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『姉ちゃん次の土日どっちか空いてる?』

『土日?空いてるで?なに?香月くんとデートしてやってくれってか?嫌やで?』

『まだそこまでは言うてない。』


バイトが休みな姉と、夕飯を一緒に食べながらただ姉の予定を聞いただけなのにばっさりフラれる哀れな侑里。光星が家に来る時の態度とは大違いだ。


『光星が家来る時はバッチリメイクしてウキウキで登場するくせになんなん?その扱いの違いは。』

『だって香月くんチャラいやん。それに光星くんは永遠がもてなせ言うたからもてなしてるんやんか!べつに香月くんも永遠がもてなしてやってくれって頼むんやったらもてなしてあげてもいいで?』


もてなせって言うたのは1回目だけやねんけどな。2回目からは自分から勝手にウキウキしてたで姉ちゃん。って冷ややかな目を向けながらも面倒なので口には出さなかった。


『ふぅん、ほな侑里ももてなしてあげて。』

『ええよ。また昼ご飯は永菜風ラーメンでいい?』

『なんでもいいわ。好きにして。』


あまりに侑里が姉に会いたがって毎日しつこいくらいお願いしてくるから、その熱量に負けてしまった。

運良く姉のバイトはその週の土日両方共休みだったらしいから、翌日侑里にそれを知らせてあげると侑里は俺にハグしてくる勢いで喜んでいる。暑苦しい男だ。


「光星も暇やったら遊びに来てな。」

「うん、行く行く。」

「あっ、お菓子とかは気ぃ遣わんでいいからな?次光星くん家来はるときお菓子用意しとこってお母さん張り切ってたから。」

「あー…なんか逆に気遣わせてしまってる?お母さんにお気遣い無くって言っておいて。」


優しく礼儀正しい光星は俺の言葉にまたそんな気を遣った返事をしてくるから、俺は光星の育ちの良さと性格の良さをひしひしと感じてしまった。家では俺の姉も母も、光星のことを褒めまくりだ。

俺はと言うと、光星への褒め言葉を家族の前で口に出さないようにするので必死である。姉の前ではもう手遅れかもしれないけど。



俺の二校目での高校生活は早すぎるくらいのスピードで春の季節を終え、夏が始まろうとしていた。ようやく衣替えの日を迎えて、煩わしかったブレザーを脱いで半袖シャツで登校する。

ブレザーを着た光星もかっこよかったけど、夏服を着た光星も爽やかでキラキラしている。あの小麦色の逞しい俺の好きな腕がいつでも目に入るようになってしまい目に毒だ。


週末に入る前、クラスのホームルームでは球技大会の種目決めを行った。中間テストに続いて俺にとって初めての学校行事にわくわくするような、でもなんとなく憂鬱な気もするような…。全力で楽しめそうにないのは多分、スポーツクラスの佐久間たちの存在が気がかりだからだろう。


球技大会の種目はサッカー、バスケ、あと卓球で、ここ特進クラスでは卓球が大人気だった。

俺は侑里が教えてくれた『佐久間たちはサッカーに出る』というのを理由にサッカー以外を希望し、背の高い光星がクラスメイトにバスケを勧められていたから俺も一緒にバスケを選ぶことにする。……俺は身長低いけど。それに侑里もバスケって言ってたから、戦う相手が侑里なら安心だ。……ボロ負けしそうだけど。

卓球争奪戦に負けてどんよりしていた浮田くんも、足より手を使える方がマシだという理由で一緒にバスケをすることになった。

「僕にボール回さないでね」と早くも逃げ腰な態度の浮田くんに、「いや、普通に回すだろ」と言って光星は笑っており、面白くて愛嬌のある浮田くんを俺は密かにちょっとだけライバル視しそうだ。見るからに運動できなさそうだけど、浮田くんのそんなところが俺は可愛いと思う。



「じゃあ浅見〜、日曜駅まで迎えに来てなー。」

「おう、10時な。」


金曜日の放課後になると、侑里は教室の出入り口から大声で光星にそう声をかけてから、ウキウキで部活へ向かった。それは、俺の家に来るための待ち合わせの約束だった。


「えぇ?なに、珍しい…あの二人で遊ぶ約束でもしてるの?」

「俺の家に遊びに来んねん。」

「あぁ!そう言うことか!びっくりした〜。」


帰ろうとしていた浮田くんが俺の席の隣で立ち止まり、そんなやり取りをしてから「じゃあねバイバイ〜」と手を振りながら帰って行く。

光星と侑里の二人のやり取りは、周囲の人間からしてみれば異様な風景に見えるようだ。俺と仲良くなった流れで光星が侑里と仲良くすることは何らおかしくないことだと思うけど。

でも光星はもともと佐久間と仲良くしてたからそのへんちょっとややこしいのかな。侑里はあからさまに佐久間のことを足臭いとか言って嫌ってたし。

侑里とは仲良くしながらも、俺はスポーツクラスこわいし嫌やなぁ…と、心の中で思うのだった。





日曜日は朝から母親がせっせと掃除洗濯を始めている。俺は9時頃に起床し、のんびりテレビを見ながら朝食を見ていたら、部屋から姉が着替えてメイクもバッチリな状態で登場した。


「永遠〜おはよう!」

「おお、姉ちゃんはりきってるやん。」

「永遠が香月くんおもてなししたげて言うたからやん。」

「言うたけど別にそんな張り切らんでいいで。侑里が付け上がるだけやで。」

「ふぅん。ほなまあ普通にしとくわ。」


姉はそう言いながらポニーテールに縛った髪ゴムをバサッと外して、一度履いた靴下もぺいっと脱いでいた。


父親とこの後おでかけ予定の母親は、掃除洗濯を終えると出かける準備を始め、何故かテーブルにポンとたこ焼き器とたこ焼き粉を置いて出かけて行った。


「なぁ姉ちゃん、なんでたこ焼き器置いてあるん?」

「ああ、それな。香月くんが大阪出身の子らしいって話したらお母さんが用意しといてくれてん。」

「ふぅん。」

「あっ、永遠!もうちょっとで来はるんちゃうん。はよお皿洗って片付けときや。」


…張り切らなくてもいいって言ってるのに。

姉の性格からして張り切ってしまう質なのか、せかせかと姉は俺の食べ終わった朝食の食器を流しに運んでいた。ついでに洗っといて欲しい。


「あっ永遠髪の毛後ろ寝癖ついてるで?直してきたら?」

「うん、あとでやる。」

「てか前髪伸びたなぁ。切ったげよか?」

「いらんわ。」

「え〜!鬱陶しいやん!はよ切りぃな!」

「うるさいなぁ!!!ほっといて!!!」


張り切りついでにおせっかいなことまで言ってくる姉の方が目元まで伸びた前髪よりも鬱陶しくて、朝からちょっと口喧嘩した。


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