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HRを終わらせた担任が教室を出て行き、教室内は、週末のいつもより数倍ざわりざわりと騒がしいテンションの生徒たちで溢れかえる放課後がやって来た。

机に入れていた教科書やプリント類をドサっと鞄の中に入れ、帰る準備をしている最中。


「わーたーるーくーん。」


妙に間延びした呼び方で俺の名を呼ぶるいが、Eクラスの教室に現れた。


「あれ?矢田くんなんか元気になってる?」


先程『矢田くんの顔死んでる死んでる』と騒いでいたクラスメイトたちが少し不思議そうにるいを見る。

そんな視線も気にした素振りを見せないるいは、とことこ俺の元へと歩み寄ってきて、椅子に座っていた俺の首に後ろから腕を回した。


「航、帰ろ。」


にっこりと笑ったるい。甘い空気を垂れ流している。おまえさん、分かっているのか?ここは2年Eクラスの教室。悪の巣だぞ。

どエロ野郎がいることを忘れんじゃねえぞ。と俺は無意識にモリゾーを見てしまったのだが、モリゾーはニヤリとした笑みを浮かべて俺たちの元へ物凄い速さでやって来た。


「ちっす!矢田くん!今日も航とラブラブっすねえ!」

「うわ、お前まだ生きてたの?」

「二人のイチャつき具合からして、帰って今晩ヤるんすか!?」

「お前いつ死ぬの?」

「ちなみに矢田くんの好きな体位は?」

「対面座位。」

「いやなに真面目に答えてるわけ!?」


モリゾーの問いかけになんとそんな返答をよこしたるいに俺は、驚きでギョッと目を見開いた。


「…あれすげえ良かった。」

「こんなところで言わなくていいから!!」

「あ、わりぃ。つい。」


つい。じゃねえよ!!恥ずかしいなもう!!…と俺が顔をカッカと熱くさせているとなりで、モリゾーはにやけるのを止め、ポカンと口を開けて「対面座位かぁ…いいなぁ…。」と呟いている。


「一人でヤってろよ…。」


もう余計なことるいに聞くな、と思いながらジトリとした目をモリゾーに向けてボソリと告げると、モリゾーは悔しそうにクッ!と唇を噛み締めた。


「畜生!誰でもいいから俺の相手しろよ!!」

「航、目合わせちゃダメだからな。」


るいはそう言って後ろから俺の目を塞いできた。

いや心配しなくてもこんなどエロ男の相手すんの嫌だっつーの。


「モリゾー、お前がウケなら相手してやってもいいぜ。」

「えっ」


どエロ男モリゾーの元に立ち向かったのは外人顔のマイケルだった。あいつマジか。

モリゾーは少し戸惑ったような目でマイケルを見る。


「お、俺が、ウ、ウケ…だと…!?」


マイケルはにっこりと笑ってモリゾーを見る。あれは獲物を捕らえたような目だ。


「なあるい、ウケってなに?」

「うん?…さあ?…航くんもう帰ろ。」

「うん。じゃあなモリゾー、精々マイケルにウケウケしてもらってがんばれよー。」

「ウケウケって。お前意味分かんねえで言ってんだろ。」

「ん?うん。」


こうして俺とるいは、Eクラスの教室に流れている妙な空気の中を抜け出して、帰路についたのだった。


学校から寮に帰ってきて、るいの部屋へ。なんか最近俺自分の部屋よりるいの部屋にいる方が多い気がする。

るいの部屋は1人部屋だから別に俺が出入りしたって何の問題もねえけど。俺は同室いるからるいが出入りしちゃまずい。そもそも同室者とはあんまり喋んねーから別に俺が居ても居なくても関係ねえけど。

でも友岡外泊しすぎとか思われてそう。まあ別にどうでもいいけど。今となってはるいの部屋には、俺の下着とか着替えとか普通に置いてあるから泊まりやすいのだ。

そして少しるいの部屋が前より汚くなった気がする。普通に考えて俺の所為だ。



俺は薄々気付いていたことだが、るいが満面の笑みを浮かべている時は大抵、俺におねだりするときの表情だ。

そして今るいは、満面の笑みを浮かべている。なんも言ってこないけど、何か言いたそうだ。まあ何を言いたいかくらい分かってるけどな。

なんも言ってこねえってことは、俺から言うのを待ってるんだろう。

どうしようかな。約束したのは明日なんだけどな。でももうヤるか。ヤっちゃうか。またあの恥ずかしい思いをするのは嫌だな。恥ずかしい格好は恥ずかしいからな。尻弄られんのなんか最高に恥ずかしいからな。況してやそれでイっちゃってんの見られんのなんかもう泣きたくなるくらい恥ずかしいからな。

ああどうしようどうしよう、って俺はるいのベッドの上でのたうちまわる。

るいはそんな俺を、ゴクゴクとペットボトルのお茶を飲みながら眺めており、ぷはーとペットボトルから口を離したあと「お腹減ったの?」と聞いてきた。

違うから。全然違うから。

今俺がえっち誘おうかどうしようか悩んでいたというのに。まあそうだよな。まだ夕方だもんな。ちょっと早まったかな。

…と思いながら俺は理不尽にもジトリとした目でるいを睨みつけると、るいは「え、なに…」と戸惑った反応を見せた。


「お腹減ってない。」

「…あ、そう。」

「るいきゅんちょっとおいで。」

「…は?なに?」


ベッドに腰掛け、るいを手招きする。

俺の目の前にきたるいの股間に手を伸ばしてにぎにぎ、と掴んでみると、るいの股間はすげえ硬くなっていた。


「…うわっ」


るいは少し恥ずかしそうに頬を赤く染めて、2、3歩後ずさる。不覚にもそのるいの反応に、俺の胸が高鳴った。

以前あれだけ直に触ってもるいのものは勃たなかったのに、なにもしていないのに勃起している。我慢していたのか。いや、俺がさせていたのか。


俺は今日、『るいが抜いたのは10日前』というモリゾーとした話で、モリゾーが『うわ、きっつー…』と言っていたのを思い出し、やっぱり我慢していたんだな、と俺はるいを見てそう感じた。


もう一度るいに手を伸ばし、腕を掴んで引き寄せる。

るいの身体に腕を回して、俺はるいの唇に口付けた。

るいは僅かに目を見開いて、チラ、と俺に視線を向ける。俺もるいの目をジッと見て、唇を離し、るいの耳元で囁いた。


「えっちしよ。」


るいは俺のその囁きに、動きを止めてジッと俺の目を見つめる。


「……いいの?」


数秒間見つめ合ったのち、るいは小さく聞き返した。


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