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「光星ごめん、俺謝らなあかんことまだあるわ。もうこうなったら懺悔しよ、懺悔。」


川沿いをゆっくり歩きながら少し落ち着きを取り戻した後、永遠くんはそんな言葉を口にしてきた。


「…え、…なに?」

「姉ちゃんと光星のお兄さんが仲良くなるの俺むっちゃ嫌がったやろ?あれほんまは二人がもし付き合ったりしたら絶対羨ましくなってしまうから仲良くなって欲しくなかってん。俺は光星と付き合えへんのに、俺の身近で羨ましくなる恋愛されるのは嫌やなぁって。そんなことになるとも限らんのに勝手に想像だけして、姉ちゃんにも光星にも大人げない態度見せてしまって恥ずかしい。」

「…えぇっ…、そんなこと考えてたんだ…?」


永遠くんの口から語られる話に、俺はそんな理由だったのかと驚いてしまった。てっきりお姉さんと仲良くされるのが嫌なだけだと思っていたのに。

俺のことをそんなふうに見てくれていたからだったなんて。それを聞いたら、香月の時はそこまで嫌そうではなかった永遠くんの態度にも納得だ。


人が考えている事は、やっぱりその人にしか分からないもんだなぁ…。


「俺、光星の前ではいい人ぶりたいけど心の中はどす黒いこと考えてんねん。…いや、いい人ぶれてるかも分からんな。結構あかんとこ見せまくってるかもしれん。佐久間にやっぱお前腹黒やんけって言われてしまうわ。」


チラッと俺の顔を見上げながらそう言って、永遠くんは自嘲的に笑った。


「んん…、どうだろ。それって腹黒って言うのか?腹黒ってのは腹の中で悪巧みしてることを言うだろ?永遠くんのは悪巧みというか、わりと人間的って言うか…。それがもし腹黒だとしたら、俺だって永遠くんと同じだよ。みんなそうだと思うけどな。」


永遠くんは結構、明るい性格の裏には繊細な性格が隠れていたりする。多分、人から言われたことも、自分が言ってしまったことも、深く思い詰めて考えてしまうんだろう。

そんな永遠くんのことをとても腹黒だとは思えなくて、よしよしと永遠くんの髪を撫でながら俺の気持ちを告げると、永遠くんはちょっと潤んだ目で俺を見上げてきて、またガバッと抱きつかれた。


「あぁ〜〜っ光星はほんまに優しいなっ!も〜好きっ!!今日はもう離さへん!!」

「ええっ!?自転車漕いで帰んねえと…!」

「そんなん知らん、今日は光星くんを抱き枕にして寝たい。」

「ええっ…!」


川沿いを歩いていると、犬の散歩をしている人や、ランニングをしている人とすれ違ったりする。正面からは芝犬を連れたおじいさんが歩いてきているのに、永遠くんは俺にくっついたままそんなことを言って離れない。


「もうずっとくっついてたい。だってもう俺のやしな。砂漠に埋もれた宝石をやっと家持って帰れる時が来たわ。」

「…えっ?…あっ!……あーっ!!なんかそれ聞いたことあるな!?」

「うん、そやろな。前俺が言うたことやし。あんな時から俺光星のこと見てそんなことばっかり考えてたんやで。笑うやろ?」

「……永遠くんも結構俺のこと好きだな。」

「せやで今更気付いたん?おっそ〜。」


永遠くんは生意気な態度でそう言いながら、照れる俺を見てケラケラと笑っていた。


くっそ……、かわいいな…。俺だって触っていいならもっと永遠くんに触れたいに決まってる。


「…じゃあ今度また俺の家泊まりに来てよ。俺だってもっと永遠くんにくっついてたい。」

「ひゅ〜ひゅ〜っもう光星くんの好きにして?俺は光星くんのもんやで。いっぱいいちゃいちゃしよな〜」

「……そんなふうに言われると歯止めが効かなくなりそうなんだけど…どこまで触っていいんだ…?」

「ん?どこまでって?」

「……あっ、いやっ、…なんでもない。」


…危ねえ、変なこと言って微妙な空気を作ってしまいそうになるところだった。


俺は慌ててサッと永遠くんから視線を逸らしたが、永遠くんからはじーっとまっすぐ俺に向けられる視線を感じて、何言われるかとハラハラする。


「……そろそろ帰るか?」

「ん〜、嫌。もうちょっと一緒に居たい。」


………はぁ。もう俺はだめだ、このかわいさは反則だ。思わず空を見上げてしまった。今日は良い天気だな…。この風景、多分一生忘れることはないだろうなぁ。


「…じゃあ、もうちょっと歩いたら帰ろっか。」

「うん、そうしよ!」


俺の言葉に笑顔で頷く永遠くんを見ていたら俺も自然に笑みが浮かび、永遠くんといろいろ話していたら楽しくて、結局土手の上に止めた自転車が見えなくなるくらいまで歩いて、またその道を引き返し、帰る頃にはもう日は沈み始めていた。



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