49 [ 50/101 ]




期末テストも終わり、夏休み間近のホームルームでは、9月に行われる文化祭についての話し合いをさせられた。


クラス委員が前に出て「まずは文化祭実行委員やってくれる人〜何人でもオッケーなんで〜」と呼びかけているが、このクラスに自ら進んで係などをやりたがる積極的なクラスメイトは居らず、去年も決めるのに一苦労だった。クラス委員を決めるのも毎回くじ引きで決められているくらいだ。

しかし、皆が周囲を見渡し『誰かやれよ』と言いたげな空気の中、永遠くんがチラッと一度俺の方を向いた後、「はいっ!」と元気良く手を挙げた。


「えっ!片桐くんやってくれんの!?」

「うん!俺やりたい模擬店あんねん!」

「あっじゃあ片桐くん前出てきて!」


珍しくこのクラスに自ら委員をやってくれる物好きなクラスメイトが現れ、「お〜」と皆拍手する。前に出て話すのが嫌そうだったクラス委員も、さっそく永遠くんに役目をバトンタッチできて喜んでいるようだ。


俺も永遠くん凄いなぁ…という目で見ていたら、教卓前に立った永遠くんは、またチラッと俺の方を見た後手招きしてきた。


「光星も一緒にやろうや!」

「えっ?…あっ、うん。」


俺はクラスメイトに永遠くんを好きな事がもう結構知られてる気がしているから、その好きな人に呼ばれて断れるはずもなく、少々気恥ずかしくなりながら席から立ち上がり永遠くんの隣に移動する。


「まずは模擬店の希望聞いた方が良いんかな?」


永遠くんはそう話しながら俺にチョークを渡してきた。しかし、「なにか希望ある人いる?」と永遠くんが問いかけても誰も何も言わないからまったく書く事がない。


「じゃあ俺の希望はこれ!」


そう言ってにこにこと嬉しそうな笑みを浮かべながら、永遠くんも手にチョークを持ち、黒板にでかでかと『たこ焼き』という文字を書いた。


「嫌いな人いる?たこ焼きやっていい?」


そんな永遠くんの呼びかけに、クラスメイトは皆パチパチと拍手した。彼らは仕切ってくれる人が居て、決め事がすぐに決まってくれればなんだって良いのだ。


「じゃあ決定な!目標は安くて旨い!美味しいたこ焼き屋さん!!賛成の人挙手!!」


また永遠くんが呼びかけると、シュッと全員手を挙げる。いつもなかなか決まらないことがこうもあっさり決まってくれることに、皆永遠くんに感謝していることだろう。


「やった〜、俺たこ焼き屋やってみたかってん。」


俺を見上げて笑うかわいい永遠くんに、自然に頬が緩んでしまった。『よかったなぁ』って頭をよしよし撫でたかったけど、クラスメイトたちの前だからなんとか我慢した。



夏休みまでの間のホームルームでは毎回永遠くん希望のたこ焼き屋の話し合いや準備が進み、頭が良い永遠くんは本気で“安くて美味い”たこ焼きを売ろうとガチ作戦を立てている。


「たこ焼きって言ってるけどタコは結構高いから他にもなにか代わりになる材料を追加しようと思います!具材希望ある人挙手!」

「はい!俺チーズ入れたい!」

「ウインナー!」

「お餅!」


永遠くんがみんなの前に立ち仕切り始めると、クラスはアットホームな空気となり徐々に他のクラスメイトたちも発言し始めるようになった。

どんどん提案される具材を黒板に書いていき、多数決を取ったり安さを優先してタコの代わりに入れる具材を決めていく。


「たこ焼き器はおっきいのをレンタルしてもらえることになったので、調理に自信ある人は何人か調理係をお願いしたいです。後の人は販売、会計、教室の飾り付け、調理室から運んだりしてくれる人、買い出し…こんなもんかな。俺的には調理係は調理に集中してもらって、調理係じゃない人があとのことを分担してくれると良いかなと思うんやけどどうでしょう。」


永遠くんは淡々と意見を言ったあと、まずは調理係になってくれる人を募る。すると意外にも「やってみようかな」と興味を示しているクラスメイトが何人か居てくれたため、結構早く決まりそうだ。次に調理係を永遠くん、その他の役割を俺が中心となって細かいことまで決めていくことになった。


夏休みが始まるまでの期間中に、安くて美味しいたこ焼きを販売するための策を練りまくる永遠くんは、家では早くもお姉さんから作り方のコツを聞いたり練習してみたりしているらしく、作り方の動画を見たりもして調理係の人たちと休み時間でも作戦会議をし始めた。


俺はそんな様子を側で見ていたら、隣のクラスから香月がひょっこり顔を出してきた。


「永遠なにやってるん?」

「文化祭で出すたこ焼き作りの作戦会議。」

「へぇ、燃えてるなぁ。」

「お前んとこチョコバナナだっけ。」

「おう。皮剥いてチョコかけるだけやしな。ホワイトチョコもかけよかて言う話出てたけどなんか担任に却下されたわ。担任絶対えろいイメージしよったやろ。」

「…それ言い出した奴もえろいイメージでホワイトチョコかけようかって言い出したんじゃねえの…?」

「ふふっどうやろな。……まあ言い出したの俺やねんけど。」

「お前かよっ!!」


てっきりクラスメイトの話をしているのかと思いきや香月自身の話で、べしっと香月の肩を叩きながら突っ込めば香月はへらへらと笑っている。その香月のへらへら笑いがえろいこと考えているのを物語っている気がして呆れた目を向けていたら、香月は「なぁちょっと浅見に相談なんやけど」と言いながら俺を廊下に連れ出した。


[*prev] [next#]

bookmarktop
- ナノ -