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先日、大好きな恋人との初体験を済ませた真桜は、現在幸せの絶頂にいるかと思いきや、「はぁ…」とひっそりと溜め息を吐き、アンニュイな表情で教室の前方をぼんやりと眺めていた。


そんな真桜をチラチラと眺めている6組女子。『今日の高野くんは、なんだか色っぽい』などと陰で噂されているイケメン、モテ男の高野 真桜。2年生になってもその人気が衰えることは無い。


ふとした時、思い返してしまう先日のことに、真桜は嬉しさ、恥ずかしさ、情けなさというあらゆる感情がごちゃまぜになりながら、机の上に肘をつき、目元を手で隠して、またひっそり「はぁ…」とため息を吐いた。


柚瑠に恥ずかしいところばかり見せてしまっている。一番格好つけたい相手を前にした時、格好がつかない。格好が良かった試しがない。柚瑠はいつもかっこいいのに、こんなダメな自分ではいつか柚瑠に嫌われるんじゃないか、という恐怖が付き纏う。

けれど柚瑠への好きは日々積もっていく。また柚瑠を抱きたい、もっと触りたい。こんなにダメダメなのに、欲は増すばかり。


真桜のじめじめした性格のように、外はどんよりした天気で、今にも雨が降ってきそうだ。


そんな時、体育から帰ってきた柚瑠がひょっこり真桜の前に姿を現した。


「おーい、真桜ーどうした?」


ハッとして、目元を覆っていた手を退けると、そこには大好きな柚瑠が。体育後で乱れまくっている柚瑠の前髪に手を伸ばして、スッ、ス、と撫でる。


しかし柚瑠はほんの少し気まずそうに真桜から距離を取って、自分でササッと前髪を手櫛で直した。人目がある教室で触られるのには抵抗がある。


「…あ、ごめん。」

「どうした?なんか元気なくないか?」

「…あー、…雨降りそうだし…?」

「あぁ、雨な。俺今日傘無いわ。」

「傘貸そうか?」

「いや、どうせチャリだし雨降ったら濡れて帰る。」


いつも雨が降ると、大雨でない限りレインコートも着ずに雨に濡れながら猛スピードで自転車を漕いで帰る柚瑠の姿に真桜はいつも風邪ひかないかと心配になる。


けれど柚瑠は風邪を引くどころかいつも元気で健康で、どちらかと言えば自分の方が体調を崩しやすい。

強い柚瑠と、弱い自分。

これもまた、真桜が自分に嫌気が刺す理由のひとつだ。





午後から雨が降りそうな天気だったが、放課後になるとザーザーと音がするくらい雨が降っていた。

まあ部活は体育館での練習で支障は無い。天気が悪い所為かなんとなく薄暗く感じる体育館で、バスケ部員のテンションもどこか低く感じる。


シュッ、とゴールに向かって投げたボールが、ガコッ、とリングに当たって跳ね返った。今日は俺も調子が乗らないな。集中しているつもりでもシュートがなかなか決まらない。


薄々自分でも気が付いていたが、今日は真桜の元気が無かったように感じて多分それが気掛かりになっている。


このあと真桜の家に行ってみようかな。
雨に濡れた奴が行ったら迷惑だろうか。
でも学校ではろくに二人で喋れないし。


そんなことを考えながら部活を終えて、結局学校からチャリ5分、ということもあり、真桜の家に行ってしまった。


家の人が居るかと思うとインターホンを押すのは少し気が引けて、ラインで真桜に家の前に居ることを呼びかけるとすぐにガチャ、と扉が開いた。


「うわっ!柚瑠びしょ濡れ!ちょっと待ってて、タオル持ってくる、」

「あっいや大丈夫だから!着替えあるし!寧ろこんなんで来てごめん。」


真桜の腕を掴んでタオルを持って来てくれようとするのを引き止め、鞄の中からタオルを取り出した。


「…やっぱ帰った方がいいか…?」

「えっ!なんで!?嫌だ!」


今更自分が非常識だっただろうかと思って口にした言葉に、びしょ濡れだったTシャツを着たままの俺の身体に真桜が抱きついてきてしまった。


おいおい、お前の服が濡れるぞ。と苦笑しながら、真桜の部屋に上がらせてもらう。



シャツもバスパンも脱いだパンツ一丁の俺を後ろから抱きしめてきた真桜。パンツはギリセーフで雨が染みていなかった。

今日は体育もあったから体操服を着て帰ろうか、などと考えながら頭を拭いていた手を下に降ろすと、俺の顔を覗き込んでいた真桜と目が合った。


「柚瑠来てくれて嬉しいな。」

「真桜なんか今日元気無いように見えたし。」

「めちゃくちゃ元気だよ。」


真桜はそう言いながら俺の乳首を摘んで、くりくりと弄ってきた。おいおい、まじで元気じゃねーか。なんなんだよ。


「なんだ。じゃあ帰ろっかな。」

「えっもうちょっと…!」


ギュッと力いっぱい抱きしめられ、これは暫く帰れそうにない。シャツを着ていない分、より真桜と密着していて変な気が起こりそうだ。


「…この前の、痛く無かった…?」


チュ、と首筋にキスをしてきた真桜が、その後耳元で囁くように話しかけてきた。この前?セックスのことか?


「ん?…あぁ、そりゃまあ、そこそこ?」

「…次は、もうちょっと余裕もってするから…、」


そこでチラ、と上目遣いで見上げられ、『またしよう』と言われている気分になる。今日はしたがらないんだな。てっきり毎回したがるのかと思った。


「楽しみにしてる。」


真桜の頭の上に手を置いてわしゃわしゃと髪を撫でると、またギュッと身体を抱きしめる腕に力が込められた。


「…下手くそでごめんな。」


ぎゅぅっと前に倒れる勢いで抱きしめられながら、真桜はそう言ってチュ、と今度は唇にキスをしてきた。


「最初はそんなもんなんじゃねえの?」


もしかして気にしてるのか?
元気が無さそうに見えたのはそれでとか?

そうだとしたら、繊細すぎる。俺はそこまで“下手”とは思わなかった。強いて言うならイクの早いだけだけど俺だって初めてだったら同じ感じになってたかも。


「…俺いっつも柚瑠の前だと余裕無くなるし。かっこわりぃな。」

「俺別にかっこいい真桜は求めてないよ。真桜がただかっこいいだけだったら好きになってなかったし。」


真桜の顔を見るように横を向いて言えば、真桜はハの字に下がった眉で俺をジッと見つめてきた。この顔はちょっと泣きだしそうな顔に似てる。庇護欲がそそるかわいい顔だ。


「ちょっとくらいダサい方が愛嬌あるって。」


そう言いながら俺は真桜と向き合うように体勢を変え、真桜の顔に手を添えて俺からキスをすると、真桜の口元は綻びて、すぐに真桜の顔には笑みが浮かんだ。



「…次いつ泊まりにくる?」

「いつにしようか。」

「柚瑠とまたしたいな。」

「うん、俺も。」


分かりやすく俺の言葉に喜んでいる真桜がかわいい。俺が痛くても進んで真桜に抱かれる理由は、真桜が喜んでくれるからだ。

だから別に、真桜は下手くそでも格好悪くても、そのままで居てくれれば良い。


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