ストーカー症候群


ずっと見てた。
あなたの後ろ姿。
痩せてるくせになんだか逞しい背中、栗色のさらさらした髪の毛。
夏服の期間だけは学ランを着ないからその素晴らしい背中をYシャツ越しに見ることができる。
あーずっと見ていられる。
飽きないわ。
寧ろずっと見ていたい。
え?なんで後ろ姿かって?
だって私、


ストーカー症候群



でもね、私変わろうと思う。いや、別に友達に恋バナしようと言われて彼の背中について熱く語ってあげてたら「ストーカーじゃん」と一言言われたからじゃないのよ。うん、本当に断じて…違…う。あーなんか涙が出そう。
ああそうですよ。勇気が無くて正面から見られないから背中が好きになっちゃったのよ!でも今日から私は変わるの!そう、告白!

………とまあ大きな決意をしたまではよかったんだけど、よく考えたら話したこともないから告白をするチャンスが無い…どうしよう…?朝からずっと考えてるけど何もいい案は浮かばない。なんてったってストーカーになってしまうような人間だ。恋愛経験が豊富なわけがない。

(なんか二人っきりになれたりしないかなー)

何となく教室を見渡す。今は銀八の授業だから皆自由にしている(いつでも自由だけど)。銀八は黒板に大きく"糖"と何度も書いては書き直している。納得のいく出来ではないらしい(十分綺麗なのに)
そしてそのまま視線を黒板の真ん中から横にずらして日付の書かれている方を見る。誰が書いているのか分からないがいつも日付は有り得ない日付が書かれている。

(今日は206月32日…)

一体いつから数えているのか分からない
だいたい一ヶ月は何日なんだ。そしてそのまま視線を下にもっていくと日直の欄に自分の名前をみつけた。

「今日、日直だったんだ…………あれ?」

…私は結婚してたっけ?いやいや、身に覚えがないって。何度目を凝らしてもそこにはこう書かれている。

"沖田 なまえ"

いやいやいや、普通に<,>が抜けてるだけだし。落ち着け私。何ちょっと嬉しくなってんだ。…でも、待てよ…これって………チャンス?

思わぬ所にチャンスを発見して幸せに頬を綻ばせていたらあっという間に一日が終わり、放課後になった。
……………………放課後?駄目じゃん…折角チャンスが訪れたのに全然活かせてないじゃん。なんか放課後の教室に一人なんですけど。

「折角のチャンスが…」
「何のチャンスでさァ」
「!?な、なな何でいるの!?」

入学式で一目惚れした時以来かもしれない。正面から顔を見たのは。

「部活に行こうとしたら銀八に今日みょうじと俺が日直だったから日誌書けって日誌渡されたんでさァ。じゃ、頼んだぜィ」

私の机に日誌を置いて沖田君はスタスタと教室から出て行こうとする。
……勇気だ私…!

「ま、待って!」

勢いよく立ち上がったためにガタン、と椅子が音をたてて倒れた。

「何でィ」

まんまるのくりくりとした目が私の目を見た。

「あ、や、あの、二人で書かないと、まずいんじゃないかなーと…」

沖田君は少しだけ考えるように目を伏せた。でもすぐにまた私の方を見た。

「最後の反省のとこだけ書いてやりまさァ。待っててやるから他のとこ全部書きなせェ」

沖田君はそう言うと私の前の席に座った。

「う、うん!」

私も先程倒してしまった椅子をなおして腰掛けた。沖田君が置いた日誌の1番新しいページを開く。そしてシャーペンを持ち、さらさらと書いていく……つもりだったんだけど、沖田君がずっと私の手元を見ているものだから字が震えている。どうしよう…
不意に沖田君が声を上げた。

「寒いんですかィ?」
「へっ?」
「寒いから震えてんじゃねーのかィ?」
「あー、そうそう。ちょ、ちょっと指先が冷えちゃって」

咄嗟の小嘘だ。ふーん、と呟くと沖田君はおもむろに私の手を握った。

「っ!?」
「本当でィ。冷えてらァ」


――――――――――――


みょうじ なまえ。
こいつが俺に惚れてることは知ってまさァ。なんせ、毎日毎日視線を感じますからねィ。それにさっきからずっと顔が赤い。指先が冷えたとか言うからからかうつもりで手を握ってみれば耳まで赤くなった。そこで俺は俺のことを見るなと突き放そうと思ってた。

「本当でィ。冷えてらァ」

でも出来なかったこんな、見てるだけのストーカー女に気があるのか。俄かに信じられないが手を握ってからずっと俺の心臓は煩くなっている

「みょうじ。」

―――――――――――――


沖田君は私の手を握ったまま私の方を見て何か考え込んでいる様子だ。何故私の手を握って考え事…?凄く幸せなことは幸せなんだけど顔が熱くてしょうがない。私も手を握られながらそんなことを思っていると沖田君がまた口を開いた。

「なまえ、」

突然のことで少し驚いたが伏せていた目を上げた。

「さっき言ってたチャンスはいいんですかィ?」

え…ばれてる…?なんで?あっ友達がなんか喋った?長々と沖田君の背中について語ってたことがばれてた?それとも今私の顔が赤いから?(熱いから多分赤い…)

頭の中が混乱中でオロオロしているとまた沖田君が口を開いた。

「ほら、さっさとしろィ」
「えっと、…ご、ごめんなさい!」
「…は?」

ま、間違えたァアアアア!背中について語ってたっていう辺りで申し訳ない気持ちになってたからつい謝っちゃったよ…!

「なんか俺に謝るようなことでもしたのかィ?」
「え、あ…してない……かな…?」
「何だそりゃ」

折角沖田君がチャンスをくれたんだからちゃんと言わなきゃ…そうだよ。そのために勇気を出して呼び止めたんだから…!

「お、沖田君!」
「何ですかィ」
「好きです」

少しの沈黙。破ったのは沖田君。

「よく言えやした」

……え?

「じゃ、遠慮なく」

そう言って沖田君は私の顎を掬って
キスをくれた。




(おーおー耳まで真っ赤)
(う、煩いよっ!…あれっ?)
(何でィ)
(なんだ。沖田君も顔赤いじゃん)
(煩ェや)
(い、痛い!ほっぺ抓らないで!)




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