ハッピーエンドでゲームオーバー



朝、いつもと変わらない時間に家を出た
いつもと同じ電車に乗っていつもと同じ駅で降りた

あとは改札をくぐって学校まで少し歩くだけだった。
でも私は改札に向かわずにホームの反対側に停まっている電車に乗った。それは私が家に帰る時に乗る電車。そして今も私はその電車に乗っている。家の方向だったけど最寄駅はもうとっくに過ぎた。別に意味があって通り過ぎる知らない風景を見ているわけじゃない。正直何も考えてない

そろそろ1限目が始まる時間だろう。あーあ、サボってしまった。サボったことなんてなかったのに。家に連絡とかいってしまうんだろうか。怒られるだろうか。まあ、もう遅い。


この辺までくると電車に乗っている人はほとんどいない。電車の外の景色もビルやらマンションやら背の高い建物はなくなって、やや田舎っぽい。


そんなふうにぼーっとしていたらいつの間にか終点だった。
なんの当てもないので仕方なく降りる。改札を出てあたりを見回すも、見たところ何もなさそうなので駅から出てふらふらと歩いてみる。


しばらく歩くと誰もいない公園を見つけて、中に入ってベンチの左側に腰掛ける。ふう、と一つ溜め息をついて空を見上げる。見上げるほどの良い天気ではなかった。
やる気なく空を見上げながら、今度は大きく欠伸をした。


****



10時30分
自分にしては早く学校に着くだろう。
そう思いながら学校の近くの公園を通り過ぎようとした。いつもとは違う何かが視界に入った気がした。公園の入り口の前で足を止めると見間違いではなかったことが確認できた。見慣れない制服の同じ歳であろう女。うちの学校の他にもいくつか学校があって、よくそこの女どもが声をかけてくるから制服は知っている。
だが今までうざったい猫撫で声で話しかけてきた奴らが着ていたものとは違う、よくはわからないが明らかにお嬢様校の制服だ。そんな学校の奴がこんな時間に何をしているんだ。

無意識のうちに俺の足はそいつの座っているベンチに向かっていた。さっきは遠くからでよく見えなかったが、寝ていた。規則正しい寝息を立てながら寝ている。よく座ったままの状態を保って寝てられるな、と少し感心しながら自分も同じベンチに座る。そして力無くベンチに置かれているそいつの手に自分の手を重ねた。
全くの無意識だった
俺は何をやっているんだ、と思ったのは確かだがその手を離せなかったのも確かだ。落ち着くような、何かむずむずするような、よくわからない感覚から離れることができなくなった。

らしくなさすぎて気色悪ィ。


****



「ん、」


寝てしまったらしい。
携帯で時間を確認しようとしたら右手にある温かい感触に気付いた。

右手に目をやると綺麗な左手が私の右手に重ねられている。目を見開きつつ、ゆっくりと視線を上に上げていくとすやすや寝ている男子高校生を確認した。

瞬きを数回繰り返す。
でも目を開く度に同じ光景。

見間違いではない………いやいやいや、誰?この人だれ?片目に眼帯してるんだけど。ボタンが3つも開いてるし、これはもしや所謂不良さんなのでは…?だとしたら不良さんが私に何の用?待て、落ち着け私。慌てたって何もいいことは無いのよ。あ、もしかしてこれって早く逃げた方がいいパターン?寝ている隙に逃げた方がいいのか?うわあ、どうしよう。


「オイ、」

「へっ?」


いつの間にやら起きていたらしい彼に声をかけられた


「お前は何でこんな時間にこんな所にいんだァ?」

「ええっと……なんとなく…?」

「不登校かァ?」

「いえ、サボったのは初めてです」

「ほォ……行きたくねぇのか、学校」

「楽しくはないですね」

「じゃあ来い」

「え?」


そう言うやいなや私の右手にただ重ねられていただけの彼の左手に力が入った。
そして私を公園の外へと引っ張ってゆく。


「あ、あの!」

「なんだ」

「何処へ…?」

「うちの学校。これから毎日こっちに来い」

「………は?」




ハッピーエンドでゲームオーバー
(名前も知らない不良さんによって、私の退屈高校生活は幕を閉じた)
(どうなるかはわからないのに、何で私の胸はこんなにドキドキするのだろう!)



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