その後C [ 99/99 ]

姉はお昼を過ぎた頃に帰宅した。

玄関から『ガチャ』と鍵が挿さる音が聞こえてきたことにより、光星くんのひっつき虫を強制終了する。


「姉ちゃんおかえり〜どこ行ってきたん〜?」


光星を部屋に連れ込んでやらしいことをしてたのを怪しまれないように、自分から家に帰ってきた姉の元へ行ってそんな声をかけたら、「競技場の近くの定食屋」と答える姉。


俺の後に続いて光星が俺の部屋から出てくると、姉の視線は光星に移り、「光星くん来てたんや〜」と声をかけた。


「あっ、はい。お邪魔してます。」

「二人でなにしてたん〜?」

「般若心経覚えてた。」

「…は?あんたらなにやってるん。」

「仏説摩訶般若波羅蜜多心経〜」

「ああ唱えんでいい唱えんでいい!」


勿論これは嘘だが、元々覚えていた部分を唱え始めた俺を姉は全力で止めてきた。適当な嘘をほざく俺に、光星がクスクス笑っている。


「侑里とちょっとは仲良くなった?」

「ん〜ちょっとな。」

「ライン交換してあげた?」

「ううん、してへん。」

「えぇ、はよしてあげぇや。」

「ん〜…。」


あ、ちょっと悩んでる。

前より反応が良くなっている気がして、後押しするように侑里のアカウントを表示させたスマホを「ほれ」って姉に差し出すと、姉は「じゃあ分かった。」と言って俺のスマホをすぐに返却してきた。


「あと二つくらい試合勝たはったら教えてあげるわ。」

「おお、ほんま?ほな侑里にそう言うとくわ。」


姉ちゃんやるやん。侑里のモチベ上げにはもってこいやで。でも負けたらそれ理由にして姉ちゃん一生教えてくれなさそうやけど。


「侑里くんへ、姉ちゃんがあと二つ試合勝ったらライン教えてくれるそうです、っと。」


姉の前で声に出しながら文字を打っていると、横から光星が「あと二つって言ったら準々決勝とかじゃねえの?」と笑っている。


「大丈夫やろ。勝てる勝てる。侑里くん全国狙ってるんやで?そんなとこで負けてられへんで。」

「侑里くんそんなすごいん?」

「侑里は凄いで、中学の時も行ってるみたいやしな。」

「えぇっ、そうなんや…。」


正直俺は侑里のサッカーの実力が全体的に見てどのくらい凄いのかは分からないけれど、俺の中で凄いのは確かなので姉の前で侑里をべた褒めしておいた。

そしたら姉は「遊ぶ暇無いって言うてたもんな…」とかぶつぶつと独り言を言っている。


そう言えば呼び方が『香月くん』から『侑里くん』に変わってるな。侑里やるやん、あんまり進展無いんかと思ったらちょっとくらいは進展しているようだ。


すぐに侑里から返信がきて、【 まじで?言うたな?忘れんなよって言うといて 】というその文字だけでも侑里の闘志をひしひしと感じられる返信だった。


翌日学校に行くと、侑里は相変わらず元気に「永遠ー!!」と俺の名を呼びながらダッと走ってやって来た。


「おお、侑里おはよう。元気やな。」

「おう、浅見もおはよう。昨日のラインほんまやんな?」

「うん、姉ちゃんの目の前で打ったラインやもん。」

「よっしゃ、永遠よくやった!ありがとう!」


まだ姉からラインを教えてもらったわけでもないのに、侑里は俺の髪をぐしゃぐしゃに撫でながらお礼を言ってきた。


「実際どうなんだ?試合勝てそうなのか?」

「おう、勝つで。」


光星に『勝てそうなのか』と聞かれているのに、『勝つ』と言い切っている侑里のその自信は素晴らしい。


「よっしゃ、がんばれよ侑里、俺の姉ちゃんは約束はちゃんと守るけど頑固やから負けたらもう絶対ライン教えてくれへんからな。」

「えぇっ…!!」

「えぇって、今の自信どこ行ってん。」

「……待てよ?3回戦目ってどこと試合当たるんやったやろ…?んん……、いや、勝てる。うん。絶対勝てる。」


頭の中でトーナメント表でも浮かべているのか、ぶつぶつと呟きながら一人で『うんうん、勝てる。』と頷いていた。



教室まで続く廊下を光星と侑里と歩いていたら、「あ!永遠くん!」と今度は背後からサッカー部でスポーツクラスで侑里の友人でもあるレオくんが声を掛けてきてくれた。


「あ!レオくんおはよう、昨日はお疲れ様!」

「ありがとー、昨日お姉さんに会ったよ!」

「あっ聞いた聞いた!レオくん上手かったな〜って姉ちゃんが褒めてたわ〜。」

「おい、ちょぉ待てや。俺は?」


普段はそこまで会話することがないレオくんが俺に話しかけてくれたのが嬉しくて、姉が言ってたことを伝えると、横からズイッと俺の肩を掴みながら侑里が口を挟んできた。


「ん?侑里はなぁ、…なんて言ってたっけ?」


しらばくれるように光星に視線を向けると、光星は「『かっこいいって言ったら負けな気がする』って言ってなかったか?」ってにこやかに笑いながら姉が言ってたことをそっくりそのまま言ってしまった。


「…『かっこいいって言ったら負け』…?それってつまりちょっとは俺のことかっこいいって思ったってことやんな?」

「え?…う、うん…そうなんちゃう?知らんけど。」


レオくんは姉のことになるとむきになりやすい侑里の様子を眺めながら、「侑里永遠くんのお姉さんの事好きだったんだな」って言って笑っていた。


each other 2 へ続きます


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