アカリムシ



今日はクリスマスイヴ。うん、もう夜なんだけどね。気付けばもう夕飯を食べているくらいの時間。

今日はクリスマスイヴだから、外はお盛んなカップル達がいっぱいいるはず。きっと昼間っからベタベタラブラブしてるんだろう。でも私は昼間からずっと家に引きこもってジャンプを読み返していた。さすがに昼間から読んでいたのでもう最新のやつまで読んでしまった。

「くそう……私だって総悟が仕事じゃなかったらベタベタラブラブしてるっつの。」

そう呟きながら私は夕飯の準備をしようと立ち上がり、台所へ向かった。水道の向かいにある冷蔵庫を力無く開ける。

「何も無い……」

それもそのはず、家から一歩も出ずにジャンプを読んでいたのだ。買い物になど行っていない。
(…インスタントでいっか)
今度は水道の下の棚を開けてカップ麺を探す。

「……無い…」

(そういえばお昼に最後の一つを食べたっけ)
夕飯にできるものが一つもないというのも悲しい話だ。でもやっぱり外に出る気になれなくて、ベットに寝転がりテレビのリモコンに手を伸ばした。

『クリスマス特集!クリスマスイヴに恋人と聞きたい歌BEST100!』

こんなに女子アナをうざいと思ったこともない。何か面白いものはないかとチャンネルを回すが、どのチャンネルもクリスマス関連だった。私はテレビを消した。

「どーしよっかなー」

おもむろにさっき読み終わったジャンプを手にとるが、ページを開く気になれない。ジャンプを枕元に置き、今度は携帯を手にとってメールの確認をしてみるが予想通り、一通も来ていない。はあ、と溜め息をつき、寝てしまおうかといつもと比べるとかなり早い就寝を計画していたその時だった。
ガチャガチャと鍵のかかったドアを開けようとする音が聞こえてきた。


(…泥棒?)


近くにあったジャンプを手に取り身構え玄関に向かう。するとドアノブを回す音から、何やら鍵穴をいじる音に変わった。そしてその音が止むとドアが開いた。

「彼氏が来たんだから鍵くらい開けろィ」

総悟だった。

「いやいやいや、その前にインターホン鳴らしてくれない?ていうか今どうやって鍵開けたんですか」
「あと、ジャンプじゃ泥棒は倒せやせん」

……無視だ。
思いきり無視された。もう合い鍵を渡した方が安全なんじゃないだろうか

「仕事は?」
「山崎に代わらせやした。」

そう言って、にい、と笑った。
(山崎さん、ごめんなさい。)


「なんでインターホン鳴らさなかったの?」
「明かりが付いてたからでさァ」
「答えになってないし。光に反応してきたんだー、虫みたい。ていうか靴脱いでよ」
「恋人に向かって虫とはなんでィ。それよりなまえ、」

靴は無視だ

「何?」
「腹減った。何か作れ」
「私も空いた。何か作ろうにも材料がありません」
「女のくせに情けないでさァ」
「だって外出る気しなかったんだもん」

ふーん、とつまらなそうに相槌をうって総悟は私の部屋を見回した。読み返していたジャンプが散乱している。

「出る気がしなかったじゃなくて、出られなかった、の間違いだろィ?」

図星だ。
私は気まずくて目を逸らした。総悟は全部分かっているのだ。悔しいけど……

「何か食べに行きますかィ?」

そう言って総悟は手を差し出してきた。

「うん!」

****


私はその手を握った。総悟の手は冷えきっていて氷のようだった。
(こんなに手が冷たくなるまで仕事してたんだ…)
私が手を握ったまま固まっていると総悟はわざとらしく

「こんなに頑張って仕事してきたら恋人のあったかーい手料理が食べられると思ったんですけどねィ」
「うう…ごめんなさい」
「まあ、恋人のあったかーい手で我慢してやりまさァ」

私と総悟は二人で外に出た。

「あ、」

総悟が突然声を上げた。

「何?」
「明日、」
「あした?」
「非番でさァ」
「……本当に?」
「本当でさァ。明日は恋人のあったかーい手料理を食べられるねィ」
「が、頑張ります…」

なんか凄く根に持たれているけど、総悟の足どりでわかる。楽しみなんだ。私だって楽しみだ。だからさっきからずっと頬が緩みっぱなし。少し上品さには欠けるけど仕方ない。気を抜いたら鼻歌をも出そう。
そうして鼻歌の方に気を向けていたらなんだか見慣れないネオンの眩しい所に来ていた。

「あれ?どこで食べるの?」
「そんなの夜が明けてからでも遅くないでさァ」
「え?ちょ、…え?」
「久々でさァ、ラブホ」

総悟はぐいぐいと私の手を引っ張っていく。
(それが楽しみだったのか…)
でも総悟のそれはもう無邪気な子供のような顔を見たら本気で反対する気にはなれなかった。苦笑いを浮かべつつ、私は総悟についていった。
(やっぱり光に惹かれてる…)








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