おまけ2 [ 37/188 ]
「おいりと、お前りなのアルトリコーダー返せよ。」
俺たちが移動教室の時、今度は俺とるいが、移動教室のついでにるいの弟、りとの元へ赴いた。
るいが現れた瞬間、騒ぎ始める下級生の女子たち。「矢田先輩だ」だの「りとのお兄ちゃん」とその場はかなり盛り上がる。
当の本人、るいはと言えば、周囲の視線などこれっぽっちも気にせず、弟、りとの元へ歩み寄った。
「あぁ?いちいちこんなとこまで来んじゃねえよ!」
るいの弟はるいの姿を見た瞬間、不機嫌そうに眉を顰めてそう吐き捨てた。その顔は、るいとはめちゃくちゃ似てる、とは言えないものの、やはり兄弟なだけあって、どことなく似ている、といった感じ。
その顔も当然のようにイケメンに整っているのだが、こちらのイケメンはるいのような綺麗に整えられた髪やスッと伸びた背筋、ちゃんと着こなした制服、といったような、言うならば正統なイケメンといったようなものではなく、ワックスで弄り倒したようなチャラい髪型に、シャツのボタンは胸元がオープンすぎるくらい開けられており、そのシャツはズボンの中になど少しも入っておらず、さらにかなりの腰パンだ。
一言で言うなら不良。だがそれは外見だけの話で、やはりるいの弟なだけあって頭も運動神経も良いらしい。けれどそこがまた厄介だということはお分りいただけるだろうか。
成績が良いため、服装や授業態度が最悪なこの弟のことを、教師はうまく注意できないのだ。
仮に注意したとしても、口が達者で頭の良いりとにうまく言い返され、更にキツイ性格であるりとを教師は完全に恐れている。
そんなりとを相手にできるのは、俺が知る中ではるいしか見たことがない。
「そう言うならりなのアルトリコーダー出せ。お前家に持って帰ってねーだろ。無くしたとか言ったらしばくぞ。」
「無くしてねえよ!」
「だから出せって。んでお前もう二度とりなから物借りんなよ。」
るいに指図されたりとは、机の中に入れてあったプリントや教科書をばさりと机の上に広げた。
「うわ。きったねえな。」
「うるせえよ!」
「で?これのどこにあるって?」
「……ねえなぁ。」
りとの小さな呟きに、るいは眉間にしわを寄せ、かなり怖い表情を浮かべている。
チラリとるいの表情を窺ったりとは、少し焦りを見せながら立ち上がった。
行く先は教室の後ろにあるロッカーで、こちらの中もまたかなり荒れた様子であり、りとはロッカーの中身を全て地面に引きずり落とした。
ゆっくりとりとの元へ歩み寄ったるいは、また先程と同じ台詞を口にする。
「うわ、きったね。お前よくこんなんで過ごせるな」
「…………。」
「なんで靴下なんか入ってんだよ。それ早く捨てろよ。汚ねえから」
「………あ!あったあった!ほらあるじゃねえか!!」
「威張ってんじゃねえよ。この不潔男が!」
「ったああ!!!!!」
りとからアルトリコーダーを奪い取ったるいが、りとの頭をグーで強く殴りつけた。
頭を抱えて蹲るりとに目もくれず、るいはさっさと教室の出入り口へ向かうが…
「靴下まじで早く捨てろよ。」
一言そう言ってから、るいはりとの返事も聞かずにその場を後にした。
どうやらるいてきに一番引っかかったのは、いつ履いたかもわからない靴下が、ロッカーから出てきたことのようだ。
果たしてあの弟は、素直にるいの言うことを聞いて靴下をすぐに捨てるのだろうか。
その後のことは、りとのクラスメイトだけが知っている。
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( ※ りとの友人目線 )
「ダァァったくクソうぜえ!!!!!」
りとの兄貴が立ち去った後、りとは床に散らばった自分の私物を乱暴にロッカーの中に投げ入れた。
「るい先輩見れて超幸せなんだけど。」
りとの女友達がりとにそんな言葉を向けると、りとは不機嫌そうな顔をしながら「お前の幸せちゃっちいな」と吐き捨て、バタンとロッカーの扉を閉める。
「あ、ちゃんと靴下は捨てるのね。」
床に落ちていた靴下を拾い上げ、ゴミ箱へ向かっていったりとに思わずツッコミを入れると、りとはじろりと俺を睨みつけた。
そして、ゴミ箱へ向かっていた足は途中で方向転換し、俺の方へ向かってきたではないか。
「え、」とその場で固まっていると、「ふが!!!!!」とりとは俺に向かって、その汚い靴下を投げつけた。
「うわっやめろよ!!」
見事、顔面で靴下をキャッチしてしまった俺がふるふると首を振って靴下を振り払っている間に、今も尚不機嫌面なりとは、ドスドスと足音を立てながら自分の席に戻り、ガタリと派手な音を立てながら着席した。
「るい先輩と話したあとのりとってまじ不機嫌だよね。」
「あ?別に?」
「ほら、不機嫌。」
隣の席の女子にそう話しかけられたりとは、まさにその不機嫌な顔に手を当て、机に肘をついてそっぽ向いた。
片手でポイポイ机の上に乗ったプリント類をしまい、次の時間の授業の教科書とノートを取り出す。
「あっやばい!英語の予習してない!りとノート貸して!!」
ハッとした女子が、りとの返事を聞く前に、そのノートを横から取り上げた。
女子はりとのノートを広げ、慌てて写し始めたが、りとは文句を言うこともなく、不機嫌な顔のまま貧乏揺すりをしている。
女子が開いたりとのノート。
そのノートはいつも、普段のりとの様子からは想像できないくらい、綺麗なバランスの取れた字で、まとめられているのであった。
さすがはあの容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群で有名な、矢田先輩の弟だ。
おまけ2 おわり
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