その4. 真山仁と友岡 航A [ 107/188 ]
「俺も話し聞いたらやってもらいたくなってきちゃったー。」
「仁好きなやついねーの?」
「うん。」
「彼女とか。」
「高校寮だっつったらフられた。」
「わははどんまい!!」
うわ、もう友岡くんのしおらしい態度が終わってる。さっきまではあんなに可愛いかったのに。
「てかずっと思ってたんだけどさあ、友岡くんって俺のこと普通に呼び捨てで呼んでるよね。」
「ん?あ、仁?」
「そうそう。るいのことだって矢田くんって言ってたのに。」
俺は良い機会だから、とずっと思っていたことを友岡くんに言ってみた。
すると友岡くんの返答は思ってもいなかったことだから俺は拍子抜けする。
「最初仁のこと、じん たろうとかかなって思ってた。みんなじんくんじんくんっつってるし」
「…は?いやないないない。」
えぇ、この子俺の名前、名字だって思ってたわけ?
「いやそもそも呼び方とかどうでもいい。だって俺仁のことあんまり好きじゃなかったから。」
「俺もだよ!!!」
突然の『好きじゃなかった』発言に、悔しくなって思わず勢いよく言い返した。
すると友岡くんはケラケラと楽しそうに笑っている。それから、「でも嫌いとは言ってない」と言ってきたからから、俺は「へ?」と間抜け面で友岡くんを見る。
「あ、俺のこと航って呼んでいいよ。」
「いきなりだな!!!」
「だって俺が呼び捨てしてたの不満そうにしてたじゃん。」
「別に不満そうにはしてないよ!?なんでだろうって思ってただけで!!!」
「だから特に意味はない。」
「ふうん…。じゃあ航。」
「うわー違和感……」
「なんなんだよ!!」
「うそうそ、ちょっと友達っぽくなったね。」
「よく考えたら俺らって友達?」
「さあ?わりとどうでもいい。」
「やっぱひどい!!!」
相変わらず俺への扱いひど!!と思っていると、部屋の扉がトントン、とノックされた。
「ん?誰か来たんじゃね?」
「誰だろ?ちょっと出るね。」
「はいはい。」
よっこいしょ、と立ち上がり、部屋の扉を開けると、そこにはジトリとした目で俺を見るるいが立っていた。
「航くん来てますかー。」
仏頂面のるいが棒読みで俺にそう問いかけてきたから、俺は少し恐怖を感じて首を振った。
「まじ?ごめん勘違いだったわ。」
すると呆気なく謝ってきたるいに、俺は「え、」と固まる。
「仁くんと友岡くんがお弁当買ってたーって話を耳にしたからてっきり来てんのかと思った。」
「…あ…いや、その、」
『来てます。』
とは言い出せなくなってしまった。
……が、
「んぬ!?るいの声したぞ!?」
お箸を咥えた友岡くんが勢い良く扉を開けて、玄関の方を伺ってきたから、俺は「あああああ」と頭を抱えた。
「おいおーい仁くん嘘ついちゃいけないねえ。」
にっこり笑って俺の胸倉を掴んできたるいに、俺は「ごめんごめんごめんごめんごめん」ととにかく心から謝罪する。
「なにやってんの?」
「友岡くんと帰りに偶然会ってご飯食べてた。」
「へえ。」
「あれ?航って呼ばねえの?」
るいに事情を話していると、背後から友岡くんが口を挟んでくる。
そう言えば航って呼ぶって話ししてたな、とそこで先程の会話を思い出し。
「…航。いったァァ!!!」
俺が「航」と言った瞬間、るいが俺の頭をグーで殴ってきたから、俺はここで察した、友岡くんを『航』と呼んではいけない。
そして友岡くんは、「んほほ?」と俺を見ながら笑っている。クッソ〜!!!
殴られた頭が痛くて頭を抱えてしゃがみこんでいると、その横をスッとるいが通過した。
「なに食ってたの?」
「からあげ弁当。」
「いいなー俺も腹減ったー。」
「食堂行く?」
「一緒に来てくれる?」
「うんいいよ。これ食べ終わってからな。」
2人で俺の部屋に入っていった友岡くんとるいの会話が聞こえてくる。
「るいキモ。」
普段とはまるで態度が違う様子で友岡くんに話しかけているるいの声が聞こえ、ボソリと呟きながら立ち上がる。
部屋に戻れば、友岡くんの隣にぴったりくっついて座って、弁当を食べる友岡くんを眺めているるいの姿が。
「るいキモ。」
「あ?」
「あっなんでもないなんでもない。」
危ない、口に出ちゃった。
だってまじでるいキモいんだもん。
…とそう思っていると、
「俺にデレデレしすぎてるいキモいだってさ。よかったな褒められてるぞ。」
友岡くんに言い当てられた。
この子鋭いな!?褒めてはいないけど。
「へえ。」
反応薄!るい反応薄っ!!!
しかも否定しないんだな!!!
もうこのカップルさっさと帰っちまえ!!
…と思いながら俺も弁当の残りを食べようと二人の前に腰を下ろすが、
「つーかマジ腹減ったんだけど。航さっさと食えって。」
るいがそう言いながら友岡くんから箸を奪い取り、白ご飯を箸で掴み、友岡くんの口に、そして自分の口に、と交互に口の中に白ご飯を入れ始めるから、そんな二人を見ていると、全然自分の食が進まなかった。
「ふぅ。あ、仁ごちそーさーん。」
「は?なにこれお前の奢り?なんで?」
「あ、あはは、そういう気分「お前明日覚えてろよ、みっちり説明してもらうからな」………えっなにを…」
「お前が人に奢るとかどうせろくなことねーだろ。」
……俺もうこのカップルやだ!!
カップルで同じこと言われたし!!
俺のことなんだと思ってるの!?
「あっはっは!!うける、それさっき俺も仁に同じこと言った〜。」
「あっ友岡くんそんなに俺のこと笑うんだったらさっき話したことるいに言っちゃおっかなー。」
「は?お前死ねよ。」
「は?お前仁になに言ったの?」
「え、あ、いやあまあいいじゃないの。」
「ダメ。言えよ。」
「るいきゅん腹減ってるよね?めしめし。」
「ダメ。飯なんかあと。なに言ったの?」
もうお前ら帰ってくれ!!!!!
俺は友岡くんの腰に両腕を回して問い詰め始めたるいを見て、げっそりしながら立ち上がった。
すっかり食欲が失せてしまった俺は、なんだか見ていられないオーラを発している二人を横目に、風呂に入る準備をして風呂場へ向かう。
そして、風呂から出た時二人が帰っていることを期待して、ゆっくりと風呂で身体を洗った。
もう俺が友岡くんを部屋に呼ぶことは無いだろう。
22.ぶっちゃけトーク祭り おわり
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