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「あっ今柚瑠くん通ったよ!!」

「見た見た!かっこいい〜!」


放課後、駐輪場からチャリを押して校門へ向かっていた時、キャッキャと楽しそうに喋っている女子たちの会話から『柚瑠』という名前が聞こえてきて、真桜がすぐにその名前に反応し、立ち止まった。


「どうする?あとでライン聞くならまじでバスケ部が練習終わるの待つ?」

「ん〜っでもまだ勇気でないし…。」


ほ〜?なるほどな?あの真ん中の子がどうやら柚瑠に気があるようだ。学校の周りをランニングしているバスケ部の様子を見ているのか。


「あの真ん中の子、柚瑠のこと好きっぽいな。」


すぐに状況を察して真桜にこそっと話しかけると、真桜はムッとした表情を浮かべながらこくりと頷いた。

真桜のようにめちゃくちゃモテる奴は稀だが、運動部の奴はそれだけでそこそこモテている奴もいる。サッカー部の誰々がかっこいい、とかクラスの女子もよく話している。
さては柚瑠もその部類か?…と、真桜繋がりで仲良くなった友人の姿を思い浮かべた。


俺の中で柚瑠は、失礼ながら友人というよりも“真桜の好きな奴”っていうパワーワードが貼り付いている。

柚瑠の第一印象はバスケ部、身なりを全然気にしない、普通の男子、って感じだったが女子から見れば違うのだろうか。


「あ、タカが通った。」

「うわ、あいつ走るのすげーキツそうだな。」


女子が柚瑠にはしゃいでいた時間から数分遅れで通過したタカの走る姿に、思わずそんな感想が漏れる。


「あいつ食った分ちゃんとエネルギー消費しねーとな。」

「タカの場合消費し切れてねえんじゃね?毎日ちょっとずつ脂肪が蓄積されてそう。」

「それはあると思う。」


真桜もタカには辛口だ。

休み時間の教室で、午前中のうちにすでに弁当やパンを頬張っているタカの姿を思い返す。あいつの場合は運動部でも女子にモテる…というよりはイジられてるって感じである意味人気だ。


そんなタカの話をしていると、何周目か分からない柚瑠が軽やかな足取りで通過した。先程の女子たちがやはり柚瑠の話をしてはしゃいでいる。


「柚瑠は食った分もちゃんと消費してそうだな。」

「爽やかだよなー。ほんと憧れる。」


真桜はそう言って柚瑠が通り過ぎた後も、ジーとバスケ部員が通過していく風景を眺めていた。


「真桜は、憧れ=恋になるのか?」


俺はふと、思ったことを真桜に問いかけた。

俺はいまだに真桜が柚瑠のことをどんなふうに好きなのか、何を求めているのかがいまいちよく分からない。

『好き』という気持ちを柚瑠に伝えたみたいだけど、特に何か関係が変わったわけではなく、現状維持って感じだった。俺は真桜の思いを自分なりにいろいろ分析して考えたら、なんだかモヤモヤした気持ちになる。


「憧れは恋だろ。」


真桜は俺の問いかけにはっきりそう頷いた。


「でも俺の考えは、“憧れ”って叶わないタイプの恋なんだけど。だから真桜も、どっかで自分の恋が叶わないと思ってるから“憧れ”って言葉が出るんじゃね?」


芸能人、スポーツ選手、同性の年上、異性の先生、いろんな人に抱くのが“憧れ”。そんなふうに考えている俺の意見に、真桜は暫くの間口を閉ざした。


一体バスケ部は何周走るつもりなんだ?タカがさっきよりもぜえはあしながらキツそうな様子でまた通過した。


「ぶはっ!あいつ大丈夫かよ!」


黙りこんでしまった真桜の隣で、俺がタカを見ながら吹き出すと、真桜もそこでふっと笑う。


タカが通過して暫くすると、走るのを止めたバスケ部員がチラホラ校内に入ってくる。柚瑠も割と早い方で、キツそうに息を吐きながら腰に両手を当ててゆっくり校門に向かって歩いてきた。


柚瑠の視線が俺たちの方を向き、真桜と二人で手を振るとのろのろと歩み寄ってくる柚瑠。真桜の顔にはすぐにパッと明るい笑みが浮かんだ。

俺はそんな真桜を見て、やっぱ好きなんだな、って思う。真桜は自分が持っていたスポドリを柚瑠にあげると、ゴクゴクとスポドリを飲み始めた柚瑠の姿をまっすぐ直視している。

乱れまくった髪と汗まみれの柚瑠の顔面に、“しんどそう”という感想を抱く俺の隣では…


『…やべ、…ちょっとムラッとした。』


本人を前にしてとんでもない発言をした真桜。俺は思わず真桜の頭を叩いてしまった。

真桜の性的嗜好を垣間見てしまった気がする。

幸い柚瑠には聞こえてなかったのか、真桜の発言には無反応で、柚瑠の後に走り終えた先輩らしき部員と一緒に校内へ戻っていった。


「…うわー、真桜ああいうので興奮するんだ。」


俺はわざと引いたような態度で言ってみると、真桜は頬を少し赤くして自分でも困惑するように無言で髪を弄った。


「…やべえよな。…俺まじキモ…。」

「…いや…多分そんなもんよ。だから真桜のは憧れじゃなくて普通に恋なんだって。ちゃんと叶えようぜ。」


ポンポン、と俺は真桜の恋を応援するように肩を叩くと、真桜は誰が見てもイケメンな笑みを浮かべて、控え目に頷いた。


…そっかー、真桜はあんな汗まみれの柚瑠の姿に興奮すんのね。って、俺は時間差で真桜の性癖にニヤニヤと笑った。


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