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金曜日の天気は、見事に予報通りの晴れだった。
朝起きてからカーテンを開けて見えた景色は清々しいくらい良い天気の空で、それだけでもう今日の気分がかなり良い。
「柚瑠誕生日おめでと〜。はい、お弁当とおにぎり。」
「ありがとう。」
朝早くから起きて弁当を作ってくれている母親にお礼を言いながら弁当を受け取り、鞄の中に入れてちゃっちゃと朝飯を食べてから家を出た。
もう季節はすっかり夏で、朝はまだ涼しい方だがチャリを漕いでいるとだんだん暑くなってくる。
けれど、こんなに良い天気の誕生日がとても嬉しくなって、俺は立ち漕ぎしながら爽快にチャリを走らせた。
「真桜〜!」
朝練が終わった後、おにぎり片手に万歳しながら俺の席に座っている真桜の元へ歩み寄った。
「柚瑠誕生日おめでとう!」
「サンキュ〜、真桜を晴れ男に認定します。」
おにぎりを持った手とは逆の手でポンポンと真桜の頭に手を置きながらそう言うと、真桜は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「七宮今日誕生日なんだ〜おめでと〜!」
「サンキュー。見ろよ、連日雨だったのにこの爽快な天気。」
「よかったね。あたしも晴れ女だよ。」
「後出しは認定できません。」
「なにそれむかつく。」
真桜と一緒に居た吉川ともそんな会話をしながら、鞄を机の上に置き、真桜が俺の席から立ち上がったのと入れ違いに自分の席に座った。
もぐもぐとおにぎりを食べながら真桜を見上げると、俺の乱れまくった前髪に手を伸ばされ、手櫛で髪を整えられた。
「もう夏だな。柚瑠の前髪が俺、前からすごい気になってたんだよなー。」
「知ってるよ、いっつも触ってくるし。」
「違う、もっと前から。俺柚瑠と仲良くなれたのが夏からだから、夏ってめちゃくちゃ好きだな。」
夏と俺の前髪は全然関係ないけどやたら俺の前髪に触れながらそんなことを話す真桜。
「真桜くん触りすぎ、ここが教室だと言うことを忘れないで。」
手首を叩かれながら吉川にコソッとそう言われた真桜が、照れ臭そうに俺の髪から手を離した。
確かに去年の夏と言えば、俺も真桜と仲良くなり始めた頃で、思い返せば夏は真桜との思い出でいっぱいだ。
「じゃあな、柚瑠またあとで。」
笑顔で手を振りながら自分のクラスに帰っていく真桜に手を振り返す。
今はクラスは違うけど、こうやって毎日俺のクラスに来てくれるし、一時期結構悩んだりしたけど、やっぱ真桜と付き合って良かった。
「七宮無言でニヤニヤするのやめなって。」
「うわ。」
吉川に指摘され、ハッとしながら自分の口元を手で隠した。まずいな。最近気付けばニヤけてしまっている気がする。
「あんたら気を付けないと後ろの席の女子に結構怪しまれてるよ?」
「…まじかよ?」
吉川にコソッと耳元でそう言われ、最近自分でもガードが緩んできたような気がしていたから、また気を引き締めないといけない。
「まあ七宮が良ければあたしは全然良いんだけど〜。」
「よくねーし。」
自分の席に戻っていった吉川の背中に向かって返事をすると、吉川は着席しながら俺の方を見て笑っていた。
学校では例えどんなに怪しまれようが、俺と真桜は『友達だ』と押し通す気だ。
「柚瑠くん今日誕生日って聞いたよ〜!おめでとう!!これ、よかったら食べて?」
「おー貰う!サンキュー。」
暁人にでも聞いたのか、1時間目の授業が終わった直後に、美亜ちゃんが可愛らしくリボンが巻かれてラッピングされた焼き菓子を俺にくれた。
さっそく食わせて貰おうかな。とリボンを解こうとした時、廊下から真桜が教室を覗いている。目が合うと小さく手招きしてきた。
「あ、呼ばれてる。じゃあ美亜ちゃんこれサンキューな。」
「うん!」
もう一度美亜ちゃんにお礼を言いながら席から立ち上がり、真桜の元へ行くと、ジーと俺の手にあったお菓子を見つめてきた。
しまった。咄嗟に持ってきてしまい、真桜からそれを隠すようにズボンのポケットに突っ込む。
「真桜どうした?」
「柚瑠にサンドイッチ買ってあげたいなーと思って。いつも食ってるし。」
「おー、やった。買って買って。」
「あ、日曜日に食いたいのも考えといて?」
「何にしよう、迷うな。」
祝ってもらうのは俺なのに真桜まで楽しそうにわくわくしているように話してくるから、俺も自分の誕生日にすごく楽しい気持ちになれた。
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