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「…まあええわ。とりあえず俺は次お前が永遠と浅見にちょっかいかけたらお前の顧問にお前の悪評全部話すわ。レギュラーなんかもらえへんくらいお前のこと悪く言うたるからな。」


突然の香月の発言には、血の気が引いた。

香月の目は本気で、こいつなら絶対やる。いや、そもそも今まで何も言ってなかった事が不思議に思うくらい。こいつは何故だかやたら教師受けが良いから、野球部の顧問もこいつの言葉を信じるだろう。


「…なんだよそれ、…脅し?」

「どこがやねん。俺はちょっかいかけんな、って言うてるだけやろ。お前あほなん?」

「お前にだけは言われたくねえよ。」


ムカつく香月の発言に言い返していたら、急に香月は態度をごろっと変え、眉間を指で摘みながら泣き真似をするように話し始めた。


「…可哀想に、お前の所為で浅見の気持ちはもう永遠にバレバレやわ。永遠泣いてたんやぞ、浅見に気持ち返してやれへんってシクシク泣いとったわ。」

「……そのわりには仲良さそうに二人で帰ってたけど。」

「あれ?そうなん?お前よう見てるな。さては羨ましいんやろ。」


……もう相手にしてらんねえわ。まじで部活遅刻する。適当なことをほざく香月に「もう行くわ」と足を動かしたら、「待てよ、俺も行く。」と同じ方向に歩き始めてしまった。


鬱陶しくて横目で香月を睨みつけると、香月はニヤリと口角を上げた憎たらしい顔を向けてきた。


「お前さっさと素直になったら?お前の浅見への執着心すごかったもんなぁ。永遠と仲良くする浅見のことが嫌やってんろ?嫉妬してお前を傷付けたごめん。って謝ったら優しい浅見は多分許してくれるで?」

「キモ、何言ってんの?別に嫉妬とかしてねえから。お前本気でそんなこと思ってんの?男同士で気持ちわりぃ。」

「その気持ち悪い嫉妬してるのはどこのどいつや。俺と三角関係や〜とか言うて喜んどったくせに。」

「そういうお前は結局何がしたかったわけ?光星と仲良さそうにしてんのは俺への当て付けか?」

「あぁ〜…せやなぁ。お前がそう感じるんやったらそれで合ってるんちゃう?」


何をどう返そうと、俺がまるで光星との仲を羨んでると決めつけている。もう良い加減まじでうんざりしてきて黙り込んだら、香月も無言になってジッと俺の顔を見てきやがった。

人の顔を、観察するようにまじまじと。

そして最後に、ため息を吐いた。


「俺ずっと疑問に思ってたけどお前と浅見が仲違いした決定的な理由はなんなん?永遠お前らのことでずっと罪悪感持ってるみたいやけどそこまで永遠が悪いことしたん?俺はお前のただの逆恨みにしか思えへんねんけど。」



決定的な理由?
そんなのは、自分が一番よく覚えている。

自分で言った言葉だからな。


『あーもうめんどくせえ!!じゃあもう勝手にお前はあいつと仲良くしてろよ!!』


俺の言葉に光星が“その通り”にした。
でも俺は、さっさと“その通り”にされたから腹が立った。

『逆恨み』という香月の言葉も、その通りだ。


俺があの時言わなければいけなかったのは、光星への謝罪の言葉のはずだった。


クラスの奴らにもノートを貸したことを光星は嫌がった。確かに俺は、光星への礼の気持ちを忘れていた。『不信感を持った』と言われた。なら俺は、その時素直に『ごめん』と言うべきだった。そうしていたら、光星は許してくれたかもしれない。


決定的な理由は何かと聞かれたら、俺の“投げやりな態度”だ。そんなこと、香月が知るはずもないけど、それをまるで見透かしているような香月の視線が俺に突き刺さり、俺は何も言えなくなった。


「まあお前に何言うても無駄かもしれんけどちょっとでも悪いと思ってる気持ちがあるんやったらさっさと浅見に謝ったれよ。あいつ相当傷付いとるで。」


無言の俺に香月はそう言い残して、先に部室棟の方へ歩いて行った。


『あいつ相当傷付いとるで。』


香月のその言葉が何度も何度もぐるぐると、俺の中に渦巻いた。

傷付けた自覚はある。

でも悪いのは光星。

ずっとそんなふうに考えていた自分がすげえ惨めに思えてきた。


その日は全然部活に集中できなくて、先輩にも、顧問にも注意され。こんなことになるならもう、光星にさっさと謝罪して、気持ちをスッキリさせてしまった方がマシだと思った。


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