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体育祭当日。


「うわ〜航くんか〜わ〜い〜い〜!」

「えへへ〜あ〜た〜り〜ま〜え〜。」


チームカラーである赤いTシャツを着て、今さっき配られたハチマキを頭のてっぺんでリボン結びしてアキちゃんと遊ぶ。赤色のハチマキだからまるでミニーちゃんのようだ。

アキちゃんは冗談抜きで可愛いが、恐らく俺はキモいだろう。しかしまあそのキモさを披露してこその楽しさ。…と思いながらくねくねと身体をくねらせてぶりっ子していると、ペシンと頭に衝撃が。


「あいたっ」

「…なにやってんだよ。」


振り向けば、黒いTシャツを着て黒いハチマキを巻いたるいが、呆れた表情で俺を見ていた。今日も絶好調で人々の視線を集めている。ていうか…


「うおお!!!るい超かっけえ!!!」


Sクラスの色が黒だと聞いて俺は嘲笑っていたが、実際に黒いハチマキを巻いたるいを見ると、その姿はとてつもなくかっこよかった。

つーか強そう。
誰だ、黒が負けそうとか言ってたやつ。

……俺だ!!!


「ハチマキはちゃんと巻きましょう。」

「前言撤回だ!黒強そう。」


俺の頭にあるリボンを取ったるいが、俺の頭にスルリとハチマキを巻いてきた。


「赤、暑苦しそうだな。」

「情熱の真っ赤色をバカにすんなよ?」

「とは言ったものの、黒も大概暑苦しいわ。」


るいはそう言って、Tシャツの袖を肩まで捲りあげた。…おお、なんという男らしさ。凄まじくかっこいい。俺は光の速さでるいのそんな姿をスマホで撮影した。待ち受けにしよう。


「あっこら。消せ。」

「やだ。」

「矢田会長ーどちらにいかれましたー?」

「あーわりぃ。ここ居る。じゃあな航、お利口にしてろよ。」


生徒に呼ばれたるいは、俺の頭にポン、と手を置いてから去っていった。…うむ。今のは反則だな。かっこいい。しかし俺をガキ扱いしたことは許さねえぞ、あとで覚えてろ。チューしてやる。


「わっ!たるく〜ん!なに今のイケメン写真撮ってたよな?くれ。」

「無理。」

「お前あれを独り占めしてるとか世の人々にいつか殺されるぞ。」

「ふふん。」

「黒ハチマキの矢田くんのラスボス臭はんぱねえな。」

「それ思った。」


るいが立ち去った後、クラスメイトたちが俺を囲い、口々にるいの話をし始めた。

ほとんどがるいに対する褒め言葉だが、そんな中アキちゃんだけが不満そうにしながら口を開いた。


「せっかく航とリボンつけて楽しんでたのに邪魔された〜。なにあのイケメンむかつくー。」


驚くことに、アキちゃんの口から出たのも褒め言葉だった。誰が見ても文句無しのイケメンだと言うことだ。ふふ。さすが俺のるいきゅん。


さて、間も無く体育祭がはじまる。


クラスごとに並ばされた俺たち生徒たちの前で、るいはマイクを持って朝礼台に上った。その瞬間、ざわりと周囲は沸き立ったが、るいが無言で上から辺りを見下ろすと、生徒たちは一瞬にして口を閉じた。


「おはようございます。ついに体育祭の日がやってまいりましたが、皆さん準備は良いですか。この日のために行った練習や特訓を活かし、成果を出せるよう、精一杯頑張りましょう。そして、全員が怪我なく無事体育祭を終われるよう、怪我には十分注意しましょう。

拙い言葉ではありますが、これを開会の挨拶とさせていただきます。2年Sクラス 生徒会長 矢田 るい。」


壇上で淡々と話し終えたるいが一礼すると、パチパチと盛大に拍手され、俺は思わずクスリと笑ってしまった。

るいの生徒会長らしい姿を改めてみるとなんだかおかしくて笑っちゃう。


その後、るいの淡々とした挨拶と比べればかなり熱い挨拶を行った体育委員長の「準備は良いか野郎どもぉぉ!!!」という叫び声に、生徒たちが「おー!!!!!」と返したところで、いよいよ体育祭の幕は開かれた。


