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「いやーしっかしるいきゅんに看病してもらえるとは嬉しいなあお粥うめえもんもん」

「食いながら喋んなよ。」

「うす。」


赤い顔してるけど、元気そうに喋る航。そんで、お粥食い終わったら病人らしく布団に倒れ込んで静かに眠り始めた。

やっぱり身体は正直らしい。

無理して食ったのか、それともほんとに腹が減っていたのかは疑問だが、空になった器を流しへ運ぶ。


あ、しまった。
水分取らせるの忘れたな。

気付いた時には航はぐっすり眠っているようで、わざわざ起こす気にはなれない。しかし水分補給をさせなければ。


隙あらば水分を摂らせるために、自販機で買ってきたスポーツドリンクのペットボトルを持って、航が眠るベッドのすぐ側に腰を下ろした。


ベッドに顎を乗せて航の寝顔を覗き込む俺は、一体学校サボってなにやってるんだ、と一人こっぱずかしくなってくる。


けれど、普段この距離で航の顔面を見ることなどあまり無いため、気付けば俺は数分間、これでもかというくらい、航の顔面を眺めていたようだ。


ポカンと口を開けて眠る航は、幼い子供みたいでちょっと可愛げがある。布団からはみ出た手が口の横にあり、赤ちゃんみたい。


病人で暇つぶしをするのもあれだが、航の緩く握られた拳の隙間に人差し指を入れると、軽くギュッと握られ、思わずクスリと笑ってしまった。

まじで赤ちゃんみたいだ。


それからぐっすりと航が眠っていることをいいことに、顔にかかった前髪を払いのけたり、頬をつん、とつついてみたりしていると、航の目がゆっくり開かれ、俺はそこで「あ」と我に返ったのだった。


「寝れねえ。」

「………ん?」

「るいが茶々入れてくるから寝れねえ。」

「………!!!」


起きてたのかよ!!!!!


俺は航から告げられた言葉に顔から火が噴きそうなくらい顔面が熱くなった。唖然としてしまい、恥ずかしさのあまり口が開けなくなった俺は、顔面を布団に突っ伏す。


「…ん?るい?」

「…あ、これ飲めよ。」

「あ、うん。」


顔を布団に突っ伏しつつ、航にスポーツドリンクを受け取らせるように掲げると、航は返事をしながらペットボトルを俺の手から受け取った。


「よいしょ」と身体を起こす航は、ペットボトルの蓋を開け、ゴクゴクと体内に流し込んでいる。

俺はと言えば、熱い顔をなんとか冷まし、そろりと顔を上げ、再びベッドに顎をついた。


「…あれ?もしかして照れてる?」

「…なんで。」

「俺が寝てると思ってたから、俺のほっぺたツンツンしたりして遊んでたんだろ。」

「…そういう察しがいいのやめろよ。」

「うわ、当たり?まじ?俺も照れる。」

「……はあ。」


なんでお前が照れるんだ。
恥ずかしいのはどう考えても俺だろ。


ため息を吐きながら自分の行いを後悔していると、航は俺に視線を向け、口を開いた。


「うわー…なあ、今俺すっげえるいにキスしたい。」


そう言った航にチラ、と視線を向けると、俺と航の視線がぶつかる。


「るいに風邪移す。」

「……移せば。」

「いいの?」

「……うん。」

「るいに俺の風邪移ったらちゃんと俺が看病するね。」


そう言って航はゆっくりと俺の唇に顔を寄せ、数秒間俺の唇に口付けた。

唇をゆっくり離した航は、チラ、と俺の顔を覗き込む。しかしすぐにまた、角度を変えて口付ける。

まるで発情期か。と突っ込みを入れたくなるほど、何度も俺の唇に口付けてくる航の口を、手で塞いだ。


「はい終わり。お前まじで移す気だろ。」

「大丈夫、ちゃんと俺が責任取るから。」


そう言って航はまた、俺の手を押しのけて、俺の顔面にグッと自分の顔を近付けた。


病人のくせになんだよこいつ。
やけに積極的すぎる航に一旦諦め、再び航の唇を受け入れた。


熱い航の唇からは、「ハァ、」と熱い息が漏れ、気だる気で、とろんとした目が俺を見る。


「ハァ、やべえ、とまんねえ…」


こいつ絶対熱で頭やられてんじゃねえの。

どんどんこちらに押し寄せる航の身体に、俺は少し危機感を感じた。そして、俺がそう思った直後…


「ちょ、おま、大丈夫かよ…うわっ!」


ドサッと航の身体が俺の身体を下敷きにした。


……おいおいまじかよ。


ベッドから落ちて俺の身体にのしかかる航は、ぐったりしたように目を閉じた。

そりゃそうだろうな、だってこいつは病人だ。

つーかこいつ絶対寝ぼけてただろ。
病人のくせにどんだけキスしてくるんだよ。


「るいー…」


俺の名を呼ぶ航は俺の胸元に頭を乗せ、両腕を俺の身体に巻き付ける。


「んぁー…」


小さな唸り声を上げる航だが、その目は完全に閉じられていて、なんとこいつ、俺の身体の上で眠り始めた。


「え、ちょ、まじかよ……。」


どうすんだよこれ…

重いし熱いし動けない身体でどうしようか考える。

しかしスースーと寝息を立てる航は、ちゃんとした布団の上で眠ったほうが勿論良いに決まっているが、そのままの状態でぐっすり眠ってしまったため、少し手を伸ばしてベッドの上の掛け布団を取り、自分たちの身体にかぶせる。


まあちょっとだけならこのままでもいいだろう。と、俺も航と共に少しだけ眠ることにした。





日が沈み、薄暗くなった室内で、俺はゆっくり目を開けた。

なんだかちょっと寝苦しいけど、人の体温が心地良い。すぐ側から聞こえてくるのは、誰かの寝息の音で、俺は暫し今の状況を把握するように顔を上げて周りを少し見渡した。


……ハッ。エッ。

ちょっと待って、びっくりした。


るいが俺の真横で寝てる。

しかも俺、るいの腰に腕なんか回しちゃってさ、なんだよこのおいしい状況。るい腰細い。っていやいや今はそんなこと言ってる場合ではなく。


でもよく分からないがとりあえず今がおいしい状況だということは理解できているので、俺はここぞとばかりにるいの身体に身を寄せた。


薄暗くて見えにくいが、るいの寝顔がすぐ側にあって、これは興奮するに決まっている。

風邪をうつすといけないので、俺は控え目にチュ、とるいの頬に唇を寄せた。


本当はその唇にキスしたいところだけど、俺は先程るいとキスする夢を見た。

だから俺は、今日はとりあえずそれで我慢。今のこの状況だけで十分満足。と、るいにキスすることは我慢する。


でもそのかわり、るいが目を覚ますまで、俺はこの状況をうんと堪能しようと思う。


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