素直じゃない彼氏の優越




私は手鏡で自分の顔を見て溜息をついた。そして思う。

(もう、耐えられない)

うん、もう耐えられない。あの人にヘルプを頼もう。思い立ってすぐに私は部屋を出た。

私は一番隊副隊長だ。だけどそんなことは関係ない。耐えられないものは耐えられないのだ。

「土方さーん、起きてますかー?」

私は襖越しに声をかける。やや間があって、

「…入れ」

返事があった。私は勢いよく襖を開けて、更にプールに飛び込むような勢いで机に向かって書類仕事をしている土方さんの背中にひざまづいた。

「土方さんお願いがあります!」
「お前は今何時だと思ってんだよ…襖閉めろ」

書類に目を向けたまま呆れ声で言われた命令に私は大人しく従ってから、もう一度正座をした。

「お願いがあります、土方さん」
「なんだ?」
「とりあえず私の目を見てお話ししませんか」

すると土方さんは私の方に向き直ってくれた。

「まだ始末書残ってんだから手短に……」

私を見て土方さんは目を見開いて言葉を切った。

「おま、なんだその目…」
「片目だけが痒くて痒くて…」
「そんで擦りまくったのか」
「はい…」
「目薬は」
「持ってます」
「それでも駄目だったのか?」
「いえ、点してません」
「は?」
「私、自分で目薬点せないんですよ」
「は?」
「だから点してくれません?今も痒くて仕方ないんです」
「そんなん頼まれたことねーぞ」
「私も家族以外に初めて頼んでます」
「眼科行けよ」
「この夜中にですか」

そう、もうとっくに日付は変わっている時間なのだ。

「…じゃあやってもいいが俺ァそんなことしたことねーからな」
「はい、まだ使ってないのでいくらでも失敗は出来ますよ!」
「はぁ…頭乗せろ」

土方さんはぽんぽんと胡座をかいている自分の片足を叩く。私はそこに失礼する。

「申し訳ありません…」

言いつつ失礼して仰向けに体を横たえた。そうしたら土方さんと目が合った。

「…おい、」
「なんでしょう」
「目開けろ。開けなきゃ出来ねーだろ」
「む、無理です…」
「何が無理なんだよ」
「やっぱりいいです……恥ずかしくて無理です」
「……」

返事が無くなってしまったので、恐る恐る片目を開けてみると、そこに愛しい人の姿は無くて。そのかわりに視界一杯に白い何かがあった。それが目薬の先端部分だと気付いたのと同時に私の目に目薬が点された。

「うあ!」

素早く目を閉じたが遅かった

「しばらくすりゃ治るだろ」
「不意打ちなんて狡い…」
「やってやったんだから文句言うな」
「でーもー」
「うるせぇ、早く寝ろ。明日も仕事だろーが」
「…そうでした。じゃあおやすみなさーい」
「おう」
「土方さん、ありがとうございました」
「おう」

感謝はしているのだけど、なんだかもやもやする……素っ気ないというかなんというか。おやすみなさいとは言ったものの私はまた書類と睨めっこを始めてしまった土方さん(の背中)を眺める。

うーん、流石私の恋人。大きくて逞しい背中は文句なしね。いつもは隊服で見えない首筋も今は着物を着ているから見える。ああ、なんか色っぽい。女装でもすればいいのに。あ!舞妓さんの恰好したらどうかしら!きっと似合うわ…あ、やだちょっと本気で見たくなってきちゃった。今度土方さんが寝てる時に沖田隊長とやってみようか。きっと隊長なら乗ってくれるわ!よし、後で誘ってみ「ちょっと待て」

「どうしました?」
「俺は女装なんてしねーぞ」
「え……なんですか、エスパーですか伊藤さん」
「伊藤じゃねぇよ。全部口に出てんだよ」
「やだ私ったら」
「つーか何なんだよお前は。さっさと寝ろ」
「はーい…」

仕方なく土方さんの部屋を出ようと襖を開けたら後ろから声をかけられた。

「その目、誰か他の奴に言ったか?」
「言いませんよ。あんなの見せられるの土方さんくらいですもん」
「そーか」
「?」


素直じゃない彼氏の優越
まあ、あんな泣いてるみたいな目他の奴に見せたりしたら殺すけどな




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