また着てくるね、と私は破顔した。
とびっきりの笑顔でお礼が言えたかしら?




―さぁ、楽しくデートを続けようじゃないか!






帰り道

「木手くん、今日めっちゃさわさわしてきたねぇ・・・」
「・・・え、そんなに触ってましたか・・・?」
(まさかの無意識だった!?)
「・・・スキンシップは嫌じゃないよ?」
「そうですか、でしたら次からはもっとしても大丈夫そうですね」
(あれ?これもしかして言質とられた?)
「もう遠慮しませんよ」


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