「おぉ、シュート入った。」
日がほんのりと赤くなってきて長い影ができはじめる頃。
数々の運動部の中でも一際大きな声を出している部活。サッカー部。
それもただのサッカー部ではない。今や雷門の誇る全国クラスの強豪部なのだ。

そんな彼らを見てうっとりする私は所詮ミーハーというやつである。
教室の窓からはそのにぎやかな様子がよく見え、密かなお薦めスポットだ。
「あ、円堂君。」
今もシュートを決めた豪炎寺君が円堂君とハイタッチしている。
不特定多数のサッカー部ファンの一人。という位置づけの私だが、そんな姿を見ると少しだけ優越感を感じてしまう。

そんなわけで私はこの一ヶ月に一度回ってくる日直の仕事が嫌いでない。
頬杖をついた目の前にあるのは既に書き終えた当番日誌で、私は人待ちというわけだ。
いや、人待ちという名目でサッカー部ウォッチングをしているのだが。

だって一人で教室掃除するなんで仕事量が等しくならないし?
どうせやるなら二人でやった方が早いに決まっている。
何事も分担。男女平等。

うんうんと一人勝手な言い訳を考えながら、もう一人の当番がゴミ出しから帰ってこないことを願った。





ブオオオオオオオオン

あれ?
掃除機のような音に目を開けると、今さっきまでの記憶がない。

そもそもここは……。あ、机?そうだ当番で。
そこまで思考を巡らせてやっと今の今まで居眠りしていたことがわかった。

やってしまった!

そう思いながら体を起こすと強い西日が目に直撃する。
「うわ、眩し……っ」
思わず出てしまった呟きに黒板横の人物が振り向いた。

「ごめん。起こしちゃった?」
あちらも眩しそうにしているのはもう一人の日直、サッカー部の半田真一。
手に持っているのは黒板消しのようで、掃除機のようだと思ったのは黒板消しクリーナーの音だった。
ざっと教室を見回すと、机も綺麗に整えられて黒板もまっさら。おまけに箒とちり取りが隅に並べられている。

「嘘……。掃除全部してくれたの?」
「え、まあ一応。」

「……」

あまりのことに言葉が出ない。
なんてことをしでかしたんだ私は。

「ごごごめん! 私寝ちゃってて! 寝るつもりとか無かったんだけど!」

仕事をさぼったから罰が当たったんだ。
それでもこれがばれたらサッカー部から嫌われるなんて思ってしまう自分が憎らしい。

「ホントに……ホントにごめん!後の仕事全部やっとくから……!」
とはいっても、もうほとんど仕事なんて残っていない。
それでもやらないよりかは、と思い立ち上がろうとしたとき肩に掛かっているものに気づいた。


半田の学ランだ。

「え。」

どおりで重いと思った。
まさか……掛けてくれたのか。

怪訝そうに学ランを見る私を見て「別にそんな臭くねーぞ。」と眉間にしわを寄せ半田が言った。
「いや別にそういうわけじゃ、」

「疲れてたんだろ?」
「へ?」
「部活頑張ってるし、今日も眠そうにしてたし。」

な。と先ほどとはうってかわって微笑まれる。

な。って……。な。って言われましても……。
なんでそんな知ってるんだとか、確かに昨日は課題のせいで寝不足だったとか。
そんなの関係なく頬の熱が急上昇していく。

当の半田はさっさと黒板消しを元の場所に戻していて私のことに気づきもしない。

どういうことだ。そんな……まさか。


「えと……、わたし……。」
「ん?ああ仕事?別にいいのに。」

真面目だなー。とか、いやいやそんなんじゃなくて。

「じゃあもう日誌返すだけだからさ。一緒に職員室ついてきてよ。」

再びはにかんだ半田は最後のとどめだった。

いやだって、私はサッカー部そのものが好きで。
それもその……なんというか。見てるのはスタメンとかはっちゃうような超次元的な人達で。
風丸君は今日も美人だなー。とか、鬼道君見えてるのかなー。とか。
そんな小さな楽しみを見つける日々が続くと思っていたのに。

よりによってこの。
正直サッカー部員Aぐらいにしか思ってなかったこいつの。

こんな優しさに触れてしまったら。

「学ラン……ありがとう」
「別にいいって。俺が勝手に掛けただけだし。」
「……でも、嬉しかったよ。」

そう言うのが精一杯になるくらいにはノックアウトされたのだった。


それは意外なところに落ちている
≫Shinichi.H…ゆきんこさま
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -