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昼休みを挟み、食堂で昼食を食べてから午後からの球技大会に備えてさっさと体育館に戻ってくると、明らかに午前より人が増えていた。


「…なんか人さっきより増えてへん…?」

「試合負けて暇な人が見に来てんだろうな。」

「え〜…こんな中で試合するん嫌やなぁ。」


この後バスケの試合に出なければならない俺は、げんなりしながら午後一に行われる試合を観戦するために光星と壁沿いに腰を下ろす。


周囲を見渡したら2階からもずらりと柵に凭れかかりながら観戦している人がいっぱいいる。良いなぁ…俺はこの後ゴリラと戦わなあかんのに。…って、コートの中で青いビブスを着てやる気満々にストレッチしている侑里の方へ視線を向ける。


「4番、5番バスケ部のレギュラーらしいな。」

「3番もバスケ部だぞ。」

「まじ?ほなお前ら三人それぞれ3、4、5番のマーク頼むわ。パス回しで隙できたら俺が取る。」


黄色いビブスを着てシュート練習をしている相手クラスを横目に、ガチ作戦を立てている様子の侑里たちスポーツクラスの人たちを見ながら、光星がクスッと笑った。


「香月真剣すぎだろ。俺らとの試合もあんな感じで作戦立ててくれんのかな?」

「ふふっ…ほんまやな。2番片桐、あいつはチビやからほっとけ。とか言われそうやわ。」

「それ言うなら浮田だろ、あいつ一試合目まじで動かなかったぞ?」

「うん、知ってる。棒立ちしてたな。」


光星との浮田くんの話で笑っていたらホイッスルの音が鳴り響き、午後からの試合の開始を知らせる。コート中央に互いのクラスが整列した後、侑里ともう一人、黄色ビブスの4番の人が中央に立った。

ジャンプボールで高く上がるボールに、侑里はトン、とボールに触れて、近くに居るチームメートがキャッチする。初っ端からスポーツクラスが優勢で試合が始まるが、黄色ビブスの人たちも機敏な動きを見せている。

ボールをキャッチしたスポーツクラスの人はすぐにガードされ、侑里にパスをしようとするが、なんと侑里まで二人にガードされている。恐らく敵は徹底的に香月侑里をマークという作戦を立ててきたのだろう。


「ジョー!レオフリー!レオフリー!」


侑里はマークされても動きを止めず、チームメイトを指差しながら呪文のように名前らしき言葉を叫ぶ。

咄嗟に相手の視線が『レオ』と呼ばれた人に移ったと同時に素早く動いた侑里は、目配せでもしていたのかその一瞬で仲間からパスを貰い、一気にゴールまでドリブルを仕掛けて攻め込んだ。

そしてサクッと先制点を決めた侑里に「おぉー」と歓声が上がっている。


「あはははっ!いやいや、やばすぎ!なんであいつバスケ部ちゃうねんっ!」


侑里のあまりの凄さに俺は笑いが止まらなくなり、光星の膝をバシバシと叩きながら笑っていたら、光星まで釣られるように「ククッ」と笑いをこぼしている。


真剣に作戦を立てていたわりにはあっさり点差が開いてきて、結果スポーツクラスは圧勝だった。侑里も凄かったけど、侑里から『ジョー』と『レオ』って呼ばれていた人もパスやドリブルがめちゃくちゃ上手くて、なんでバスケ部じゃないんだろう。って疑問に思うくらい。

多分この三人がサッカー部でも主力選手なんだろうな。侑里が日頃仲良くしているのもこの人たちだ。俺の中でも凄い3トリオとして胸に刻まれる。


「えぇ?俺らもこの後あのゴリラ軍団と戦わなあかんの?この空気で?…嫌すぎる!!」

「いや、永遠くんよく見ろ…相手はかなり体力消耗してる「永遠ー!!おまたせー!!やっとお前らと試合できるなぁ!」……全然してねえな。」


少し汗をかきながらも爽やかにこっちに向かって走ってきた侑里に、俺はハンデとして侑里の体操服のズボンをパンツが半分くらい見えるまでずり下げた。


「は?おいなにすんねん、永遠ちゃんえっちやな。」

「えっちちゃう。ズボン落ちんように気にしながら戦うくらいが侑里くんが俺と戦うには丁度良いくらいのハンデや。」

「おぉ、なるほど。ほなズボン落ちたら俺の負けやな。」

「うん。そういうことや。」


俺の半ば本気のような冗談にも侑里は文句を言わずにコートの中央に整列する。

「侑里なんだよそれ」とチームメイトに突っ込まれているが、「ハンデや、ハンデ。」と俺に言われた通り返事しているお利口さんな侑里くん。

自分からハンデとか言ったものの、俺はまじでそのままやりそうな侑里に笑いそうになっていたら、『ピピピッ』と先生にホイッスルを鳴らされている。


「お前なんだそのズボンは。」

「片桐くんから頼まれたハンデです。」

「バカなこと言ってないで早くズボン上げなさい。」


先生に注意されてしまった侑里は「永遠許せ」とわざわざ俺に謝りながらズボンをようやく上げていた。

光星はそんな侑里がツボに入ってしまったのか、手で口を押さえて肩を震わせながら笑っている。

敵味方関係無く、浮田くんとかにまで侑里は呆れた目を向けられながらクスクスと笑われている。


そんな緊張感などまったく無い空気で試合が始まろうとしているが、体育館内のギャラリーは明らかに増えている。

スポーツクラスと特進クラスの明白な実力の差。それはすでにもう見せ物にでもなっているようで、「これ何点差付くんだろうな?」なんて言われている声を聞いてしまった。


「うわぁやだやだ、早く終わって〜」


試合をやる前からもうそんなことを言って浮田くんが嫌そうにしている中、ジャンプボールが行われる。


「浅見、すまんな…」

「気にすんな…」


向かい合って光星と侑里がそんな会話をしたあと、光星も高くジャンプはしたもののやはり侑里の手でボールを弾かれ、スポーツクラスにボールが渡る。


キャッチした人がドリブルしながらゴールへ向かうも誰も奪いに行こうとせず、唯一光星だけがボールを持った敵を追いかけた。

目立たないけど光星も多分運動神経は良い方だ。かっこいい光星の爽やかに走っている姿を目で追っていたら、早くも1点先制されている。


「永遠ちゃぁん…あかんで?浅見の方ばっかり見てたら。」


ニヤニヤしながら侑里に耳元で指摘され、カッと顔が熱くなりそうになる。光星がコート外からボールを投げようとするが、誰も取りに行こうとしなかったため渋々俺がパスを貰いに行こうとするものの、あっさり横から侑里に取られてしまった。


「ヘイ!永遠ちゃん!カモン!カモン!」

「うわ侑里うっざあ!!!」


完全に俺を前にして遊んでいる侑里は、両手を使って股の下を通してドリブルをついたりしているが、後ろからこっそり近付いてきた光星がサッと横から手を出して侑里からボールを奪った。


「あー!!くそっ、浅見にやられた!!」


ボールを奪うことに成功した光星は満面に笑みを浮かべながらドリブルをしてゴールへ近付き、レイアップシュートを決めている。


「おお〜!すごい!光星今のかっこいい!!」


パチパチと拍手しながら光星を褒めると、照れ臭そうに笑みを浮かべる。

それからもスポーツクラスとの実力の差は歴然だったけど、侑里が光星に勝負をけしかけたり、俺もその横からボールを奪おうと参戦してみたりして、観客の人たちからしたらつまらない試合だっただろうけど俺はそれなりに楽しむことができたのだった。


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