恋愛物語には余興も大事
昼休み。
食堂にお昼を求めに行く人や購買でパンを買ってくる人や教室でお弁当を食べる人などで学校中が和やかに賑わう。
そんな中私は教室でお弁当派だ。友達と机をくっつけてお弁当を食べながら雑談、そんな昼休み。
「いいよね、なまえは高杉くんゲットしてさ」
「ゆみだって彼氏いるじゃない」
「あれはもう全然。ここしばらく手繋いだりキスもしてないっつーの」
「そんなの私だってそうだよ」
「嘘だあー」
「ていうかしたことないし」
「……は?」
そのあと散々彼女に叱られた。
でも、私と高杉くんの関係なんて、帰りに高杉くんが教室まで迎えに来てくれて、私の家まで送ってくれる。それだけだ。
付き合ってることには付き合ってる、ちゃんと。でも隣に並んで歩くだけで、言葉を交わすだけで、どきどきするから。
それだけで幸せで、それ以上を望むなんて贅沢だと思ってしまう。
…そう話したら「高杉くんも大変ね」って言われてしまった。
恋人に触れたいと思うのは当然で、贅沢でもなんでもない。むしろ恋人になったことでその権利を得たんだって。
しかもその触れたいって思いは男の人のが強かったりするらしい。
私にとってその話は衝撃的だった。午後の授業が一つも頭に入らないほどに。
* * * *
放課後になり高杉くんが迎えに来てくれて、いつものように一緒に帰る。…でも一ついつも通りじゃないのは、私の心が充実してなくて、薄く靄がかかってるみたいだ。
「…手相でも見れんのか?」
「へっ?」
「ずっと手見てんだろ」
「う、ううん。そうゆうわけじゃないよ」
「そうか」
「…今日ね、友達と話してたんだけどね、あの…」
「なんだ?」
「たっ、高杉くんは…その…私と手つなぎたいと思ったことある?」
「……」
拍子抜けしたように高杉くんはこちらを見た。
勇気をだして言ってみたけど、ものすごく恥ずかしい。埋まってしまいたい
「ごめんね、いきなり…。忘れてい「ある」
「え?」
「いつだってお前に触りたいと思ってる、心配すんな」
「え、えと」
「不安になったんだろ、その友達の話聞いて」
「う、うん…」
気持ちを見透かされたことに、今度は私が拍子抜けしてしまった。
そうだ、ゆみの話をきいて、皆そんなに早く色んな経験をしているんだと焦りを感じた。高杉くんが無理してたり我慢してるんじゃないかとか、触れてこないのは私をあんまり好きじゃないんじゃないのか、とか。くだらないけど不安になった。
そんなことも見透かされていたことがまた恥ずかしくて思わず俯いた。
「だからって無理に求める気はねェよ。お前の性格は知ってるしな」
「なんだか…すみません」
「くっ、なんで謝るんだよ」
「た、高杉くんこそ何で笑うの!?」
目を細めて大きく笑いたいのを堪えるように小さい拳で口元を隠しながら笑う高杉くんは、いつもより幼くみえる。
その笑顔につられて私も笑ってしまう。私はこの表情が1番好きだ。
夕日に照らし出された影が繋がるまでに、
そう時間はかからない