幸せな世界を待ち望む



全くもって後悔なんかしていない。何回この状況にぶち当たっても私は毎回同じ選択をする。この男を庇って死ぬのだ。

腹からどくどくと血が流れる。痛みは感じない。ただただ傷口が熱いだけだ。
膝をついて私を抱える晋助越しに私を刺した男が倒れている。晋助を殺しに来たその目的を私に阻まれ、次の瞬間には晋助に頭を撥ねられていた。そして私を抱える逞しく温かい腕の持ち主へと視線を移すと、久しぶりに見る怒りの表情を浮かべていた。

「何してやがる」
「はは、体が勝手に…」

笑ってみせたのだが睨みがきつくなるだけだった。話すのも結構辛いのにその上笑ったらもっと辛かった。血が足りないのだろう、ちょっと頭がぼうっとしてきた。さっき晋助は医者を呼んでたし簡単な止血もしてくれたけどきっと間に合わないのだろうな。惚れた男の腕の中で死ねるならまあいいか。

「おい、馬鹿なこと考えてんじゃねぇだろうなァ」
「私さぁ、晋助に幸せになってほしかったんだ」
「……」
「また昔みたいに笑ってほしかった。私べつに先生のために世界壊そうなんて思ってないよ。あんたのためなんだよ」

もう限界だった。これ以上声はだせそうにない。瞼も重くなってきた。逆らうこともせずにゆっくりと瞑ろうとすると頬をぱしん、と張られた。思わず目をみはった。

「昔の幸せと今の幸せが同じとは限らねぇだろう」

ぱちぱちと瞬きを繰り返しながら見上げる。もう怒ってはいないようだけど諭す目だ。
たしかに、そうだね。幸せになってほしいとか笑ってほしいとかは私の勝手な願いだ。自己満足でしかない。でも、それでも、

「世界の終わりを見届けろ。お前の言う幸せがあるとしたらその先だ」

嬉しくて、涙が溢れる。私だって、その先を一緒に過ごしたい。目を閉じたら雫が頬を伝った。そしてそのまま意識を手放した。


* * * *


「呼ばないで!やめて!死んだことにして!」
「助かったってもう晋助様は知ってんスよ!」
「じゃあ急に容体が…」
「さっきからなんなんスか!せっかく助かって意識も取り戻したんだから晋助様に顔見せるべきでしょお!?」
「……どうせ死ぬと思ってすごい恥ずかしいこと言っちゃった」
「…呼んでくるっス」
「いやぁあああ」


「あの、ええ、助かりました」
「見りゃわかる」
「昨日のあれは忘れてください」
「なんだ嘘か」
「う、嘘じゃないけど!あんな恥ずかしいこと言うつもりは…」
「いいじゃねぇか。そうまで想われて幸せ…」
「なんで言葉詰まって…笑ってんの!?」



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