逃がすもんか



「なんか最近避けられてるんでさァ」


前の席の沖田が私の机に肘をついて話しかけてきた。どしたの?、と返せばため息。…深刻?


「避けられてるって、例の?」

「ん」

「気のせいじゃないの?」

「んー多分マジ」

「うーむ」


例の、というのは沖田の好きな人のことで、幼なじみの私はよく相談を受けるわけなのだが。その子の話をする時、長い間近くにいて慣れている私でさえちょっと顔が赤くなるような真面目な顔をする。ちょっと妬けるなあ、そんなに想われてるなんて。


「もういっそ告っちゃえばいいのに」

「それ昨日も言った」

「だってそう思うんだもん。最近進展なくてつまんない」

「進展…」

「やっぱアクション起こさなきゃ何も変わんないよ」

「でも告白は飛びすぎじゃねえかィ?」

「そう?じゃあ無意味に名前呼んでみるとか」

「それこそ何で」

「じゃあちゅーしてみるとか」

「告白するより難易度高くね?」

「じゃあほっぺ?」

「いやいやいや、そんなんいきなりされたら引くだろィ」

「大丈夫だよ、総悟なんだから」

「なんでィ、その根拠は」

「いいから、もうさっさといきなさい。なんかしてこーい」


ぽんぽんと背中を叩くとちょっとめんどくさそうに総悟は席を立つ。そうそう、放課後の教室で2人きりなんて相手の子に失礼よね。


「じゃあ試してみまさァ」

「頑張ってねー」


ひらひらと手をふる私を見下ろす総悟
疑問符を浮かべて首を傾げると私の机に手を置いてこちらに屈んできた


「なまえ、」

「なに…?」


一瞬の隙に視界一杯に広がる栗色
ちゅ、と甘いリップ音と共に頬に柔らかい感触


「進展、あるといいねィ」


そう言い放ち教室を出て行く総悟。何も言えない考えられない私の頭にとりあえず浮かんだのは



逃がすもんか!


私は急いで席を立って犯人を追いかけた





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