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「…佑都に、好きって言った。」
「……え?」
猛は、佑都に聞いても話してもらえないと思ったから、俺に聞きに来たのだろう。
猛は猛で、佑都の心配をしている。
だから俺は、親切心で教えてあげた。
先ほどあった俺と佑都の出来事なんて、たったそれだけのことなのだ。
俺はできるだけ大したことないかのように話すと、猛もキョトンとした表情を浮かべていて、まるでなんだ、そんなことか。というような空気に感じる。
でも、なんだ、そんなことか。ということが、俺にとっては結構いっぱいいっぱいなことだ。
そっとしておいてほしい…会長、その通りだよ。会長結構俺の気持ちいろいろ考えてくれてるよね。
「…えっと、マジな感じで…?」
「なに言ってんの。俺はいつもマジだよ。」
へらりと笑いながら言うと、猛は反応し辛そうにしながら顔を引きつらせた。
俺が佑都のこと本気で真剣に恋愛的な意味で好きとか驚いた?
「俺、佑都が友達に囲まれてるところ見て嫉妬するくらい、佑都のこと好きなの。」
もう佑都に本音を知られたからには、誰に本音を話したって怖くなかった。
「…あの、冗談な感じじゃなくて?」
「本気で言ったから、佑都困ってただろ?」
「…困ってるっていうか…。」
「俺のこと気持ち悪いって?」
「それはねえよ!…佑都は光のことそんな風に言わないだろ…。」
「いつも言われてるけどね。」
キモい、ウザい、ってのは、俺に対しての佑都からのお馴染みの返しだ。
「…でもっ」と猛は何か言いたげに口を開いたものの、黙り込む。
結局のところは、佑都の気持ちは、俺も猛も分からないのだ。
だから俺は、佑都の反応を見るのが怖い。
「だからもう、佑都を下心のある目で見てる俺は、佑都と一緒に居られない…っ。」
そう考えた途端に、また目頭が熱くなる。
ギュッと目を閉じたら、ほろりと涙が出てきてしまった。
人に弱みを見せてばかりで、もう嫌だ。
泣けば泣くほど自己嫌悪に陥ってしまう。
そんな俺を前にした猛は、ぎこちなく頭を撫でて慰めようとしてくれているらしい。
目をゴシゴシと擦って、「ごめん。」と謝ると、猛は「ううん…」と首を振って、困ったように笑った。
「…光、安心しなって。俺から見たら光って、佑都にとってかなり特別な存在だと思うから。」
「…特別な存在?」
なにそれ、すごい良い響き…。
俺は猛の言葉に顔を上げた。
「うん。特別。俺らとは違うってことだよ。」
「え…、どういうこと?」
猛たちとは違う…?
ちょっとよくわかんねえ。
猛に首を傾げて問いかければ、猛はここ数日間のことを思い返すように話してくれた。
「佑都が友達と喧嘩したのは光知ってるよな?」
「あー…知ってるよ。」
佑都の顔殴ったやつ。
あんなのは佑都の友達って名乗らないでほしい。と、どす黒い思いが胸にこみ上げてくる。
「佑都はちょっと仲良くなった友達と関係が拗れたらもう別にどうでもいいや。って感じだったんだよ。勇大には悪いけどさ。多分、佑都の友達に対しての執着心ってそんな感じ。冷めてるよなー…。」
猛はなんだか寂しそうに、そう話した。
「でも光の時は違うんだよなぁ。佑都自分から光の方に向かってくじゃん?俺らは簡単に縁切られても、光との縁はきっと切れねーよ。」
「…えぇ、猛はそんなことないだろ…。佑都はそう簡単には猛と縁切らないと思う。」
思ったことを率直に言えば、猛は「まじで?なんか光にそう言われると安心する!」と言って嬉しそうに笑った。
別に猛を安心させたくて言ったわけじゃねえけどな。
ああもう…自分捻くれすぎてる。
そんな俺の、黒い感情も知るはずない猛は、「まあ光はいつも通りの光で居ればきっとそのうち佑都は自分から顔出すよ。」と俺を慰めるようにそう言って、帰って行った。
…勝手なこと言わないでほしい。
いつも通りの俺でなんか、居られるわけないだろ…。
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