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髪色より少し明るいキャラメル色のセーターが、真桜によく似合っていた。

“彼女がいない”高野真桜は相変わらず女子から人気で、俺はそんな真桜の隣で、いつも真桜の友人ぶって過ごしている。


佐伯はそんな俺をどう思っているんだろうな。

もうすっかり俺たちと関わることは無くなったけど、他のクラスメイトとはよく楽しそうに話している姿を見かけるようになった。まあ、元気そうで良かった。恋の傷を癒すのは時間か新しい恋だと思う。

佐伯も俺に心配されるのなんか癪だろうから、心の中でひっそり思っていることだ。



いつのまにか季節はすっかり真冬となり、外は寒すぎてたまらない。


次に行われる公式戦に向けて、俺は日々部活の練習に励んでいるが、練習が休みの今日は久しぶりに真桜の家に遊びに来ていた。


「あ〜寒かった。手が痛い。」


チャリをぶっ飛ばしてきたから、かじかんでいる手をゆらゆらと揺らしていると、あったかい真桜の手が俺の手を握った。


「お〜、あったけ〜。」

「何か飲む?コーヒー紅茶普通のお茶。」

「じゃあコーヒー。」


真桜のお母さんが居る時は真桜の部屋に案内されるが今日は留守で、リビングにあるヒーター前に座らせてもらって俺は暖を取った。


暫くすると、机にホットコーヒーを置いてくれた真桜が、ヒーター前にいた俺の方に歩み寄ってきて、後ろから腕を回される。


「俺が柚瑠あっためてあげる。」


そんなことを言って、真桜はただ抱きつきたいだけだろうけど、真桜の体温があったかいのは確かだ。


「柚瑠最近あんまり家来なかったから久しぶりだ。」

「他校で練習試合とかあったしな。最近の練習メニューまじしんどい、体力トレーニング多すぎてタカとか死んでるし。」

「そうなんだ、がんばって。」


ヒーターから出てくる熱風に手をかざしていた俺の腹の回りで、もぞもぞと真桜の腕が動いている。

撫でるように俺の腹に腕を巻き付けてくる真桜には、ちょっと妙なやらしさを感じてしまい、恥ずかしさから俺はそっと真桜の腕の中から抜け出して、机の上に置かれたコーヒーを飲みに行くことにした。


「今日真桜のおばちゃんは?」

「なんか友達とランチ行くって。」


コーヒーを飲み始めた俺の隣に、真桜がゆったりと移動してきた。机に置いてあったテレビのリモコンを真桜がピッと押して、静かだった室内がテレビ番組の音で賑やかになる。


時刻はまだ午前11時を少し過ぎたところで、テレビには報道番組が流れている。


「柚瑠はクリスマスとかどうやって過ごすの?」


真桜は頬杖をついて俺の顔を眺めながら聞いてきた。最近ではバスケ部員たちもよくそんな話をしている。

彼女が居る人は勿論彼女と過ごすが、いない奴はみんなで遊ぼうなんて言っている奴もいる。誰のことかって?タカのことだ。


「ん〜、普通に部活かなぁ。あとバスケ部の奴と遊んだり?」


クリスマスだからと言って特別なことをあまりしたことがないから、まあ普段通り過ごしているだろう。


「…ふぅん、そっか。」


俺の返事に、真桜はふいと俺から目を逸らした。


「あ、でもお互い予定無かったらなんか飯でも食いに行く?」


その言葉に、また真桜が俺の方を見て、コクリと頷く。ひょっとして俺を誘いたかった?言ってくれたらいいのにな。


「あ〜俺ラーメン食べたいな。今日の昼ラーメンどう?」

「いいな。そうしよ。」


コーヒーを飲み終えて、机の上にカップを戻すと、また真桜の手が俺の身体に伸びてきた。


やはり真桜の手つきはなんだかやらしさを感じてしまい、妙な気分になる。


「…柚瑠、こっち来て。」


そう言われて、俺が真桜の方へ身体を向けると、俺の腰に回った真桜の腕が力強く俺の身体を引き寄せた。


「柚瑠大好き。」


俺の耳元で、囁かれるように言われた言葉に、ドキッとさせられる。


真桜から『好き』って言葉を聞くの何度目なんだろう。真桜が俺のことをぽんぽん好きって言うから、俺はどんなタイミングで言えばいいものか…と、『好き』を言いあぐねている。


俺はそんなタイミングを探すように、真桜の頬に手を伸ばして、真桜の目をジッと見つめる。


“好き“を自覚してから随分日が経ってしまったな。

いい加減、自分の気持ちもちゃんと真桜に表明してあげなくちゃいけない。ずっとそう思っていた。



キスしようとゆっくりと近付いてきた真桜の唇が、俺の唇に触れ合う前に、俺は口を開く。


「俺も好きだよ。」


すると、見事に真桜の顔も身体も、ぴくりともしなくなった。


驚きで目を見開いたまま真桜が固まっているから、俺は思わず「ぶはっ」て吹き出してしまう。



もしかして、少しもそうは思わなかったのだろうか?

一体俺がどういうつもりで真桜に触らせてたと思ってたんだろう?


驚き固まる真桜がおかしくて、俺は真桜の顎を片手で掴んでむにむにと押しながら声に出して笑った。


「なんでそんなに驚いてるんだよ、そうじゃなかったらキスなんかさせないだろ。」


…とは言え、タイミングとしてはキスをさせた時点で言うべきだったのかもしれない。しかし自分にも臆病な面があるが故に、こんなに遅い告白になってしまった。


俺が真桜にそう言った瞬間に、『く〜ん』と犬の鳴き声みたいな、なんとも言葉には言い表せない声を出しながら、俺を勢い良く押し倒した真桜。なんだよその声、変な声を出すな。


「…うぅ、…俺も好きだよ…。」

「知ってるって。」


真桜の態度がおかしくてクスクスと笑っていると、カーペットに両手をつきながら俺を見下ろしていた真桜の顔が近づいて来た。


やっぱりと言うか、ハの字に下がった眉になんだか少し涙目。嬉し涙でも流すか?なんて思って見ていると、チュッと合わさった互いの唇。


すぐに離れるのかと思ったら、真桜の舌が俺の唇を沿うように少し舐めた。ぞくっとして、身体がぴくりと反応する。


それからチュ、と音を立てながら真桜に唇を吸われ、少し官能的に感じてしまったキスに、俺の心臓がやたら忙しなくバクバクと動く。


「…はぁ…どうしよう、もっと触りたい…。」


そっと唇を離されたあとに悩ましげにそう言われ、俺の口元はさすがにヒクリと引き攣ってしまった。

まるでお預けを食らった犬のような目で俺を見下ろしている。毛並みの綺麗な大型犬のようだ。


「待て。」


俺は真桜の顔の前で片手を突き出し、むくりと起き上がった。


「そろそろ腹減ったしラーメン行こうか。」

「…えぇ…。」


いつも俺の言葉にはうんうんと頷く真桜が、珍しく俺に不満そうな表情を向けた瞬間だった。


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