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「友岡くぅぅぅん…!」

「うわっ!なにおまえ。」


仁がまるで飼い主に飛び付く犬かのように、俺の元にやってきた。仁は最近俺の元を訪ねすぎだと思う。

お前ひょっとして友達いねえな?…と思ったけどそうだ、こいつもるいと同じで人気すぎて友達がいないパターンだった。


「友岡くんしか相談できる人居ないんだよ!」

「あ、古澤くんのこと?」

「そうそうそうそうそう!!」


仁は首を縦に、激しく頷いた。

どうやら仁は、えっちするにあたって挿れる気満々だったのに、なんと古澤くんも挿れる気満々のようだ。

驚いたのは古澤くんも仁のことをそういう目で見ていたことだけど、まあ俺はそもそもあまり古澤くんのことをよく知らないから、『あ、そうだったんだ〜ヨカッタネ』程度だけど。


「ところでお前ら付き合うの?」

「いやそこは今はいいんだよ!」

「良いのかよ。お前ら結構適当だな。えっちだけする関係はせ、せっくすふれんどって言うんだぞ。略してせふれ。」

「…友岡くん…俺が悩んでんのはまだそのせっくすする前の段階だよ…。」


仁はそう言って頭を抱えた。どうやら結構真剣に悩んでいるらしい。まあ人間に悩みは付き物だ。大いに悩むが良い。

俺の悩み?そうだなあ、るいがイケメンすぎることかな。


「ところでなんでそんなに悩んでんの?もうさ、ずばっと挿れられろよ。きもちいぞ。」


俺がそう言うと、仁は勢い良く俺に顔を近づけて、俺のことを見つめてきた。


「きもちいの!?それほんとにほんとにほんとにほんと!?」

「うん失神しそうになるほどきもちい。」


嘘は言ってねえ。実際はじめてやった時は、もう痛いとか苦しいとかを忘れられる気持ち良さがあったのだ。

でもそれは、るいが十分に準備をしてくれたからで、みんながみんなそうとは限んねえけど。


「まあさすがるいきゅんって感じかな。」

「うわ〜まじか〜きもちいのかぁ〜。」


うーわ、俺のしれっと口にしたるい自慢をこいつスルーしやがったぜ。ちゃんと話しを聞け!…と思いながら、俺は両手を握り合わせ、中指だけ上に出し、仁の尻に思いっきり突き刺した。


「痛ッっったああ!?なにすんの!?」


飛び上がるように尻を押さえる仁に、俺はドヤ顔で言う。


「この痛みを乗り越えたキミには、あとは快楽だけが待っている。」

「意味わかんねえよ!」

「大丈夫大丈夫、古澤くんきっと優しくしてくれるって、あの子男前だからな。」


顔とかの話ではなく、性格がな。気配り上手な感じ。絶対古澤くんが仁に抱かれるより良いに決まってんだよ。だってこいつは多分下手だから。そんな感じがするだけだけど。


俺の発言に、仁は少し頬を赤く染めた。
ふぉ〜ぅ。お熱だな。


「…なんで俺が挿れられる方で話が進んでんのかなぁ。俺先輩だよ?おかしくない?」

「るいが俺の後輩だったとしても挿れられてると思うけど。そこ全然関係ないんじゃね?」

「それはるいがあの性格だから仕方ないでしょ!でも俺の場合はおかしいって絶対!」

「……自分が一番自分のことを分かってないパティーンだな。はぁ…。お前自己分析でもしてみれば?」

「なにその冷めた目〜!日に日に似てくるよね、キミら。るいにもさっきそんな目で見られたよ!」

「え、るいに似てきたら俺やばくね?イケメン?イケメンになれちゃう!?」

「あ、心配しなくていいよ、どっちかと言うと友岡くんの残念な性格にるいが似てきたって感じかな。」

「は?お前死ねよ。俺もう怒ったぞ、もう話聞いてやんねー。」

「あああ!!待ってよ友岡くん!」


俺がプンスカしながら仁にそっぽ向いたところで、休み時間終了のチャイムが鳴ったから、仁は浮かない表情で俺の前から去っていった。


まあなるようになるさ。

少年よ…大志を抱け…!

