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「あのな、佑都。もうこの際だからまじではっきり言っとくぞ。親衛隊は、ま・じ・で、気をつけないといけない存在。佑都がじゃなくて周りが。佑都は絶対安全。危険なのは周り。勿論その周りってのは俺らも含むね。」


勇大の話に、俺は口を挟まず黙って聞く。

どうやら俺は、その実態を、少しも知らなかったようで。


「過去に親衛隊がやらかした実例がある。生徒会長と幼馴染みだった、一般クラスの生徒が、“制裁”という被害にあっていた。具体的に言えば、軽い虐めから強姦未遂まで。男同士とかここでは関係無いんだ。
…要するに、分かった?今佑都の幼馴染みが危険な立場だってこと。」


……驚いた。いや、本当に。“制裁”…?…強姦未遂って……俺が思っていた無視されるだとか、ハブられるとかと全然ジャンルが違うじゃねぇか。


「…まじかよ。…親衛隊ってそんな集団なのかよ。」


ならば、そんな集団はいない方が良い。


「まあ大袈裟に言ったけど、今はまだ何も起こってないからいいけど、何か起こってからじゃ手遅れだしね。佑都もある程度知っといた方がいいよって話だ。」

「…そうだな。…サンキュー、教えてくれて。」


俺は、今日向井の部屋に来なければ、彼らに出会うことはなく、親衛隊がいることなど知らないまま生活していたことだろう。

そう思えば、素直に彼らへの感謝の言葉が口から出てきた。

そんな俺に、何を思ったのか向井が俺の背中に勢いよく飛びついてきて、バランスを崩し、凛ちゃんの方へ倒れこむ。


「なに、なんだよ、おい向井?!」

「おおおおおま、ちょ、傑のあほぅ!?」


凛ちゃんの胸に倒れかかった俺に、びっくりした様子の凛ちゃんが、顔を赤くして声を上げた。


「佑都くん、そんな心配そうな顔しないで!勇大が言った実例は、飽く迄数年前の話であって、そんなほいほい起こることじゃないからね!!」


どうやら向井が飛びついてきたのは、俺が心配そうな顔をしていたかららしい。

だからと言って飛びつく意味がわからないが、それが向井の慰め方なのだろう。

今回だけは、大目に見てやろうと、向井の頭をポンと叩き、やんわりと向井を身体から引き離す。


「え、え、なに今の頭ポン、超ドキッとした!」

「次飛びついてきたら殴る。」

「つーか今の、学内でやってたら傑即制裁だな。」

「今のは衝動的っていうか!仕方なかったんだよ!だって俺、ますます佑都くん好きになっちゃったんだもん!」

「お前よく平気でそんなこと言えんな…。」


何の恥じらいもなくそう言ってのける向井に、どういう反応をすればいいのか困る。

しかも向井から身体は押し退けたものの、今度は右腕をガッチリと向井の両腕でホールドされているではないか。

カップルがいちゃついている時にするようなアレである。今度は構わず向井の頭を引っ叩いた。


「痛っ。」

「向井うぜー。」

「佑都くんの愛のムチ…。」

「違うしキモイしお前もう喋んな。」

「傑お前しばらくあっち行ってろ。」


ドカッと凛ちゃんが、向井の身体を突き飛ばした。ナイス凛ちゃん。そして、大人しくなった向井は、一人壁際で三角座りをして落ち着いた。


「よし。いらん事しいの傑が黙ったところで、俺から一つ提案がある。」


一息ついて、勇大が口を開いた。
皆、視線を勇大に向けた。


「親衛隊を佑都公認にすんの。」

「俺公認……?」


勇大の言うその提案の意図がイマイチ理解出来ず首を傾げる。聞き返した俺に、勇大は頷いた。


「そ、佑都公認。今まで非公認だった佑都の親衛隊たちを、公認にして大々的に活動させんの。佑都の支配下のもとで。」


と、勇大はその提案の説明をする。

つまり、親衛隊の勝手な行動を防ぐというメリットを考えてということでいいだろうか。


「それ賛成。そもそも生徒会役員並の人気で、親衛隊が非公認だったこと自体おかしいんだよ。」

「佑都があまりに無関心で変な噂も無いから、親衛隊もただ佑都を見て楽しんでただけなんだろうな。」


勇大の親衛隊公認案に賛成した将也に、猛も続く。
見て楽しんでたって何だよ…と俺は猛の言葉に眉をひそめる。

自分で言うのもなんだが、こんなつまらない男を見てもなにも楽しくない。まじで。


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