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「おら!いつまでだれてんだよシャキッとしろ!!!」
「んあっ痛い!!!」
2年Eクラス、友岡 航。
矢田生徒会長様におケツを蹴られ、グンと背筋が伸びました。今のは俺への愛の鞭。
「お前寝かけてただろ。目が半開き。」
「でも起きてたからギリセーフ!」
「バカ、アウトだ。授業聞け!!」
「あっ痛い!!!」
昼休みに俺の元へやって来たるい会長様に、ベシンと顔面をしばかれた。おかげですっかり目が覚めました。
今のも俺への愛の鞭。
「航と矢田くん、ぶっちゃけうまくやれてんの?」
何を思ったのか休み時間になっちくんが、突然俺にそんなことを問いかけてきた。
「ん?うん、ばっちり。」
「あんなにビシバシやられてか?」
「え?ああ、愛の鞭のこと?」
俺の発言になっちくんは、「はあ〜?愛の鞭ぃ?」と呆れた目を向けてきた。
「そそ、愛の鞭。いや〜痛いわ〜まじ。」
「お前幸せもんだな。」
「だろ?」
「今のは航を憐れんで言った言葉だからな。」
ん?はて。一体どういうことか。
よく意味が分からず首を傾げると、なっちくんはちょちょいと俺に手招きをしてきたから少し身体を寄せると、俺の肩に腕を回した。
「まあ聞けよ。」
「なにを?」
「航と矢田くんについて今学校中で言われてること。」
「え、なにそれ。」
興味深すぎるその話に、俺はなっちくんにグッと顔を近づけて、話のその先を話すように促した。
「航と矢田くん、どうせすぐ別れるだろっていろんな奴らから言われてる。」
「はっ!?なんで!?」
「そのことについて当事者である友岡さん。いかがかね?」
「ないないない!絶対、ないっ!」
なんだその話は!失礼な!!!
俺はダンダンダンと地団駄を踏む。
「ほうほうなるほど?友岡さんは『絶対ない』と。しかしここで気になるのは矢田氏の意見。果たして彼は、友岡さんのことをどう思っているのでしょう。」
「なんだよその喋り口調!なんかすげえ腹立つな!!決まってんだろ!!俺のことが大好きだよ!!」
「……ふうん?」
「おいこらてめえ!!白けたような目で見んな!!」
肩に回された腕を払いのけ、俺はなっちくんの胸倉を掴み、ゆっさゆっさと揺さぶった。
「まあまあ落ち着け、考えてみろよ?」
俺の両拳を両手で包み込むように掴んだなっちくんは、そのまま俺の手を自分の胸倉から引き離した。
「あんなにゲシゲシ蹴られて、ぎゅうぎゅう締め付けられて、バシバシしばくか?普通、好きな相手にさあ?」
真正面から俺の両拳を両手のひらで包み込み、ジッと俺を見つめて話すなっちくんと、これではまるでときめきメモってるみたいじゃねえか!勘弁しろ!!
「だから言ってんだろ!愛の鞭だよ愛の鞭!!」
ゲシゲシなっちくんの太腿を蹴りつけながら、手を離せ、と左右に揺らす。
「まあまあ。ちょっと考えてみろよ。」
そう言いながらのなっちくんに、さらに両拳を固く胸元前に固定され、両手が動かせなくなった。
「……鞭、ちょっと多すぎない?」
「……まあそれは否定しない。」
「飴ちゃん、ちゃんと貰ってんの?」
「は?飴ちゃん??ちょっと飴ちゃんは貰ったことねえけど。」
「ほらほら!!やっぱダメじゃん航!!」
は!?なんでだよ!!!
別に俺は飴玉なんか、貰っても貰わなくてもどっちでもいいんですけど!!?
けれど、なっちくんは何故か大変大変とでも言いたげに俺の両拳から手を離して、今度は俺の両肩を掴み、ゆっさゆっさと揺さぶった。
「航、それはまじでやべえよ!あれだけの鞭をいただいてて飴ちゃんもらえてないなんてさあ!いくら矢田くんでもそれはちょっと酷すぎる!!!」
「飴ちゃん貰えないだけで!?」
「えっ逆に聞くけど、航飴ちゃん要らないの!?」
「え、うん。別に。要らねえだろ。」
「えええ!?お前ただのドMかよ!」
「ドMじゃねえよ、意味わかんねえわ!!」
なんで飴ちゃん要らねえだけでドM扱いされなきゃなんねえんだよ!!!
だんだん俺となっちくんで口論のようになってきた時、側にいたクラスメイトがコソッとなっちくんに耳打ちした。
なんだなんだ!?こそこそ話なんて感じ悪いことしてんじゃねえ!!!
ムッとする俺をよそに、なっちくんは「ああ!」と何かに気付いたように、ポン、と手のひらにぐーの手を打ち付けた。
「友岡さん。“飴と鞭”という言葉はご存知ですか?」
「……飴と鞭?…飴と、鞭だろ?」
「あ、説明しますね。“飴”と“鞭”、この二つの単語をセットにした“飴と鞭”という言葉がこの世には存在するのです。」
なんだぁ?なっちくんの口調が先生口調ですげえ腹立つ。飴ちゃんと鞭だろ、なんでもいいよそんな話は。
「おいこら、聞けよドM野郎。」
「ドMじゃねえっつってんだろ!!」
どかっと俺の足を蹴ってきたなっちくんの足を、俺もどかっと蹴り返した。
「まあいいや。ドM野郎になにを言っても無駄か。」
……チッ、クソなっち!!
俺はSかM、どちらかと言えば多分Mだが、ドがつくほどのMではない!…いやちょっと待て早まるな、俺は決してMでもない!
いやそんな話もどうでも良い!
「とにかく!俺とるいきゅんはらびゅらびゅなんですぅー。」
「いーや、そう思ってんのは航だけかもしんねえぞ。」
クッ!なっちくんめ、貴様まだ言うか!?そんなにらびゅらびゅな俺とるいを認めたくねえのか!?そうなんだな!?
キッ、と強くなっちくんを睨みつけると、「まあまあ。ちょっと落ち着けよ。」となっちくんは再び俺の肩に腕を回した。
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