あ、この言葉使い方合ってる?

あとでるいに聞きに行こーっと。





「はぁ…。」

「おいさっきからはあはあため息吐くならあっち行けよ。」


わざわざ何の用か俺の席まで来たと思えば、ため息を吐くだけの仁に苛立ってそう告げると、仁は俺にジトリとした視線を向けてきたから更にイラっとした。


「ちょっとさぁ、悩み抱えてる友人の話を聞こうとは思わないわけぇ?」

「悩みってアレだろ?どうせ古澤に挿れられんの躊躇ってるだけだろ?嫌ならやるな。以上。」

「うわっ!相変わらず冷たい!」

「悩むほどのことかよ。そんなに嫌なら古澤説得したら良い話だろ。」

「嫌っつうか!嫌っつうかぁ!!尻に挿れるってどうなの!?やっぱ痛いでしょ!るいにはわかんないだろうけどさぁ!嫌なんじゃねえよ、怖いんだよ!」


仁はそう言って若干涙目になった。どうやらまじで悩んでいるらしい。『嫌ならやるな』って言ったのはちょっと無神経だったかもしれない。

無言で仁の様子を窺いながら、俺は暫し反省する。


「要するにお前ってさ、挿れられるの怖いから挿れたかったってことだろ?」

「…そういうわけじゃないけど。」

「え、じゃあなに?あ、言っとくけどはじめてやったときは俺だって怖かったんだからな。」

「…え、…なんで?」

「そりゃあ痛がってる航を見るの嫌だからだよ。気持ち良くなってほしいから、するわけだろ?痛いならそんなのはやらない方がいい。自分だけ気持ち良くても全然良い気分にはなんねえよ。」

「……。」


俺の言葉を聞いた仁は、何を思ったのか考えるように黙り込んだ。

まあ偉そうなこと言ってはみたけど、実際はじめてやったときに航がちゃんと気持ち良くなれてたかはわかんねえし、俺もだいぶ余裕無かったし、気持ち良すぎて第二ラウンドいっちゃって航に怒られたけど。

でも俺だって最初は怖かった。
きっと航の方が怖かったと思うけど。
仁にはそれをちゃんと分かってほしいと思う。


「まあ心配しなくても古澤なら大丈夫だろ、あいつできた後輩だからな。古澤がお前に挿れられることを考えたら全然マシ。」

「は!?なにどういう意味それ!」

「さあ?自分で考えてみれば?」

「うわっ!なにそれひどくねぇ!?」

「あ、航に相談なんかすんなよ?お前航んとこ行きすぎなんだよ。俺が知らねえとでも思ってんの?」

「ゲッ。知ってんの!?」

「はーい当たりー、鎌かけましたー。」


やっぱ行ってると思った。
航から妙に仁の話が出ると思ってたんだよ。


「でも挿れられる側の相談は友岡くんにしかできないんだからな!」

「航に相談したってどうこうなんねえよ、古澤に言うんだよそういうことは。」

「……ヤる前に経験者の話聞いてイメージしたいんですぅー!」

「うーわ、それやめろよ。航の話聞いてなにをイメージするわけ?俺らは俺ら、お前らはお前らなりのやり方があるんだからんなの想像してる暇あったらさっさとヤれ!お前男らしくねえな、そんなんだから古澤に押し倒されんだよ!分かったか!?分ったならさっさとヤっちまえ!!以上!!」

「うわあああんひどいー!俺男らしくないとかはじめて言われたしぃぃ!!」


仁は俺の机をバシバシと叩きながら涙混じりにそんなことを言って騒いでいるから、さすがにうんざりした俺は、教科書を仁の頭に叩きつけ、黙らせたのだった。

まあなるようになるさ。

あーあ、妙な話したから航とえっちしたくなってきた。


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