ね、はやぶさ。
私が小さく呟いたのにも関わらず隼総は振り返った。その金色の瞳は細められて視線はまっすぐ私に向けられている。「どうした?」その表情は周りの女の子達と接する時の人当たりのいい顔。ああ、こんなの隼総じゃない。私が知ってる隼総は二人きりになると途端に上から目線で物を喋って私のことをすぐに馬鹿にするような奴だ。性格があまりよろしくない。悪く言えばそうでも、よく言えば私の前だと素を見せてくれているということ。なんだかんだ言って最後には可愛いだの、好きだのと気持ちをストレートに伝えてくれる隼総が私は本当に大好きだったのに。隼総の性格が変化したのには思い当たる節がある。確かあれは一週間ぐらい前の話だ。

好きな人とかいないの?という質問から始まり、隣のクラスの何とか君がかっこいい、さらには自分の彼氏の自慢話エトセトラ。女の子というのはどうして集まるとすぐに恋愛の話をしだすのだろうか。恋愛が絡むと話題は尽きることなく、最近じゃあほぼ毎日のように休み時間になると恋愛トークが繰り広げられる。ちなみに私は彼氏持ちということで毎回強制参加らしい。話を聞くのはもちろん嫌いじゃない。むしろ好きだ。ただ喋りの方が得意じゃないだけ。だから私はいつも話を振られない程度に友達の話を聞いていた。話を聞いて、わかるわかると口では共感しているものの実際は全然わかっていないことの方が多かったりもする。そんな私にとってハイレベルな恋愛トークの本日の話題は好きなタイプについてである。それぞれが細やかに自分の好きなタイプや、なぜかフェチまで話を発展させる中、私はやっぱり聞き手の方にいた。さっきも言ったように話すのは得意じゃないし、皆のように語れるぐらいたくさんの恋愛経験をしてきたわけじゃないからすぐに自分の話題が尽きてしまうだろうと思ったからだ。しかし、今日の話題は好きなタイプというもの。これは誰だって話せるものである。いつ振られてもいいように答えを考え「ねえ、名前の好きなタイプは?まあ、あんたには隼総くんがいるからねえ」…え、もう私の番?ちょっと早すぎるんじゃないかな?わくわくと期待の眼差しを向ける友達には申し訳ないけど、咄嗟に頭の中に浮かんだものはかなり有りがちで自分でも面白くないと思えるような回答だった。

「………やさしい、人かな。うん!」

嘘ではないから別にいいよね。付き合うならば優しい人。これは多分基本中の基本だろう。たっぷり間を開けて言った後で友達の反応を伺うと、「わかるわかる。やっぱそうだよね!」どうやら共感してくれたみたいで。そこから話が発展して私と隼総について質問攻めされそうになった時にタイミングよくチャイムが鳴った。皆それぞれ自分の席へと残念そうに戻っていく姿を見て苦笑しながら私は次の数学の準備に取り掛かったのだ。

…多分この時、私の適当に言った安易な思い付きを教室から戻ってきた隼総がたまたま聞いていたんだと思う。私の方もまさかそれを隼総が鵜呑みにするだなんて思ってもいなかった。その日を境に、隼総は私に対してそれはそれは優しく接するようになったのだ。それはもう、「なんか、知らない人みたい」そう思えるぐらいに。ほら、今日もそんな他の女の子に見せるのと変わらない顔をしちゃってさ。以前とは大違いだよ。私がそう言うと隼総はびっくりしたように目を見開いた。

「なに、優しい俺は嫌?」
「嫌じゃないけど…やっぱりいや」
「どっちだよ」
「私は、」

優しい隼総もいいけど、私は前の隼総が一番好きなんだよ。ねえ、だからさ、「いつもの隼総に、戻ってよ」今日の私どうしたんだろう。普段言わないようなことが口からするすると出てくる。顔に熱がじんわり伝わっていくのを感じた。だけど私は林檎のように赤くなった顔を隼総に見られることはなかった。隼総が私を引き寄せてそのまま腕の中にすっぽり収めてしまったからである。女の子慣れしてるなあ、なんて自分では余裕そうなフリをしているくせに本当は心臓がばくばくと煩くなっていた。「お前、かわいすぎ」「む、私のことからかってる?」見上げた隼総の顔は笑っていた。私は至って真面目だったのにひどい。

「お前が優しいやつがタイプとか言うからよ…聞いた時一瞬普段の俺への当て付けかと思ったわ」
「あの時は言葉の綾で…って、誤解させたなら謝るけどさ。あのね、私は好きになった人がタイプなの。だから私はいつもの隼総がいいんだってば」

不意に隼総が無遠慮に私の頭を撫でてきた。そのせいで髪がぐしゃぐしゃになっちゃったじゃないか。軽く手櫛で直していると「ほら、帰るぞ」と今度は手を差し出された。…もう、私はずっと前から隼総の優しい所たくさん知ってるんだからね。私の顔にも笑顔が戻る。「ありがとうね、隼総」そう言って私も隼総の手を握り返した。「…ばーか」ねえ、後ろを向いていても耳まで真っ赤なのバレバレなんだけどな。


きみはやさしいひと
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