真夜中、耳元で
眠れない……
布団に入ってからもうかなりの時間が経ったように思える。私の身の周りで唯一時間を示してくれる携帯が開けないからわからない。何故って?だって動けないんだもの。いつもの私ならきっとちょっと動くくらい気にしなかった。でも今日は違う。事情が違う。
ここは晋助の家。そして晋助の布団の中。隣には素敵な寝顔で微かに寝息をたてている晋助。
私は初めて晋助の家に来た。ていうか付き合い始めたのが先週のことだったから、まあ妥当……だと思う。よくわからないけど。
晋助の家に着いた途端に私の携帯が鳴った。これが全ての始まり。電話をかけてきたのはうちのお母さん。私は普通に電話に出た。
――――――――「もしもし?」
『あ、なまえ?』
「うん」
『悪いんだけどさ、帰りに卵買ってきてくれない?』
「別に買っていってもいいけど今すぐは帰らないよ?」
『そうなの?あ、彼氏?』
「うん、まあそう。」
『あらー。もしかしてお家にいるの?』
「うん」
『そうだったの!ごめんね、そんな時に電話して。卵はお母さんでなんとかするわ。あんたは彼氏の家に泊まるんでしょ?』
「え?泊まらないよ」
『何言ってんの。泊まってきな。それでモノにしてきな。今度の彼氏は格好いいんでしょ?今までの人は皆微妙だったからねぇ。上手くやるんだよ!あ、帰って来れないように玄関のドアにチェーンもかけとくから!』
「は?ちょ、何言って……切れた」――――――――
後半、お母さんは何を興奮しているのか声が大きくなっていて晋助にも声が聞こえていた。恥ずかしくて堪らなかったけど、チェーンまでかけられては本当に家に入れそうにないので仕方なく泊めてもらうことになった。でも泊めてもらう家の主は学校でも有名なエロテロリスト高杉晋助だ。あんな会話(というかお母さんの言葉)を聞いて何も言わないはずがなかったのだ。モノにしてもらおうじゃねぇか、とノリノリで押し倒された。必死に抵抗を試みたけどあまり効果がなくて、制服のスカーフを取られてブラウスを脱がされそうになったところでやっと無理だと言った。私だって別にそうゆう行為をしたくないわけじゃないけど、今日はレディースデーだったんだもん。それでも俺は構わねぇ、と言って続行しようとしたけど、レディースデーの時にすると不妊症になるから!と言って何とかなった。私子供産みたいもの。子供産めなくなったら私の頭の中で時折繰り広げられる人生計画が達成出来なくなるじゃない。でも不妊症になると言った時に潔く諦めてくれたのはちょっと嬉しかった。
そんなことがあったから、出来るだけ迷惑をかけたくない。だから動けないでいる。今何時かって一度思っちゃうと何故かどうしても気になってしまうもので、私はもやもやしている。時間が確認出来ないなら寝てしまえばいいのだけど、上手くいかない。現在時刻が気になるからっていうのもあるけど、そんなのは3割未満に過ぎない。大きな原因は目の前の綺麗な顔曝して寝ている晋助だ。こんな綺麗な顔の隣で阿保面して寝られない。つまりは緊張しているのだろう。だってこんなに至近距離だし。さっきから晋助の吐息が私の額に当たってこそばゆい。そう思いながらもじーっと晋助の顔を見つめていたら晋助の眉間に皺が出来た。嫌な夢でも見ているのだろうか。なんだか苦しそうに見える。心配になってきた。でもどうしていいものかわからないからとりあえずゆっくり優しく頭を撫でてみる。少しでも落ち着けばいいけど………すると手が動いたので反射的にその手をとった。
「…晋助?」
瞼がぴくり、と動いて薄く目が開いた。やばい、と思ったがもう遅い。どうしよう、起こす気はなかったのに。
「ごめんね、起こす気はなかっ…」
謝罪の言葉を口にしたら繋いでいた手が離れて抱きしめられた。
「ど、うしたの…?」
「…名前、」
「え?」
「名前、呼んだか?」
「う、うん。ごめんね、起こす気なんてなかったんだけど」
「…そうか」
すると彼は頭を私の首に埋めた。
真夜中、耳元で
(囁かれたのは感謝の言葉、そして愛の言葉)
(悪夢は君が消える夢)
キリリク りな様