3 [ 163/188 ]

「あーおもしろかった。」


勿論映画の内容もおもしろかった。宣伝がしつこいだけあって力が入っている映画のようだ。けれど、おもしろかったのは映画だけではなく。


「るい笑うシーンじゃないところで笑ってたよな。」

「うん、航が面白くて。」

「え、俺?」

「ポップコーン食べるの必死すぎ。」

「ああ、だって映画館で音立てて食われんの嫌だろ?」

「んー、まあそうだな。」


なんで映画館でポップコーン売ってんだろう、って不思議になる。航のように音を気にして満足に食えない人はごまんといるだろう。まあそれゆえに、おもしろい航が見れて俺はすげー満足だけど。


「はー、おもしろかった。航今日付き合ってくれてサンキュー。」

「うんいいよ。いっぱい奢ってくれてサンキュー。」

「いいよ。」


さて、帰ろうか?と映画館を出た。

時刻は昼過ぎで、腹が減ってきた頃だ。何か食べて帰るか、などと話していたところで、食欲をそそるうまそうなラーメンの写真のポスターが貼ってあるラーメン屋があったので、俺と航は顔を見合わせて、店内に吸い込まれるように足を進めた。


「ぃらっしゃーっせー!何名様で!」

「二人です。」

「ふぉ!にーちゃんらイケメンだねぇ!はいそっちのテーブルへどうぞ。」

「あ、はい。」


なんだかテンションの高い店員に迎えられたな。と思いながら席に着く。


「にーちゃんらイケメンだって。ら、だって。俺も含まれてんぞ?」

「やったな。」

「うむ。仕方ない、ラーメン大盛りを頼んでやろう。」

「お前食えんの?さっきポップコーンボリボリ食ったあとなのに。」

「いけるだろ。多分。あ、とんこつラーメン大盛りくださーい。」


あーあ、頼んじゃったよ。知らねーぞー?

俺は普通サイズの醤油ラーメンを注文した。


200円だけ値段が高い大盛りは、どうやら普通のものより一玉多いらしい。


航の前に置かれたラーメンは俺の頼んだラーメンの器より、ほんの少しだけデカかった。


「よっしゃ、いただきまーす。」


ズルズル勢いよくラーメンをすすり始めた航に続き、俺もラーメンを食べ始める。


「んまいっ!」

「うめえな。」


最初はそう言ってペース良く食べていた航だが、俺が食い終わる頃、ちゅるちゅるとスローペースで食べていた。


「あ、腹ふくれたんだろ。」

「うっ…苦しぃ…。」

「あーほらもーやっぱり。貸して。」


航のラーメンの器を俺の食べていた器とチェンジした。まだたっぷり残っているとんこつラーメンに手をつける。


「お、うめえな。こうなるんじゃねえかと思って醤油ラーメンにして正解だった。」

「うわズル賢い。あ、ちがうこの人元々賢かった。」

「次はもっと思いっきり腹減ってる時に大盛り頼もうな。」

「うんそうする。」


苦しそうに腹を撫でながら素直に頷く航に軽く笑いながら、航が残したラーメンを完食した。


「ふぅ。ごちそうさま。」

「おつかれさまでした。」


航がとても恐縮していたから、俺はまたクスリと笑った。

腹がふくれたところでお金を払い、店内を出る。


「もう帰る?航どっか寄りたいところあるか?」

「んー、コンビニでお菓子買って帰る。」

「お前腹ふくれてんじゃねえのか。」

「るいの部屋戻ったら寛ぎながら食べるお菓子がほしい。」

「はいはい。」


航の言葉に頷いて、俺たちは近くのコンビニへ足を進めた。さっそくお菓子売り場でお菓子を選んでいる航を尻目に、俺はある売り場で目が止まる。

わりとデザインにこだわっているような、小さな小箱だ。ひとつ手に取り、航の元へ歩み寄る。


「航くーん。帰ったらする?」


にっこり笑って声をかけると、航は「なにそれ?」と俺の持つそれに目を向けた。


「コンドーム。」

「おっまえまた買う気か!?」

「んー、まあ買っといてもいいよな。いろんなの試してみるのも有りだろ。」

「……まだ今日やるとは一言も言ってねえけどな。」

「えー。やろ?」


冷めた目を向けてくる航に一歩近付いて、航の頬にピト、とコンドームの箱を押し付けて頼んでみたところで、俺はハッとして航の頬からコンドームの箱を離した。


レジの方からコンビニ店員である女の子が、顔を赤くして挙動不審に狼狽えていたからだ。

今のはちょいとまずかったな。すっかりここがコンビニだと言うことを忘れてしまっていた。まさか彼女は、俺たちがえっちする関係だなんて思うはずもないだろう。

俺は無言でやや恥ずかしくなりながらコンドームの箱を売り場に戻していると、航はわりと大きめの店内に響く声で言い放った。


「コンドームの箱を俺の顔に押し付けるなんて!てめえどんな誘い方しやがる!」

「声デカイ声デカイ。」

「ふんっ!」


そしてこれまた航も、ここがコンビニだと言うことを忘れてしまっているのか、俺の頬にペチッとお菓子の箱を押し付けてきた。

そしてその直後、まさかの航の言葉に俺は、驚いてテンションが急上昇した。


「まあやってやらんこともない。」

「…まじ?」

「帰ってから考える。」

「よろしくね。」


その後俺は、ここがコンビニだということも忘れ、航の手に指を絡めてお菓子を選んでいる航の様子を眺めていた。


航がレジへ向かうとき、俺はハッとして航の手を離すが、…うん。もう遅いよな。

レジに立っている店員は、やはり赤い顔をしてチラチラと俺と航に控え目に視線を向けていた。


あー、気を付けなきゃな。どこに居ても航に触れたくなってしまうのは、俺の悪いクセだろう。

その後俺は反省しながら航と少し距離を開け、寮に帰宅したのだった。

そして自室に帰ってくるなり、航の身体に腕を回して、ギュッと抱きしめたことは、まあ言うまでもない。


33. 航くんと映画おデート おわり


[*prev] [next#]

bookmarktop

- ナノ -