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『恋愛に歳なんか関係ない』と強気に言っていた侑里のさすがすぎる姉への本気の態度に、俺の目には多分侑里が、友人としてではなく一人の姉を好きな男として映っている。


「…すごいなぁ。侑里本気やん。」

「うん。永遠くんはどう思ってんの?」


ん?永遠くんはどう思ってるかって?
それはこっちのセリフだ。
光星は俺のことどう思ってんの?

侑里と姉の事よりも、俺は光星の今思ってることが一番知りたいねんけど?って、口には出さずにチラッと光星を見上げると、光星は「ん?」と首を傾げてきた。


…はぁ。もうあかん、好きやわ。

顔見ただけで抱きつきに行きたい。
俺キスより抱きしめられる方が良い。
さっき抱きつきにいけばよかったのに、後になってから『あの時ああすればよかった』って後悔する。


「あ〜あ、香月の所為で光星くんの前で恥晒してしもたわ。」

「おい!なんで俺は苗字呼び捨てやねん!」

「あぁもううるさいなぁ。」

「顔顰めんな!可愛い顔が台無しやぞ!」

「はいはい、もう分かったからそのトランプ片付けといて。」


光星の気持ちをはっきりさせたい俺の目の前で、姉と侑里が騒がしく言い合いしているから、結局すぐにそっちに視線が移ってしまった。

でも『トランプ片付けといて』と姉に言われて渋々侑里がトランプを片づけ始めると、その場は一気に静かになる。そもそもなんでトランプしたんだ。


「侑里、分かったやろ?これが俺の姉ちゃんやで。」


俺もそんな良い性格してへんけど、姉ちゃんも大概やで。っていうような意味で侑里にそう話しかければ、侑里はトランプを箱に片付けたあと、ドン!と力強く姉の前にトランプ置き、力強い目で姉ちゃんを見つめながら強気な態度で口を開いた。


「気が強い女は 大 好 物 で す 。」

「…うわぁ、気ぃ強いのはどっちやねん。」


俺から見た姉は気が強いなんて性格をしておらず、どちらかと言えば穏やかな方なのに、侑里限定で取っているキツい態度に『気が強い』なんて言われた姉は、不機嫌そうに眉を顰めた。

けれどすぐにその表情は崩れ、ちょっと泣きそうな顔をして俺に目を向けてくる。


「も〜永遠ぁ〜!こいつなんとかして!永遠の友達やろ〜!?」

「あんたの次はこいつ!?俺は一体どうやったら普通の土俵に立たせてもらえるんですか片桐さん!?」

「知らんわ!!自分で考えぇや!!」


とうとう姉はその場から逃げるように『バンッ!』と机を叩きながら椅子から立ち上がり、洗面所の方へ消えてった。


「あーあ。侑里が姉ちゃん怒らせた。」


姉がその場から居なくなり、俺はそう口にしながら侑里に視線を向けると、侑里は顔を突っ伏してバンバン両手で机を叩き始める。


「なんで!?弟の友達ってだけでなんであかんねん!!」

「あかんのは侑里のその態度ちゃうか。」

「俺の態度?どんな?」

「圧がすごいねん、圧が。朝俺のとこ来る時もガーッて勢い良く来るやろ。あれびっくりするしやめてほしいわ。」

「えぇ、そんなん言わんといて。永遠の姿見つけたら嬉しくて走ってしまうねん。」

「え?ふふっ…そうなん?ほなまあええけど。」


嬉しくて走ってしまうってなに?少年やん。

意外な言い訳をしてきた侑里に呆気なく俺は許してしまった。俺チョロいなぁ。


「はいはい侑里、そう気ぃ落とさんとたこ焼きでも食べ。」


机にだらんと上半身を伏せ、テンションを落としている侑里に俺はたこ焼き器と粉を差し出せば、侑里は身体を起こしてキョトンとした顔でたこ焼き器を見下ろした。


「なにこれ?」

「たこ焼き器。」

「いや、見たら分かるけど。」

「なんか侑里が来るって言うたらお母さんが用意しといてくれてんて。」

「なんで!?!?」

「遠慮しんといっぱい焼いてええからな。」


時刻はまだ昼ご飯には早いかもしれないけど、冷蔵庫から具材を取り出し、机の上に並べながら侑里に言うと、光星がクスクスと笑い始めた。


「香月たこ焼き焼けんの?」

「はっ?焼けへん焼けへん!!」

「え?侑里たこ焼き焼けへんの?」

「焼けへんわ!!ちょっ、お前らなぁ、大阪出身の人みんながみんなたこ焼き焼けると思ったら大間違いやぞ?」

「べつに思ってへんで。お母ちゃんが焼いてくれてたんやろ?」

「ん?…んん、まあ。…それはある。」

「ぶはっ!…クククッ…当たりかよ。」


適当なことを言ってみたら頷いた侑里に、光星が堪え切れずに吹き出している。


「姉ちゃぁ〜ん、侑里たこ焼き焼けへんねんて〜〜焼いてあげて〜〜。」


実は俺もたこ焼きを上手くは焼けない人で、どっか行ってしまった姉に聞こえるように大声で叫ぶと、姉は数十秒後にまたリビングに現れた。


チラッと控えめに姉に視線を向けた侑里が、その後『ガンッ!』と額を机に押し付けて口を開く。


「永菜ちゃんたこ焼き焼いてください。」

「あ、ちゃん付けになってる。」


ちょっとは反省したのか呼び捨てでは無くなり、お願いするような侑里の口調に、姉もクスッと小さく笑い、「いいよ。」と頷く。


でも姉がたこ焼きを焼き始め、くるくると器用にひっくり返していると、侑里は「永菜上手い。美味しそう。かわいいな。」ってまた呼び捨てタメ口になりながら無駄に姉のことを褒めていた。



「永菜お願いやからライン教えて。」

「んーまた気が向いたらな。」

「嫌や。それ絶対教えてくれへんやつやん。」

「用事あったら永遠に言うたらええやろ。」

「じゃあ今度試合あるから見に来て。公式戦やねん。」

「ふぅん、ほなまあ気が向いたらな。」

「…またその返事!!絶対来てくれへんやつやん!!」


姉が焼いてくれたたこ焼きを食べながら、相変わらず必死に姉を口説いている侑里。なんかちょっと姉の態度が冷たすぎて見ていたらだんだん侑里が可哀想になってきた。

協力する気は微塵も無かったけど侑里への情けの感情から「侑里サッカー上手いで?姉ちゃんも見に行ってみぃひん?」って声をかけてみたら、姉は「そうなん?永遠見に行くん?」と聞き返してくる。


「うん。光星も一緒に行くで。」

「あっはい。俺も行きます。お姉さんも是非。」

「…んー、じゃあ考えとくわ。」


絶対姉ちゃん光星に言われたから悩み始めたやろ。って思うけど、少しは前向きな感じに変わった姉からの返事に、侑里は口パクで『ありがとう!!』と俺と光星に手を合わせながら礼を言ってきた。


…まあ、今回だけな、今回だけ。って、姉に恋した友人を、心の中で今日は特別にちょっとだけ応援してやることにした。

自分が侑里に応援してもらってるから、同じようにその気持ちを返してあげたかったのだ。


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