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「最近航勉強ばっかやっててつまんねー。ゲームも全然やってねーしさー、付き合い悪すぎー。」


俺はある日、ポロリとそんな本音が漏れてしまった。ノートに文字を書き込んでいる航は、視線をノートから俺に向けるが、その目は驚くほど鋭くて、俺はびくりと肩を震わせる。


「うるせーよ。」


そしてたった一言だけ、航にそう言われたことに、小心者な俺はかなり落ち込んだ。


高校に入学してすぐに仲良くなって、1年の時から航とはずっとバカなことやってて楽しかったのに。

航は最近勉強ばっかりやっていて、放課後も矢田くんとばっか一緒に居てつまんない。ご飯も全然一緒に食べなくなった。

それでも休み時間とかは一緒にゲームとかやってたのに、それすらもめっきりやらなくなったから、正直俺はとても不満な思いを抱いていた。

それと同時に、不安な思いも募るばかり。

航の周りは航の影響で真面目に勉強をし始めた奴が多いのだ。みんな航と一緒に居たいから。航と居ると楽しいから。クラス替えで航と離れたくないから。

でも俺は勉強は大嫌いだから、みんなが真面目に勉強やってても全然やる気が出ず。部活も中途半端にやってて、部活終わったらすぐ飯食って風呂入って寝ちゃって、時間があればすぐゲームとかに手が出ちゃって、みんなが真面目にやってても一人ふらふらやっちゃう感じで。


ああダメだなぁ、とは思っても、そう簡単にやる気が起こるわけじゃない。だからテスト3日前とかになってやっと焦る感じ。


航はそんな俺と仲間みたいな感じだったのに、どんどん俺から離れていってしまうような気がして、多分俺は、寂しかったのだ。

でもそんなこと友人に素直に言えるわけもなく、ちょっと捻くれたような言い方をしてしまった。だから、俺が悪いんだろうけど。

…そんなにキツイ目で見なくたって、言わなくたっていいだろ…。

いつもみたいにヘラヘラ笑って、返事を返してくれると俺は思ってたのに…。


俺は想像以上に航の態度にショックを受けて、情けなくもちょっと泣きそうになってしまった。


航は一言俺に口を開いたきり、再び下を向いてノートに文字を書き始めてしまい、俺はそんな航の前からそっと立ち去る。


教室では楽しそうに会話をしているクラスメイトや、スマホをいじってるクラスメイトがいっぱいいるけど、俺はまじで今泣きそうだから、そんな顔を見られたくない俺は、一人こっそり教室を出て便所に向かった。


しかしそこで、まさかの矢田くんと鉢合わせしてしまい、俺は便所に来たことを後悔する。


「お、なちくんだ。」


あの矢田くんと今ではすっかり打ち解けて矢田くんから声をかけてくれるようになったから、俺に気付いた矢田くんがそう声をかけてくれるが、俺は矢田くんに返事することができなかった。


下を向いて、矢田くんの横を通り過ぎる。感じ悪かったかな。でも、やっぱりこんな情けない顔を誰かに見せるのは嫌だから。


俺は特に用もない便所の個室へ向かおうと足を進める。が、矢田くんが「おい、なち!」ともう一度俺の名を呼んで、俺の手首を掴んだ。

まさか矢田くんに引き止められると思わず、足が止まる。


矢田くんは「なんかあった?」と俺の顔を覗き込んできたから、ああ、ダメだ。と、堪えてたものがポロリと溢れた。


矢田くんはそんな俺に、目を見開いて静かに驚いているようだった。


最悪だ、高校生にもなった男が、こんなことで泣くなんて。

でも涙が溢れるほどショックだった。航の態度が。キツイ言葉が。それから、もっと寂しさを感じた。焦りも感じた。だからそれら全部が涙となって現れたのだ。

ポタポタと溢れる涙を手で拭う。

驚くことに、そんな惨めな姿を見せる俺の頭を、矢田くんは腕を回して、胸元に引き寄せ、ぽんぽんと慰めるように頭を叩いてくれた。

優しい矢田くんの態度に俺はさらに涙腺が緩み、ポタポタと涙が溢れて、矢田くんの制服を濡らしてしまった。


暫くそんな時を過ごし、落ち着いた時、顔を上げるのが恥ずかしくなる。

ズッ、と鼻水を啜って、「はあ。」と息を吐くと、矢田くんは「大丈夫?」と俺の顔を覗き込んできた。


「…ごめん、なんか変なところ見せちゃって。」

「いいよ。別に誰にも言わねーから。航にも。」


矢田くんの口からは、今聞いたらまた泣いちゃいそうな名前が出る。そもそも俺と矢田くんの接点が航だから仕方のない話だけど。

しかしどうやら顔に出ていたようで、矢田くんは「あれ、ひょっとして航となんかあった?」と矢田くんはピンポイントに問いかけてきた。

俺は、何も言えず、黙り込んだ。


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