CHEESE!



※意味不明

今日はバイト先であるファミレスはある噂で持ち切りだった。ファミレスでと言っても働く奴らの間でだが。
その噂ってのは今日から入るバイトが女らしい、しかも可愛いらしい、という何とも簡単なものだ。俺自身、興味がないと言えば嘘になるが、裏方に人手が足りなかったから助かるのは助かる。


「で、何時から入るんだ?」

「フリーターらしくて昼は違うバイトなんだってよ。だから夜からだと」

「ふーん」


そんなことまでぺーぺーのバイトに知れているとは問題じゃないのかとも思ったが、口には出さないでおいた。


「名前は」

「え?俺の?」

「ちげーよ。その新入り」

「ああ、何、やっぱ高杉も気になるんじゃん。でもお前は手だすなよ?女に困る俺らに譲れ」

「知らねーよ、お前の女事情は。名前聞いてんだ」

「んーと、たしかみょうじなまえちゃん」



みょうじなまえ……なんか聞き覚えがある。誰だっけか



******



それで、野郎共がなんとなく浮足立ったまま新入りがやってきた。皆の前で紹介されて顔を見たが、たしかにすっきりとした顔立ち、片方にまとめた髪はウェーブがかって、雰囲気までもがふわふわしていて女らしかった。でも何かがひっかかる。見覚えのある顔だ。


「みょうじなまえです、よろしくおねがいしまーす」

「「「よろしくお願いします!」」」



思い出せそうだったのに野郎共の無駄に元気過ぎる声で思考が止まった。どうにか気に入られようとしているらしい。ああ、もうこいつら……
呆れて視線をそらすとみょうじと目があった。すると驚いて目を見開いた。やっぱり会ったことがあるのだろうか…


紹介が終わり、それぞれが持ち場に戻って俺も例に漏れず注文の料理に取り掛かるとみょうじが俺に近づいてきた。


「秘密にしといてよね」

「……」


悪戯っぽく笑い、口に人差し指を当てて、それだけ言うと離れていった。まじで誰だったっけあいつ。クソ、もやもやする。



休日の夜のピークが過ぎ、客足も疎らになってきたところで俺は休憩室に入る。椅子に腰掛け、ポケットに入っていた煙草とライターを取り出し火を点ける。数時間ぶりの煙草をよく味わうように深く吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

落ち着いたところでみょうじのことを考える。みょうじなまえ。絶対に聞いたことがある名前だし、顔にも見覚えがある。だが多分、会ったのは結構前のことで、一回しか会っていない。でもインパクトがあったはずだ。それに秘密にしとけってのも気になる。何か胸騒ぎがする。

吸い終わった煙草を携帯灰皿に押し付けたところで俺はやっと思い出した。一刻も早くあいつを追い出さねェとヤバいことになる

俺が立ち上がると同時にとてつもない爆発音。厨房だ。もっと早くに思い出さなきゃならなかった。

俺は音のした方へ走った。


*****


厨房はそれはもう悲惨な状況だった。皿やら鍋やらが床に転がり、辺り一面焼け焦げている。爆発が起きたであろうその中心にいるのはやはりみょうじなまえ。俺は近づいた。そうだ、こいつこそ……


「お前ェ、チーズ爆発事件の女だろ!」

「あれ、気付いてなかったの?なぁんだ、ばれたんだと思ってたのに」

「お前はもう捕まれ」

「やーだよ。じゃあ私逃げるから!ばいばーい」

「あ、オイ!」



捕まえようとした俺の腕をひらりとかわし、あいつは凄まじい速さで逃げていった。



「あの子、高杉の知り合いか?チーズ…?」


さっきまであんなにはしゃいでいた奴が黒い煤塗れになっている。


「一回だけすれ違った。イタリアンの店から全速力で逃げるあいつと」

「え、何?前科あり?」

「数えきれねェくらいやってるらしい」

「結局あの子は何したんだよ。ピザ作ってただけのはずだぜ?爆発物なんか持ってそうになかった」

「俺も詳しくは知らねェが、チーズを使って料理するとチーズが爆発するらしい」

「……頭大丈夫か?高杉」




チーズ一つで爆発の元!


(こんなインパクト与えられたらもう忘れられねェ)






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