なんだか
世に言うフリーターである私は今日もいつものようにファミレスへ出勤した。夜の方が時給のいい所なので私は夕方から。朝はゆっくり起きてなんとなく家事をこなしてゆっくり支度をしてファミレスへ行く。
ファミレス一つだけで私がまあまあな部屋に住めているのはここの制服の所為だ。スカート短くてひらひらしててヘッドドレス付き。あれだ、メイド服みたいなやつ。そのかわり時給が物凄くいい。正直気乗りしないけど私は今日もそれに袖を通した。
で、最初は別になんともなかった。いつものようにウェイトレスとして働いた。そしたら常連さんの親子がやってきた。子供の方が私を気に入ってくれて親しくしてた。男の子で、よく足掛けあったりしてたんだけど今日は私が料理を運んでる時に掛けてきたものだから全く気付かずにすっ転んだ。それだけならよかった。私一人転ぶだけならよかった。でも私の運んでいた料理をぶちまけた、お客さんに。そりゃあもう豪快に。
子供の所為にするわけにもいかず、お母さんが謝ろうとする気配は伺えたけどそれより先に店長が来てしまった。よりによってそのお客さんは店長の知り合いだったらしく、私はその場でクビを言い渡された。
私が何をした。ちゃんとオーダー取ってオーダー通りの料理を運んだじゃない。それで何でクビになるのよ。しかもかなりきついことを言われて。何でそんなに怒鳴られなきゃいけないのよ。
…でも店長の怒鳴り声に泣き出すあの子を責める気には全くなれなくて。
クビになったものは仕方ない、とロッカーを片付け始めたはいいけど、やっぱりそんな簡単には割り切れなくて、悔しくてやり切れなくて涙が出た。
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零れる涙をそのままに、たいして物は入っていないロッカーを片付けて私はロッカー室を出た
「やめんのか?」
唐突に後ろから声がした。出てきた扉の方を振り返ると、
「あ、高杉さん…」
彼は厨房でバイトしてる高杉さんだ。人前は苦手という理由で厨房のお仕事を選んだらしい。店長は是非ともホールに出てほしいと言っていたが余程固い決心があったらしく、しつこい性格と言われる店長が折れた。
彼が店長にそこまで言われたのも彼のルックスにある。多分そこらのモデルよか数倍かっこいいだろう。私はそう思う。凄く整った顔立ちなのだ。加えてスタイルもいい。ただ勿体ないのが、片目にはいつも眼帯をしていることだ。なんでかはよくわからない。
その彼が何故女子用のロッカー室の前にいるだろう。
「まあ泣いてまでやるようなバイトじゃねーだろうけど」
「あっ…」
そこで初めて私が泣き顔を晒していることに気がついた。まともに話したこともない人に泣き顔見られるなんて……一気に恥ずかしさが込み上げてきて咄嗟に逃げようとしたけど腕を掴まれてそれは叶わなかった。
「は、離して…!」
「次のバイト先は決まってんのか?」
「決まってるわけないでしょ…今さっきクビにされたんだから」
「ククッ、そうだな。辞めさせる手間が省けて助かった」
「助かる?」
「あァ。働きてーならどっか仕事見つけてきてもいいぜ」
「あ、あの何の話…」
「だから、養ってやるって言ってんだよ」
「養う?」
「俺だってこんな変態店長のファミレスなんか御免なんだよ。そろそろ睡眠不足も限界だしな」
「高杉さんって夜しか入ってないですよね?」
「あ?午前中はここの向かいで会社員なんだよ」
「へぇ……え?」
「お前落とすために睡眠3時間とかで働いてんのに全く引っ掛からねーし。簡単に落ちられても張り合いねーけどこんなに手応えねーのも考えもんだなァ」
「それって私のために会社員やりつつ夜はバイトしてたってことですか…?」
「そう言ってんだろ。まァ、それも今日で終わりだけどな。お前は強引にでもいかねーと無駄だってわかった」
「へ…?」
「安心しろ、お前一人養うくらいどうってことねー。ほら」
そう言って手差し出してきたけど私はその手を取らずに、
なんだかよくわからないけど抱き着いた