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第4章【 新 生 生 徒 会 始 動 】
『みなさん、こんにちは。本日は生徒会から、お知らせがあります。生徒の皆さんはこれより速やかに、体育館への移動をお願いします。』
午後の授業が終わった直後、副会長による校内放送が校舎内に響き渡った。
“生徒会からのお知らせ”…それは、俺と光の生徒会入りについてだ。
「なんだろ、生徒会のお知らせって。」
「新歓絡みかなぁ?緊急集会って珍しいよな。」
「なんでもいいけど生徒会の皆様を見れるってのが嬉しいね。」
放送が流れてから、辺りはざわざわと生徒たちの話し声で騒がしい。
「おーおー、盛り上がってますよー?佑都。まさか佑都が生徒会入りするなんて誰も思わないだろうな。ますます盛り上がるぞ、これ。」
そう言って猛が、俺を見ながらニヤニヤと笑う。
そんな猛に俺は少しイラついて、3本の指の先でぐさっと猛の鳩尾を突いてやった。痛がる猛が面白い。他人事のように楽しそうに話す猛が悪いのだ。
「…別に一人役員が増えようが同じだろ。」
少し腰を曲げ、眉間に皺を寄せて鳩尾を痛そうに撫でる猛が少し可哀想になってくる。…が、
「や、そんなわけないって。そこらの委員会の役員が増えるのとはわけがちがうぞ。何てったって、学園のアイドルだしな、生徒会。」
その台詞で再び俺は、もう一度先程と同じ苛立ちが込み上げてくるのだった。
その学園のアイドルとやらである生徒会に俺はこれから入るんだけど?勿論、入らなくていいのなら入らないさ。でももうこれは、俺が決めたこと。会長副会長しつこいし、光野放しにしたくないし。
「アイドル二人追加ってか?あほくせぇ。」
「…でも、光の生徒会入りは、賛否両論あるだろうな。」
「文句言わせねぇよ。あれは俺のパシリだ。」
「そのパシリってポジションを羨む輩がいなけりゃいいけど。」
「パシリを羨むやつなんていないだろ?」
なにを馬鹿なこと言ってんだか。と猛を見るが、思っている以上に猛が真面目な顔付きだったため、バカにすることができなかった。
体育館へ向かう生徒たちの波に流されながら、猛とのんびり歩き俺たちも体育館へ向かう。
体育館は、さらに生徒たちの話し声で騒がしいことになっていた。
ぺちゃくちゃとお喋りを楽しむ生徒らをクラスごとに並ばせねばならない教師らは大変そうだな。とぼんやりしていたところで、俺は担任に名前を呼ばれ、手招きされたためそちらに向かう。
「神谷、お前はこっちだろ。なに普通に並んでるんだ。」
「え、俺なんも聞いてないんですけど。」
手招きされて担任と向かった先、それは、生徒会役員が待機していた舞台裏だった。
「顔見せと挨拶。これくらい当然だろう。」
そう言って担任は、俺を置いて舞台裏から立ち去った。…おいおいまじかよ。なんっも考えてねーっつーの。
と、げんなりしながらその場で佇んでいると、俺の周りに生徒会役員が集まってきて声をかけられる。
「お、来たな主役。おっせーよ!」
「や、いきなりなんも聞かされず、ここに連れて来られた俺の身にもなってくださいよ。」
「あれ?翔真、神谷くんと夏木くんに言ってなかったの?壇上で一言話してもらうって。」
「あー。…ま、言わなくてもわかんだろって思って。」
…イラァ。すんげぇ苛ついた。先程の猛相手とは比にならないくらい苛ついた。鳩尾に肘入れてやろうかと思うくらいに苛ついた。
「…チッ。」
相手は会長だ。それを我慢して舌打ちだけで済ます俺はまじ偉い。誰か褒めろ。
「ふふん、今神谷、会長に舌打ちしたよ。すごいね。」
「うん、俺も聞いた。びっくりだね。いやー、しかしありがたいよ。神谷が生徒会入ってくれたらこれで俺らもサボれるね。」
「おー、感謝感激。涙ちょちょぎれ。」
ゆるい空気を醸し出しながら、会長と副会長の背後で会話している生徒会役員二名の存在には気付いていた。
同じクラスの書記と会計である。
お前ら、聞こえてないとでも思ってんのか、その会話だだ漏れだよ。と奴らに鋭い視線を送る。
すると彼らは、二人揃って口元を両手で隠した。
「うわっ、神谷が睨んでる。」
「まじだ、聞こえたかな?」
バカか、お前ら。
今さら口塞いで何の意味があるんだ。
「おい、そこの菓子食いバカ2人。」
「「え?俺?」」
突然俺が彼らに声をかけたから驚いたのか、2人は背筋をピンと伸ばして目を丸くした。
「サボるの自由だけど俺がお前らの仕事代わりにやってやるはずねぇから。」
好 き に サ ボ れ ば 。
にんまりと笑って言えば、彼らは揃ってムンクの叫びのようなポーズをし、「神谷怖い!」と口を揃えた。
「いやーやっぱ神谷お前良いわ。怠け組のこいつら2人のしごき役に抜擢しよう。」
「いらん仕事増やさないで下さい。嫌です。」
俺の肩に腕を回し、ポンポンと肩を叩く会長。その腕を払いながら言えば、会長は愉快に笑った。…そんなことよりも、この書記と会計、会長も認める怠け組かよ…。
「ところで、菓子食いバカって?」
「そのまんまですけど。こいつら、教室でいっつもボリボリ菓子食ってますよ?」
「「ゲッ…」」
副会長の問い掛けに答えれば、菓子食いバカ二名はばつが悪そうに苦笑を浮かべた。
ん?俺なにかまずいこと言った?
そんな俺の疑問は、副会長の次の台詞ですぐに理解した。
「君たち!あれほどお菓子はほどほどにって言っていたのにまだ懲りずに食べていたのか!?生徒たちの模範になる君らがそんなにお菓子をボリボリと食べていたら示しがつかないって、僕が教師から注意を受けるんだからな!?神谷くん!!次この子らがお菓子食べてるとこ見たら、ビンタしてくれて構わないから!」
……と。そういうことらしい。
こいつら、日頃から副会長に注意されていたにも関わらずあれだけ菓子食いまくってるとかなかなかやるな。
なにより、いつも笑顔の副会長が、笑みを崩してまで菓子食いバカに説教してる姿がおもしろすぎる。
笑ってはいけないような雰囲気だったから、俺はこっそり会長の背後に隠れて「ふ、」と息を吹き出して笑った。
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