退屈




「…さぼりたい」


私はぼそりと呟いた。
それは誰かに向けて投げかけたわけではなく、もちろん誰かに返事を求めたわけでもない。ただ、零れてしまった。
このお昼の後の授業が退屈で退屈で仕方なくて思わず出てしまっただけなのだ。
窓際の後ろから2番目という素晴らしい席から窓の外に目をやれば、雲一つない快晴で。そりゃあ、窓際で授業中にひっそり行うプチひなたぼっこも素敵だけど、こうも気持ち良く晴れられてしまっては外で盛大にひなたぼっこがしたくなる。そんな素敵な天気だってのになんでわざわざクソつまらない授業を狭っ苦しい教室で受けなければならないのか。甚だ疑問だ。なんで今日は天気がいいから外で授業をやろうか!みたいにならないのか。(…外に出たら授業を受ける気になんかならないからやっぱりいいや)ひなたぼっこがしたい。とりあえずこの教室から出たい。
……なんてことを授業中にずっと考えていた。

そしてお昼後の最初の授業は終わった。今日はあと2時間授業に出なくては帰れない。ため息が出た。

でも次の授業は銀八だからまだいいか。どうせ自習だ。寝てよう

そう思って机に突っ伏し寝る体勢に入るものの、なかなか寝ることが出来ない。それでも頑なに寝る試みをしていたらチャイムが授業の始まりを告げた。またため息をついて突っ伏していた体を起こす。小さめに伸びをして前を見ると銀八が教室に入ってくるところだった。私はもう今日何度目かわならないため息をついた。こんなんじゃ幸せが逃げまくりだ。好きでため息をついてるわけじゃないのにな。

もう寝るのは諦めることにして私は先生を見た。するとやっぱり自習を告げられた。クラスの皆も慣れたもので、誰も文句を言わずに騒ぎだす。まあそもそもそんなに静かじゃなかったけど。
何、しようかな。
そう考えてうーん、とまた外を見る。本当にいいなあ。

「そんなに退屈?」

不意に隣の席から声をかけられた。驚いて勢いよく振り向くとにっこり微笑む山崎くんがいた。

「え?」
「授業中に"退屈"って呟いて、休み時間に何回もため息ついてたから。……そんなに退屈?」
「えっと、退屈っていうか何て言うか…ええと……」
「俺は楽しいけどな、騒がしいの嫌いじゃないし」

その後に何か小さく呟いた気がしたけどよく聞こえなかった。

「…山崎くんは、いい人だね。」
「……俺はいい人なんかじゃないよ」
「え?なんで?」
「うーん…」

少し考える仕草をしてから山崎くんはいたずらっぽく笑った。

「じゃあ、教えてあげる」
「え?」

疑問符を浮かべたままの私を一瞥して山崎くんは立ち上がった。そして先生の元まで歩いていって何やら先生に伝えている。一体どうしたというのか。しばらくして戻ってきた山崎くんに何を話してたの?と聞く前に山崎くんに腕を掴まれた。

「立って」

「へ?」

半ば無理矢理立たされてドアの方へ引っ張っていかれる。

「え、ちょ、山崎くん?」

そして教室から出た。

「よし。」
「や、まざき、くん?」

私より少し背の高い山崎くんを見上げて名前を呼ぶけど笑って交わされてしまった。そしてまた山崎くんは私の腕を掴んだまま歩きだす。もう何を聞いてもきっと答えてもらえないのだろうと悟って私は山崎くんに疑問を持ちながらも山崎くんについていく。廊下の突き当たりの階段を上っていくからきっと屋上に行くのだろう。

やがて屋上のドアの前に着いて、山崎くんは立ち止まって私を振り返った。

「ね、俺はそんなにいい人なんかじゃないよ」
「ううん、いい人だよ」

そう言って私は山崎くんを通り過ぎてドアを押し開けた。待ち望んでいた、目が眩むような光が私達を包む。私は一歩踏み出してドアノブを握ったまま山崎くんに向き直る。

「だって私の希望、叶えてくれたじゃない」

ね?、と私は微笑んだ。

「ひなたぼっこしよーよ。私、今日ずっとしたかったの」
「そうだね」

そう言って山崎くんも微笑んでくれた。




―二人並んでひなたぼっこ―

「俺さ、君の隣が凄く落ち着くんだ」
「へっ?」
「ふふっ、俺はみょうじさんが好きってこと」
「…っ」
「みょうじさんは?」
「え、えっと…私も、山崎くんの隣が落ち着く、よ…」
「よかった」



山崎くんは男の子だから、こんな風に言うと怒られちゃうかもしれないけど、この時の山崎くんの笑顔は凄く綺麗だった




++++


※おまけ(山崎視点)


おまけ



俺の片思いの相手である隣の席のみょうじさんはお昼過ぎから随分つまらなそうにしていた。
遂には

「…退屈」

そう小さく漏らしているのが聞こえた。
本当にどうしたのだろう。
休み時間に入ってもそんな調子で何度もため息をつくし机に突っ伏すしで俺の心配は大きくなっていった。授業が始まってから俺は思い切って話しかけてみた。

「そんなに退屈?」

すると彼女は驚いた様子で俺を見た。話しかけられると思ってはいなかったんだろう。

「俺は楽しいけどな、騒がしいの嫌いじゃないし」

小さく君の隣にいられるしね、と言ったんだけど聞こえなかったみたいだ。
結構勇気出したんだけどな……

「…山崎くんは、いい人だね。」

何をいきなり言い出すんだ。俺そんないい人な発言した?
なんとなく、そう言われたことが悔しくて(何故だかわからないけど)俺は彼女と授業をサボろうと決意した。ずっと空を見ていたみたいだし。
それから銀八に彼女の体調が優れないとかなんとか言って保健室に送ってくる旨を伝えた。それから頭に?を浮かべている彼女を教室から連れ出して屋上へ向かった。

「ね、俺はそんなにいい人なんかじゃないよ」
「ううん、いい人だよ」

何を言うんだろう。
勝手に授業をサボらせたっていうのに。
彼女は俺の横を通り過ぎてドアを押し開けた。そして俺の方へ向き直る。

「だって私の希望、叶えてくれたじゃない」



そう言う彼女の笑顔が眩しくて目が眩みそうだった。





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