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「新見くん、朝有坂先輩に変なこと言われたらしいね…。大丈夫だった?新見くんが有坂先輩に凄い怒ってたって聞いたんだけど。」


1時間目が終わり、休み時間に入ると、杉谷くんが心配そうに俺に声をかけてくれた。


「あー、ありがと大丈夫。寧ろ利用させてもらったから。」

「えっ、利用?」


隆にあの後、『俺のために倖多が怒ってくれるのは嬉しいけど、逆ギレされて倖多になんかされても困るからもう二度とあんな風に言い返すな』と複雑そうな顔で言われてしまった。


確かに“後が怖い”という気持ちがなくはないけど、あんな不愉快なことを言われてまで黙っていられるわけがない。それに立ち位置が逆だったら隆は俺よりもっとキツく相手を罵っていたはずだ。


「最近隆が悪口言われてばっかで俺もだんだん嫌になってくるからさぁ。根本的な“悪”が何なのか周囲にも分かってもらえたら隆への見方も変わると思って。」

「あ〜、そうだよね。エロビ欲しがられるとかさすがに気の毒だよね。」

「…おお、しっかり噂広まってるなぁ。隆にはちょっと悪いことしちゃったかな。」

「ううん、周りが知ってた方が盗撮とかもしにくくなるし良いと思うよ。あの先輩よく瀬戸先輩のこと盗撮してたらしいから。」

「うわ、まじで?またムカついてきた。」

「でもあの人何しだすかわかんないし、新見くんも気を付けてね。」

「うん、杉谷くんサンキューな。」


心配してくれる杉谷くんにお礼を言うと、杉谷くんはひらりと手を振り自分の席に戻っていった。

杉谷くんから話を聞いて、着々と噂が広まっていることを知り、俺は少しでも周りの隆を見る目がマシになることを願った。

ついでに、そろそろちゃんと俺らが本気で付き合ってることを周りが信じてくれたらいいな。…っていうのはほんとについでだけど。





「隆、なんか大変だったらしいな。今朝。」

「まじ最悪。あいつ相変わらず不快な思いばっかさせやがって。俺の喜びの時間返して欲しい。」


休み時間に入り、祥哉に話を聞いて欲しくて祥哉の席まで歩み寄ると、祥哉の方からその話を持ち出してきた。

しかし俺のしたい話はそれじゃない。


「エロビ求められたんだって?いっそのこと新見との濃厚なセックス動画送りつけてやったら?見るのも嫌になるくらいイチャイチャしながらヤってるやつ。」

「…おお、その発想はなかった。……って、いやいやねえわ!ふざけんな!!!あいつに渡したら悪用されそうだろーが!!!」

「すまん、今のは冗談冗談。」


ポンポンポン、と俺の肩を叩きながら祥哉は言うが、お前が言うとあんまり冗談に聞こえねえんだよ。


てかもうその話やめろ!せっかく有坂の存在忘れかけてたのによりによってこんな気分が良い今日に本人登場で最悪だ。


「違う!!俺が話したかったのはそんなクソ話じゃねえんだよ!!」


祥哉が座る椅子の足をガンガンと蹴りながら言うと、「じゃあなんだ?」と聞き返してくる祥哉。その瞬間、俺の顔はにんまりと緩み、しゃがんで祥哉の机に両肘を突き、顔面を両手で覆った。


「昨日倖多と初めてヤった。」


抑えきれないニヤけた顔で祥哉を見上げると、祥哉まで俺を見てニヤニヤしている。


「お〜、新見ちゃんからお許し出たんだぁ。」

「俺が迫ったんじゃなくて倖多の方から良いって言ってくれたんだよ!」

「ようやく新見も隆のこと心も身体も受け入れる準備ができたってことだな。」

「おう…、頑張って受け入れてくれてた…。まじ思い出したら勃起する…。倖多の耐えてる顔だけで唆られるし、声もすげー可愛かった…。」

「まじ?じゃあ新見のエロビくれよ。」

「おい祥哉!!!お前それわざと言ってんだろ!!!」


祥哉は真顔で冗談を言うからまじで冗談に聞こえない。肩をバシンと叩くと、祥哉は言い訳するように口を開く。


「隆が自慢げに話してくるからだろ。」

「自慢げじゃねえよ!惚気だよ惚気!!!」

「そのうち隆も新見のエロビくれっていろんな奴に言われちまうかもな。新見のことは諦めてるからせめてエロビくれ、ってな。」

「…こっ、怖いこと言うんじゃねえよ…。そんなこと言う奴は有坂一人で勘弁してくれ…。」

「まあ気を付けろっちゅーことだ。新見ちゃんかーわいいからなぁ?」


ニタニタした顔で言う祥哉の言葉に、俺はそれ以降大人しく口を閉じた。誰に話を聞かれているかわかんねえ教室の真ん中で、呑気に倖多とヤった話なんて言ってる場合じゃなかった。

いくら惚気話がしたくても、倖多のかわいさは俺の胸の中に留めておこう。


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