ラジオ体操をした後、最初の種目は100メートル走だ。主に1年、2年、3年の順に行われるため、俺たち2年は1年生のあとに続いて並び始める。


クラスごと適当に並んだ順に横一列で走るため、誰と走るかは分からないが、できれば走るの遅そうな人と走りたい。だってほら、俺、クソだから。

ぶっちぎりの1位は最高に気持ち良いだろうな、と思って列に並ぼうとすると、背後からするりと俺の手を握ってきたやつがいた。


「…航、一緒に走る?」


るいだった。

耳元で囁かれ、俺はぶるぶると盛大に首を振る。俺は1位が取りたい。


「い・や・だ。」

「勝負しようぜ?勝った方が負けた方のお願いを聞くこと。」

「絶対やらねー!!!どうせるいが勝って、えっちしよとか言ってくるんだろ!やらねーからな!」

「ははっ。バレてる。」

「……くっ。貴様…。」


俺はるいをジト目で睨みつけた。

るいは俺との初えっちが想像以上に良かったらしく、度々身体を求めてくるが、ぶっちゃけ俺はかなり疲れたから、次またヤるとなればそれ相応の覚悟が必要なのである。


しかしるいは、嫌だと言っている俺の手を離そうとしない。

1年生の列があと僅かになってきているから、もうじき2年の100メートル走が始まるだろう。


「おいキミ!早く手を離しなさい!並べねえだろ!?」

「最後に並んだら多分一緒に走れるよ。」

「最後に並びません!一緒に走りません!」

「チッ。つまんねー。」


るいは渋々俺の手を離し、列に並んだ。SクラスのるいとEクラスの俺の列は端と端だからここでお別れだ。


前後に並んだクラスメイトに「相変わらず仲良いね」と言われた。


「航矢田くんと走れるかな?」

「俺がるいと走ることになりそうになったらお前順番代わって。」

「えーやだよ、矢田くん走るの速いだろ?」

「んーん、るいの欠点は走るのが遅いことだよ。」

「お前バレバレの嘘つくなっつーの。」

「チッ。」


そんな会話をしているあいだにも、100メートル走の列は進んでいき、1年が終わり2年の順に回ったあたりで、「航」とるいが端の列から俺に呼びかけた。


横を向いて並んでいるから、るいの隣に並んでるAクラスの奴が、真っ赤な顔をしてオロオロしている。るいてめえ前向きやがれ。


「なに?」

「やっぱさ、もしこれで順番一緒だったら勝負しよ?」


るいはそう言ってにっこり笑っている。


「しません!」

「負けた方が言うこと、」

「聞きません!」


きっぱりとるいに言うと、るいは唇を尖らせた。周囲は黙ってそんなるいの様子を窺っていることに俺は気付いていたが、ひそひそと「矢田くんちょっと拗ねてる…?」と言われていた。ウケる。拗ねてろ拗ねてろ。


「あ、次俺の番だ。」


いよいよ俺の前に並ぶクラスメイトが白線の前に立った。


「うわっ…!Sクラ矢田くん!」


そしてクラスメイトは焦ったように俺に視線を向けてきた。俺はと言えばホッと安心したように息を吐くが、そんな中るいはさらにむっすりした様子で俺に視線を向けてきた。


「はっはっは、るい転けろ〜。」


愉快な気分でるいにそんな言葉を送ると、るいに「航あとで覚えてろ。」と言う言葉を向けられたところでピストル音が鳴り響き、るいは完璧なスタートダッシュで走り始めた。


「矢田くんはやっ!!!」

「矢田くんかっこえ!!!」

「やば、惚れる!!!」


大歓声の中、るいはぶっちぎりでゴールした。ふぅ、クラスメイトおつかれ。2位でゴールしたクラスメイトに、俺は拍手を送った。


そしてまもなく俺の番がやって来て、ゴール先で腕を組んでジッと俺の方を見て待つるいの元へ、1位でゴールテープを切って、満足気な表情で歩み寄った。


「いっちい〜、いっちい〜。」

「俺は決めたぞ、絶対お前を負かす。」

「……え?」

「お前に勝てたら多分すっげえ気分いいだろうと俺は思った。」

「いやいやいや。」

「騎馬戦だな。お前のハチマキ取るわ。」

「いやいやいや。てかるい下だろ!?」

「俺がいつ下だって言った?」

「言った言った言った!絶対言いましたよ!?」

「ふうん。それ嘘だから。」

「おい!!!」


澄ました顔で話するいに、俺は盛大なツッコミを入れた。

最悪だ。俺はクラスメイトにお願いして騎馬戦は下に回らせてもらおう。

人生初の、馬に、…俺はなる!!!


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