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文化祭が終わったと思ったら、9月下旬…今度は体育祭の時期が迫っていた。


「うちのクラス陸部居ないから男子は七宮、久保、斉藤、あんたらにかかってるからね〜。」


黒板の前に立ち、体育祭の出場種目決めで仕切っていたのは、体育委員でもあった佐伯だった。お前ほんと文化祭の時から大活躍だな。


俺の机に肘をつきながらそんな佐伯を睨み付けている吉川が、イライラしたように舌打ちをしている。


「体育祭なんか適当でいいでしょ。七宮、あれの言いなりにならなくていいからね。」

「あれって。相変わらず口悪いな。」

「あいつ見てるとほんとにイラつく、なんで真桜くんはあれと付き合うわけ?ブスなくせに。」

「うわ、失礼なやつ。明らかに性格ブスなお前よりは圧倒的に性格が美人だからだろ。」

「はあ〜?性格ブスで悪かったわねえ!!」

「うわ痛ッてえ!?お前それはないだろ!!」


俺の発言に吉川がベチン!と俺の頬を引っ叩いた。その勢いでガタッと椅子が傾き、慌てて机にしがみ付いた俺は吉川に向かって怒鳴りつけたが、気付いたときには俺の声が教室中に響いている。


「ちょっと七宮ぁ〜、聞いてる?」

「あ、悪い。こいつの所為。」


佐伯に指摘され、俺は吉川を指差しながら謝ると、今度は吉川にガンッと机を蹴られた。こいつ真桜に振られてから女子捨てすぎ。


「まあいいや、七宮リレーよろしくね。」

「はいはい。」


佐伯の言葉に素直に頷いただけでジロッと吉川に睨みつけられた。そんなに睨まれても俺は別にリレーに出ることに不満はない。

その後黒板に自分が希望する種目のところに名前を書き込みに行く時間を設けられ、俺はすでにリレーで決まっていたから座ってクラスメイトたちの様子を眺めていたが、目の前の吉川も立ち上がる気配がない。


「吉川も早く書きに行けよ。一種目は絶対だぞ?」

「めんどくさーい。七宮綱引きのところにあたしの名前書いてきてー。」

「お前絶対綱引く気ないよな。」


分かりやすすぎる吉川のチョイスにちょっと笑いながらそう言うと、吉川も「うん。」と頷きながら珍しくクスッと愛嬌のある笑みを浮かべて笑った。

吉川にパシられるのは不服だが、まあこいつが綱引きだけでも参加する気があるうちに名前を書き込みに行ってやろうと席から立ち上がる。

クラスメイトに混じって綱引きの欄に『吉川』と名前を書き込んでいたところで、「柚瑠がなんで吉川の名前書いてんだよ。」ってちょっと不機嫌そうな顔をした真桜が俺の隣に立っていた。


「え、まあ成り行き?」


…不機嫌そうにされてもなぁ。俺が吉川と仲良くしていても、もう真桜には関係ないことだろ。

チョークを置いて席に戻ると、真桜も俺の後に続いて無言で自分の席に向かう。


「柚瑠くんありがとね〜ん。」


真桜が吉川の横を通りかかろうとしたとき、吉川はわざとらしくぶりぶりな態度で俺に礼を言ってきた。

そんな吉川を、真桜が嫌悪感丸出しで睨みつける。


真桜の吉川への態度は相変わらずだが、吉川も真桜をかなり煽っているように思える。


「あはは、超〜愉快なんだけど〜。ねえねえ柚瑠もうあたしたち付き合っちゃわな〜い?」

「は?なんでだよ。嫌だわ。」


いきなり何を思ったのか、そんなことを言い出した吉川に訝しんだ目を向ける。

すると、俺の耳元に口を寄せた吉川が、コソッと内緒話をするように口を開いた。


「真桜くん絶対まだ七宮のこと好きだよね。」

「…は?」


真桜のどこを見てそう思ったんだ。

俺だって、心のどこかで、まだちょっとくらいは思っていることだ。


「あたしに敵視剥き出しの目向けてくるのが良い証拠。」


ふふっと笑いながらそう話す吉川の目線は、俺の背後、真桜の方へ向いている。


「まだ好きなくせに。あんなブスとわざわざ付き合っちゃってバカみたい。」


ブスブスって、俺は佐伯をブスだとは少しも思わないけど。吉川の発言はやはり以前白石が言っていたようにクラスの女子を見下している。


「…お前なぁ、そういうところだろ、真桜に嫌われてる理由。人を見下し過ぎなんだよ。」


本心で言っているのかは定かではないが、吉川の発言は聞いていられず、ストレートにそう指摘すると、「うん、知ってる。真桜くんにもまんまそう言われたし。」とムッとした顔で返事が返ってきた。


「でもあたしは人のこと蔑むことで情緒を保ってるの。今までそうやってきたから今更自分の性格変えらんない。」

「今更って。まだまだこれからだろ。」


俺には吉川が言う情緒の保ち方とか到底理解できないけど、そうやって自分の悪いところを吉川自身が理解できてるんだったら、そこまで本心で人を悪く言っているのではないのかもしれない。


「…まぁ、あんまり自分で自分の首締めんなよ。」


吉川は人を蔑んでいる分、しっかり自分に返ってきている。なんだかそれが哀れに思えて、俺は吉川に同情するように頭をポンポンと叩いた。


すると、いつもは口の悪い吉川が、下を向いて珍しくしおらしい態度で「うん」と小さく頷く。


いつもこんなふうに、少しは控えめにしていたらいいのに。って思ったけど、口に出すのは我慢した。

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