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夏休みが始まり、俺は部活部活部活の毎日を送っていた。でも少しくらい永菜に会いたくて、部活後永菜のバイト先のラーメン屋に行ったりした。


永菜がくれた餃子無料券があるから、と玲央も誘ったら喜んでついてきた玲央と共にラーメン屋に入ると、レジ前に立っていた男の無愛想な「いらっしゃいませー」という声で出迎えられる。


…あ、てかこの人浅見の兄ちゃんやん。


俺のことは知らないだろうが軽く頭を下げたら、浅見の兄ちゃんは一瞬キョロっと周りを見渡したあとペコッと頭を下げ返してくれた。


「浅見のお兄さんですよね?」

「あ……、はい。」


会話はまったく続くことなく、先にテーブルに案内されてしまった。永菜はどこだろうとその姿を探したら、奥のテーブルに置かれていた食器を片しているところだった。


「永菜、来たで。」

「永遠くんのお姉さんこんにちは〜」

「ああっ!いらっしゃいませ〜!来てくれてありがとう!」


永菜は手が離せないようでにこっと笑みを向けてくれたあと、厨房の方へ食器を運んでいった。


「お姉さんかわいいな。」

「俺の彼女やぞ。」

「分かってるって。」

「かわいいやろ。」


自慢げに言えば、玲央に「だからそう言ってんじゃん」と笑われた。永菜は食器を洗い始め、それと入れ違いのように他の男が奥から現れる。


「まだ男の店員おったんかい!」

「え?あぁ、バイト?夏休み入ったから忙しいのかな。」


あのイケメンの浅見の兄ちゃんだけでなく、奥から現れた若そうな男を横目で見ていたら、その男は浅見の兄ちゃんの横に立ち、二人で話し始めた。

…と思ったら、チラッとこっちを見られた気配がして慌ててサッと目を逸らす。ちょっと見過ぎてしまったかもしれない。


「永菜ちゃん注文していい〜?」


男の店員に来られても困るから名指しで永菜を呼んだら、ちょっと迷惑そうな顔をしながら歩み寄られてしまった。


「わざわざ私の名前呼ばんといてよ。」

「だって永菜ちゃんに来て欲しかったんやもん。」


そう言うと永菜は「もー」と呆れた顔をしながらもちょっと笑っていた。


短時間でも会えるだけマシだけど短すぎる。ラーメンを食べ終えた後はあまり長々と居るわけにもいかず、すぐに帰った。


そしてまた俺は部活部活部活の日々を送り、ようやく永菜と休みが合った日、永菜は俺を自宅に呼んでくれた。


「今日から永遠と浅見京都旅行行ってるんやろ?」

「そやで、永遠昨日ウキウキで荷造りしてたわ。」


永菜とそんな会話をしながら家の中に上がらせてもらい、周囲を見渡す。


「家の人は?」

「今日は誰も居らんで。だから侑里くん呼んだんやんか。」

「えっ…」


それはどういう意味で?

部屋の中に入って行こうとする永菜の身体に背後から手を伸ばせば、「わっ」とびっくりしたように声を上げられる。それでも構わず背後から永菜を抱きしめてみたら、チラッと振り向き、見上げられた。


「あ〜かわいい、好き。」


ぐりぐりぐりと永菜の頭に額を押し付けたら永菜はクスッと笑ってきた。あーやばい、頭めっちゃええ匂いする。


「私も。」

「チューしていい?」

「んー……うん。」


少し悩むような素振りを見せながらも、永菜が頷いてくれたから、顎に手を添えてチュッと唇を重ねた。

1回だけじゃ満足できず、もう一度、今度はさらに深く唇を重ねたら、「んっ」とかわいい声を出され、俺は自分の身体の危機を感じて少し永菜から距離を取る。


「…恥ずかしいなぁ。」

「永菜ちゃんかわいい。もっと触っていい?」


一応確認してから触ろうと思って聞けば、永菜はカッと顔を赤くしてそそくさと部屋から出て行ってしまった。…あかんかったか。まあしゃあない。触って良いって言ってくれるまで待つか。


永菜が部屋を出て行ったあと、部屋の中をじろじろと見渡した。高校時代の写真なのか、楽しそうに友達と写っている写真がたくさん飾られている。中には永遠とも写っている写真もあり、今の永遠よりもかなり童顔であどけない。

永遠は永菜の友達からも可愛がられていたのか、女の子に混じって写っている永遠の写真まであった。羨ましい奴め。

一枚一枚写真をじっくり見ていたら、お茶を入れたコップを持ってきてくれた永菜が「恥ずかしいから見んといて」と肩をぱしぱし叩いてきた。


「いや見るやろ。JKの永菜ちゃんクソかわいいやん。モテたやろ。」

「ん〜、普通。」

「絶対嘘や。何回告られたことある?」

「周り可愛い子多かったし私なんかほんまに普通やで。自分の方がモテるやろ。」


永菜はそう言って結局告られた回数は答えてくれなかった。絶対嘘やな。永菜ちゃんが一番かわいいに決まってる。


絨毯の上に座り、ゴクゴク…とお茶を飲みながら永菜を横目で見ていたら、永菜もこっちをジッと見てきて目が合った。…やっぱ触りたいなぁ。


「なぁ、抱きしめるくらいやったらいい?」


しつこくそんな問いかけをしたら、永菜は恥ずかしそうにしながらもコクリと頷いてくれたから、すぐに永菜を抱き寄せて俺の股座に永菜を座らせた。


「あ〜永菜ちゃんちっちゃくてかわいいなぁ。」

「あんたがでかいんやろ。」


すりすり、と永菜の肩に頬を擦り付けながら言えば、ツンとした態度で反対の頬をぺしっと軽く叩かれた。


「あんた言うな。次あんた言うたらおっぱい触ったるからな。」


冗談ではなく結構本気なことを言ったら、サッと両腕で胸元をガードされてしまった。


「嘘やって。冗談やから怖がらんといて。」


抱きしめて良いって言ってくれているあいだはそれだけで我慢し、ギュッと抱きしめながらまたキスをしたら、永菜の顔面は真っ赤に染まっていた。


…しゃあないなぁ、これだけでいっぱいいっぱいそうやから、しばらくはキスだけで我慢しとくか。…って、続けて何度もキスをした。


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