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『七宮って部活してたらかっこよくない?』
バスケ部の練習しているところをダンスメンバー数人で覗いてみたあと、女子の一人がぽつりとそう言った。
『まあね〜。部活してる男子って大体かっこよく見えるんじゃない?』
『それはある。』
楽しそうに話す女子たちの会話を聞きながら、俺の中でなんとなく、焦燥感のような、焦る気持ちが芽生えた気がした。
『てか白石さんって七宮のこと好きなんでしょ?』
『あ〜そうらしいね。クラスで噂広まっちゃってちょっと可哀想。』
『七宮はまだ知らないのかな?』
『そういや最近あんまり喋ってないんじゃない?』
クラスの女子から見た柚瑠は恐らく“絡みやすい男子”といった感じだ。でも会話をして仲良くなれば、女子が柚瑠を好きになる可能性をたくさん持っている。
それは白石が良い例で、俺は女子が柚瑠と仲良く会話しているのを近くで見る度に、焦る気持ちが募ってゆく。
柚瑠にもし彼女ができたら、きっと俺は嫌なんだろうな。
最近そんなことばかり考えていて、自分がどうしたいのか分からなくなる。
柚瑠と仲良くなれて願ったり叶ったりなはずなのに、どこかでちっとも満足していない自分がいる。
これ以上自分の気持ちを曝け出してしまうと、柚瑠を困らせてしまうのは目に見えているのに、中途半端に気持ちを気付かれているくらいなら、いっそのこと全部曝け出してしまおうか。なんて考えてしまう自分もいる。
『真桜は柚瑠と付き合いたいって思わねえの?』
夏休み、しょっちゅう俺の家に来ていたタケが、ふと俺にそう聞いてきた。
『…俺が柚瑠と付き合うって変じゃね?』
『なんで?男だから?別に有りだろ。』
タケは俺の返事にあっけらかんとそう答える。
カップに入ったアイスをスプーンで掬い、ぱくりと食べながら、『真桜見てるともどかしくなるんだよな。』と言われてしまった。
『…俺が柚瑠に付き合ってくれとか言ったら、普通にびっくりさせるだろ…。』
『そりゃ俺がタカに言われたらいきなりでビビるけどお前の場合違うじゃん?』
『…え、違う?なにが?』
いきなりタカを例え話に持ち出してきてどういう意味なのか困惑していると、タケは持っているスプーンで俺を指しながらハキハキとした口調で言われてしまった。
『真桜の態度は見てて好きなのがバレバレなんだよ。』
タケにそう言われて、納得と、羞恥心が込み上げてくる。
『柚瑠多分そこそこ気付いてると思う。』
『…それは、俺も思う。』
『自覚あるんなら尚更だろ。』
タケは結構鋭いところがあるから、タケがそう思うのなら、そうなんだと思う。
『でも気付いてて仲良くしてくれてるってことは、脈無しでは無いと俺は思うんだよ。』
アイスを食べ終えカップを机の上に置き、タケは真面目な顔をして考えるように腕を組んだ。
俺のことでこんなふうに考えてくれるタケは、昔からすごく良いやつだ。だから仲良くなったんだけど。
『どうせ気付かれてんだからさ、もう堂々と“好き”を前面に出していけよ。真桜に好かれて嫌がる奴なんか居ないから。』
そう言って、ポンポンと力強く俺の肩を叩いたタケ。まるで応援してくれているようなタケの言動に、俺の心がちょっと動いた。
『…確かにな。…そうだよな。どうせ気付かれてるんだったら…。」
恥じらいや照れを必死で隠そうとするより、男らしく当たって砕けた方が良いかもな。
…って、タケに背中を押されて、消極的だった気持ちが積極的へと変わりつつある、8月に入ってすぐのことだった。
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