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散々誘われても断ったり、拒んだり、先延ばしにしていたくせに、自分でも不思議に思うくらいあっさり自分から隆に抱かれに行った。

なんか、『もう隆に全部委ねちゃえ』って思った。先輩だから先に卒業してしまうけど、一緒に居られる俺の学校生活2年間は、隆に委ねようと思った。


1000メートルリレー頑張って走ってたし。あんなに必死になって走るとは思わなくて、体調まで崩してる隆とか思い返したら、なんか、愛おしくなってきて。俺なりにご褒美あげたくなったのかもしれない。


やってみたらやってみたで痛かったし、苦しかったけど、これまた不思議なことに気分は高揚している。ずっと嬉しそうにニタニタ笑ってる隆に呆れた顔を向けながらも、内心めちゃくちゃ照れ臭かった。


昨晩はもうずっと隆から甘いオーラを振り撒かれ、余韻に浸るように何度もキスをされ、触れられ、恥ずかしい時間を過ごした。隆はやっぱりこういうの慣れてそうだけど、俺は初めてだから自分だけ恥ずかしがっていて逆にそれが恥ずかしい。

けれど、俺たちの距離が一気に縮まった気がして、恥ずかしいけど嬉しい、そんな気持ちだった。



朝、隆と肩を並べていつものように学校への道を歩くが、隆は上機嫌だ。肩を抱かれ、首に唇を寄せキスしてこようとするのでそれは少し勘弁して欲しい。


軽く顔を引き、隆の顔を遠ざけようとしていたら、ぬっと突然俺たちの背後に人が現れる。


「キミたち昨日ヤったでしょ。」


そして突然その人の声が耳にスッと入ってきて、俺の背筋はゾクっとした。振り返ったらそこには、久しぶりに見る有坂先輩が立っていた。


「僕そういうのすぐ分かるんだよね。」


…え、こわ。たまたま当たっただけだろ。

もう絡まれることはないと思っていたから、突然のことに身構える。けれどその前に隆がサッと俺を守るように有坂先輩から俺を遠ざけてくれた。

有坂先輩は目の前に立つ隆を見上げて、ジッと見つめる。


「やっぱり僕、隆くんの顔が一番好きだなぁ。」


一体今度は何が目的なのか、有坂先輩はぶりっこするように唇を尖らせ、上目遣いで隆を見る。


「気持ち悪りぃんだよ、まじで消えてくれ。」


容赦無い隆の態度に俺はちょっとヒヤヒヤしてしまうが、こんな態度だけでは懲りない先輩だということは知っている。

有坂先輩はやはり気にした素振りを見せずに、今度は俺に視線を向けてきた。


「生身の隆くんにはもう全然興味ないからさ、隆くんのエロビが欲しいなぁ。新見とヤってる時の動画でいいから撮ってきてよ。挿入部分は無くても顔と身体の動きさえちゃんと撮ってくれたらいいからさ。」

「え…、きもちわる。」


思わず本音が漏れるのと同時に、顔面が引き攣った。


「あ、お金払おうか?1本いくらがいい?」

「こいつまじでキモ…。」


こんなに気持ち悪がられているというのに、懲りずに笑顔で話してくる有坂先輩はどういうメンタルをしているんだろう。常人には理解できない思考をしている。


隆は俺を守るように立ってくれていたけど、寧ろ守るのは俺の方だと思い、隆を後ろに押して俺が一歩前に出た。


「いい加減にしてもらえませんか?あなたかなりめちゃくちゃなこと言ってるの分かってます?」

「うん?新見が僕のお願い聞いてくれたらすぐ済む話でしょ?」

「そんな気持ち悪いお願い聞けるわけないですよ。好みの人が出てるAVでも買ったらどうですか?」

「だから好みの人が隆くんだって言ってるの。」


あ、だめだ。やっぱこの人全然話が通じない。

だんだん道のど真ん中で立ち止まって向き合う、俺たちの間に流れる不穏な空気を察した人々にジロジロと目を向けられ始めてしまった。


「そんなの俺たちは知ったこっちゃないですよ。不愉快なのでもうこれ以上隆を性的な目で見るのはやめてください。」

「え〜、でもそれって僕の勝手じゃない?」


…ああもう無理だ。まじでむかついてきた。


今になって俺は、この人にビンタされた恨みとかが沸々と湧き上がってきてしまった。

話が通じない相手には、何を言っても初めから無駄だった。そもそもこの人には、倫理観が無さすぎる。


思えばこの人が、平穏に送るはずだった隆の学校生活を“荒らした”と言っても過言ではない。今隆が周りから冷たい目で見られているのだって、元を辿れば全部こんな考えを持つ人が居ることが悪い。

だから俺は、『何事だ?』と徐々に様子を窺われ始めたこの状況を少々利用させてもらうことにした。


俺は一歩先輩の方に詰め寄り、近距離で先輩を睨み付けながら、周囲の人間に聞こえるように先輩に向かって怒鳴りつけた。


「隆が嫌がってんの見てわかんねえのかよ!」


俺のその声で、一気に周りの注目を集める。


「俺に恋人のフリを提案してきたのだってそもそも先輩みたいなのから逃げたかったからなのに、俺らが付き合った後までまだそんなこと言ってんのかよ!!!」


これは、よく事情を知りもしないで隆のことを悪く言う人たちに知って欲しいと思ったことだ。

周りの人はもう少し、本質を理解した上で人のことを悪く言うべきだ。


そして次に、有坂先輩に向けての言葉を言い放つ。


「人が、嫌がる、ことを、するな!!!!!」


一語一句、強調するように先輩を指で刺しながら怒鳴りつけると、スッと表情を無くす先輩。


「隆のエロビが欲しいだぁ?あげるわけねえだろ!!二度と俺の恋人を変な目で見んな!!」


言いたいことを言ったあと、言い逃げするように隆の手を掴んでさっさと先輩に背を向けてやった。

どうせ言っても話通じなさそうだし、うんと周りから冷めた目で見られたらいい。


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