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朝6時半起床、10分で家を出る支度をしてから急いで朝食を食べ、チャリンコをかっ飛ばして約20分程度の距離に、俺が通う高校がある。

自由な校風で人気の共学校で、制服が無い私服通学のため、俺は所属しているバスケ部のTシャツやジャージを着て登校している。かたっくるしい制服を着なくていいのは楽でいい。

けれど多くの生徒はわざわざ自分たちで組み合わせたオリジナルの制服チックの服を着ている。高校生らしくてそれも良いと思うけど俺は楽なジャージ一択だ。


「あークソッ、信号引っかかった。」


7時集合、7時10分開始の朝練に遅れてしまうため1分でも早く学校に行きたいのに信号に引っかかってしまうのは致命的だ。

イライラしながら信号が青になるのを待っていると、俺の隣に自転車に乗っている白シャツを着て、長袖を肘まで腕まくりしている学生が、スッと並んだ。耳にはキラリと光るリングピアス。チャラそうな奴。

横目で何気なくその学生を視界に入れると、俺の方を見て何故か僅かに目を見開いている。

なんだ?と思いしっかりと視線をその学生に向けて見てみると、そこにいたのは俺が知ってる奴だった。


高野 真桜(たかの まお)、クラスのイケメンモテ男のリア充。俺とはまったく関わりないクラスメイトだ。名前に桜という漢字が入っていたのが印象的で綺麗だなと思いやけにはっきり名前を覚えている。

話したことは一度も無く、顔は知ってるものの『おはよう』とわざわざ声をかける関係でもないなと思い、俺は何も言わずに信号が青になると急いでチャリを爆走させた。


しかし何故あいつがこんな時間に?
部活もしてなさそうだし、始業ギリギリに教室に入ってきたあいつの姿を見たことあるけど?

まあ関わりもないしどうでもいいけど。とすぐに別のことを考えながら学校へ急ぐ。



「七宮(ななみや)2分遅刻ー。」

「うわっ!すんません!」


まだ今ならガラガラに空いている駐輪場に適当にチャリを停めて、水曜日の朝はグラウンド練習のため部員が集うグラウンドに顔を出すと、先輩がすでにストレッチをしているところだった。


10分間のジョギングと、体幹トレーニング。放課後ほどキツくはないものの、朝から運動するとその後の授業はほぼ死んでいる。


約1時間ほど朝練をした後、汗だくになったシャツを着替えて、おにぎり片手に肩にタオルをかけ、まるで風呂上がりのような装いで校舎へ。


「柚瑠(ゆずる)またあとでなー。」

「おー。」


クラスが違うバスケ部の奴ら数人とは別れ、俺は一人教室に入ると、仲が良いクラスメイトが朝の挨拶をしてくれる。

悲しいことにこのクラスにバスケ部は俺一人だから、同じように汗臭そうな野球部やバレー部の奴らと仲良くしている。


「あっつ…」


パタパタと教科書で顔を扇ぎながらおにぎりを食べていると、隣の席の女子に嫌そうな顔をされてしまった。


「七宮こっち向けて扇ぐな!」

「ごめん。」


本鈴が鳴る前におにぎりを食べ終わり、お茶を飲んでいた時、前方の入り口から高野 真桜が入ってきた。


「あー!真桜くんやっと来たー!おはよ〜!」


クラスの中で目立つ派手な髪色にアクセサリーをジャラジャラとつけた女子が、高野の腕に抱きつきながら声をかけている。

よくまああんなにべたべたくっつけるな。と感心する。

べたべたくっつかれていても、反応の薄い高野は返事もせず、かと言って手を振り払うこともせず席に向かった。かと思えば、ふと目線が俺の方を向いた気がした。

それはほんの僅か数秒で、サッと目を逸らされたから俺の勘違いかもしれない。


つーかやっぱ来るの遅いよな。

朝練がある俺と同じ時間帯にチャリ漕いでた高野が不思議すぎて、俺は高野が自分の席に座ったあとも無意識に横目で高野のことを観察してしまった。


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