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セミの鳴く音と、徐々に上昇する気温。
いよいよ夏は本番だ。


朝7時、少し寝坊してしまった俺は、汗だくになりながら久しぶりの朝練に出るためにチャリをぶっ飛ばした。


テスト週間はあっという間に終了し、テストの出来栄えは多分良い方で、赤点の心配は無く夏休みを迎えられそうだ。暫く部活が無かったから鈍った体を取り戻すのが少し大変そうだけど。


夏休みまで残り僅かの登校日。

いつもと変わらず朝練後には手におにぎり、それから凍らしたペットボトルのスポドリをもう片方の手で首に当てながら、バスケ部員たちとぞろぞろ教室へ向かう。


「七宮おはよ〜、今日は朝練あったんだね。お疲れ様〜。」

「おー、サンキュー。疲れた。」


クラスの女子に声をかけられながら自分の席に向かっていると、すでに着席していた真桜に気付き、こっちを見ていた真桜に向かってヒラヒラと手を振った。

すると少し笑みを浮かべて、ヒラヒラと手を振り返してくれた真桜。いつも真桜の近くに居た吉川はまだ来ていないようで、真桜の周辺は静かだ。

自分の席へ向かおうとしていた足を方向転換して真桜の元へ向かうと、「前髪すごいことになってる。」と言って、真桜が笑いながら俺の前髪に手を伸ばしてくる。


「うわっ触んねえ方がいいって、汗だくだし!」


汗まみれの前髪をまさか触られるとは思ってなくて、サッと真桜から距離を取っていると、近くにいたクラスメイトに「2人仲良いよねぇ。いつの間に?」って横から口を挟まれた。


「…あー、最近だよな?」

「うん。」


『仲良い』と言われて、他人から見ればそう見えるのか…って、ほんの少しだけ照れくさい。



テスト後の授業はほぼテスト返しで、俺の手元には68点だの73点だの微妙な数字のテスト用紙が戻ってくる。

悪くはないけど、そこまで良い点でもない。

けれど、43点と書かれたテスト用紙を隠すように持っていた隣の席の女子が、俺の点数を見て「うわ、七宮頭良かったんだ…」って言ってきたから気分は良い。

まあ俺が頭良いんじゃなくてお前が悪いだけなんだけどな。


休み時間に真桜が俺の席に来たから、点数を聞くと80点台やら良い教科は90点台のもあったから、頭良いとはこういうやつのことを言うのだ。


隣でその会話を聞いていた女子が、「…えっ高野くん頭も良いの?さすが彼氏にしたい男子学年ナンバーワン…。」と俺たちの会話に口を挟んできた。


「は?なにそれ。女子の間でランキングでもあんのかよ。」

「ううん、ランキングってほどではないけど1位だけは揺るぎないかな〜。」

「え〜なになになんの話?」


今度は俺たちの会話に割って入るように、吉川が俺の席の隣に現れた。

あからさまに嫌な顔をする隣の席の女子は、黙って吉川を睨み付けている。こわい。こわいって。


「女子の中で真桜が彼氏にしたい男子ナンバーワンらしいな。」

「あ〜そうゆう話?真桜くんまじ他のクラスの子からもギラギラした目で狙われてるからね。」

「お前もだろ。」

「え〜っ?」


『え〜っ』じゃねえよ。お前が一番狙ってんだろ。って思っている中で俺はふと隣の席の女子に目がいくと、眉間に深過ぎる皺を寄せて吉川を睨み付けている。

顔、顔!すごい顔になってるから!
ちょっとは自重しろ!

思わずその顔に笑ってしまいそうになっていると、話を変えるように吉川が俺を見ながら口を開いた。


「七宮もわりと好かれてる方だよ〜、よかったね〜。いつ見ても前髪跳ねてるけど。」


吉川はそう言いながら、俺をちょっとバカにするように俺の前髪を手で払った。


だからどいつもこいつも俺の汚い汗まみれの前髪触るなよ。ともう遅いけど吉川の手を避けるように頭を後ろに引く。


「そんな避けなくてもいいじゃ〜ん。」


真桜にベタベタ触っているところを何度も見たことがあるけど、こいつは多分、男にボディータッチが多いやつなんだろうな。

吉川が現れてから一言も口を開かなくなった隣の席の女子は、休み時間が終わって吉川は立ち去ったあと、小声でぶつぶつと吉川の悪口を言いまくっていた。


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