恋風、吹け
「ふぅ…」
ため息をついた。
……することがない。縁側に腰掛けて綺麗に干された洗濯物を見る。いつもいつも若いからと言って仕事を多く押し付けられるのだけれど、今日は新しい女中さんが入ったらしく、テストをするみたいだ。最近、副長とか沖田隊長とか目当てで女中を希望する人達が増えているのだ。
だから今日は私は一日お休み。なんか花嫁修行みたい、と年配のベテラン女中さんにあーだこーだ言われている新人女中を横目に朝からのんびりしている。最初は久しぶりのお休みだ、と思ってはしゃいだのだけど、こうもやることがないと暇なだけ。
昼寝でもしようか。でも朝もいつもよりゆっくりだったし、あまり眠くない。うーん、と悩んでいると遠くから声が聞こえてきた。なんとなく声のする方へ行くと山崎さんがミントンの素振りをしていた。わーお、暇潰しが出来る!
「山崎さーん」
「あれ?なまえちゃん、どうしたの?」
「新人さんのテストで私の仕事全部取られちゃったんですよー」
「あーまたか。全部取られたって、今度は多いの?」
「そうみたいです。」
「副長とか人気だからなあ……で、なまえちゃんは何してるの?」
「休みなのはいいんですけど、することないんで山崎さんミントンでもやってくれないかなーと」
「あ、本当?じゃあラケット持ってくるよ!」
そう言ってすぐに走っていってしまったと思ったらまたすぐにラケットをもう一本持って帰ってきた。
「はい!」
「あ、ありがとうございます」
「久しぶりだなぁ、羽打つの」
「いつも素振りばっかりですもんね」
「そうなんだよねー」
すぐに副長に怒られちゃうし、と言って山崎さんは苦笑いを零した。
トン、トン、トン、と上手いこと続く。
「なまえちゃん上手いんだね」
トン、
「いやいや、山崎さんが打ちやすいように返してくれるからですよ」
トン、
「あはは、ありがとう」
トン、
「…ところで、」
トン、
「ん?」
トン、
「これどのくらい続いてます?」
トン、
「あーどのくらいだろうねー?」
トン、
「そろそろ腕が痛いんですけど…」
トン、
「うん、俺も疲れた。止めようか」
山崎さんは私が打った羽を手で止めた。それで休憩の為に二人で縁側に座る。
「私、あんなに続いたの初めてです」
「だろうね、俺頑張ったもん」
「……へっ?」
「だってさ、ちょっとでも君とミントンしてたかったんだもん」
「…!」
あーあ、言っちゃったーと暢気な声を出す山崎さん。
私は驚きを隠せずに山崎さんを見つめる。
「え、えっと…それは告白…ですか?」
「うん」
あっさり肯定の言葉を返してくる山崎さん。特に恥ずかしがらずににこにこと笑顔だ。
「……私が女中になったのって、あの新人さん達と同じ理由なんです」
「……へえ」
少し山崎さんの笑顔が曇る。
「…まあ、副長とか沖田隊長とかじゃなくて地味な密偵さん目当てですけどね」
どちらともなく目を合わせて笑った。
そしてどちらともなくキスをした。
恋風、吹け
(髪が風に揺れて互いに綺麗だと思った)
(そういえば山崎さんも今日はお休みなんですか?)
(いや、仕事だよ。)
(また怒られますよー?)
(俺今幸せ気分だから怒られても平気平気!)
(ほォ…じゃあご希望通り怒らせてもらおうか)
((!))
(ふ、副長…)
(山崎さん、隊服のお洗濯の準備してますね!)
(え、ちょ、なまえちゃんんん!?)
(山崎ィィィィィイ!!)
(ぎゃあああああ!!)