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「あ、いや、えーと、これには深い訳があってだな、」

「深い訳?まあその深い訳はあとで聞くとして、そいつ酒入ってますよね?」

「あ、いや、その…。」


上半身に服を身につけていない理由はさておき、赤い顔にとろんとした目。これで酔っていないと言われればそれはそれで問題だ。


「原田寮監、酒飲んでたんじゃねえんすか?あ、ほら、そこにおつまみ隠れてますよ。」

「あっ、はは!いやぁこりゃ参ったな!」

「るいきゅ〜ん……ん〜?なんかこのるいきゅんおやじくせ〜」


原田寮監に抱きついている航が、すんすんと原田寮監の首元に鼻を寄せ、臭いを嗅いではそんなことを言ってるもんだから、俺は2人の元に歩み寄り、航の身体を原田寮監から引き離し、その身体をガシッと抱えた。


「航、そのおっさん俺じゃねーから。」

「おっさんって……。」

「こっそり酒飲んでるような人なんか、おっさん以外の何者でもねえっすよね。」

「何も言えねえ…。」

「どうせ航が水と間違えて酒飲んでしまった、とかそんなところじゃないんですか?…あ、それとまだなんか深い訳があるとか原田寮監言ってましたけど、なにか言い訳あります?」

「な、何もねえっす…。」

「まあ長時間の勤務ご苦労っすけど、未成年の生徒の手の届くところに酒はまずいんじゃないんですかねぇ?」

「そ、そうっすねえ…。」

「まあそれに、そんなことしてたらアル中にもなり兼ねないんでね。あ、ひょっとしてもうなってます?まじ気をつけたほうがいいっすよ。じゃ。失礼します。」


一通り言いたいことを言ったあと、部屋に落ちている航のTシャツを拾い上げ、航の身体をおぶって俺はさっさと寮監室を出た。


「ひぃ〜…確かにこえーな。生徒会長さん。」


俺と航が部屋を出て行った後、1人になった原田寮監が、顔を引きつらせながらそんな独り言を言っていたなど、まあ俺が知る由も無い。



上の服を身につけていない航をおぶっている俺は、部屋に戻るまでにすれ違う生徒から何事か、と驚いたように見られたが、さっさと部屋に戻ろうと、俺は視線は気にせず急いで俺の自室へ戻った。


その間航は、「あ〜るいきゅんだ〜いい匂いがする〜」と俺の首筋をすんすん臭いでいてくすぐったくて仕方がない。


おぶっていた航をベッドに降ろし、とりあえず水を飲まそうと、ベッドに背を向けようとするが、「るいきゅんどこ行くんだよぉ」と航が俺の腰に抱きついてきた。


「どこも行かねーよ、喉乾いただろ?」


航の頭をそっと撫でながら話しかけると、航はチラリと俺を見上げる。


「るいきゅ〜ん腰細〜い。」

「ああどうも。」

「ん〜んるいきゅんだいすき。」

「うん俺も。」


なかなか手を離そうとしない航に、水を飲ませることを諦めて航の方に向き直ると、航はにこりと笑みを浮かべて俺を見る。

頬に両手を伸ばされて、航の手が俺の頭を航の方へ引き寄せた。


「ん〜ぅ。るいきゅんちゅーしよ〜。」


そう航が口を開いた頃には、もうすでに俺の口は航の唇に塞がれている。『チュー』と言うにはあまりにがっついた、口と口が触れ合うキスだ。

そして、べろり、と俺の口元を舐める航。


こいつは理性を失うとこういうキスをする奴だ、と俺はだんだん分かってきた。それと同時に、航に酒を与えては絶対にいけないと思った。


先程寮監室に行った時、航は原田寮監のことを俺だと思って抱きついていた。つまりあのまま、原田寮監にキスをしていたことだってあり得る。


「ああもう。」


ため息混じりに呟けば、航は「ん〜?」と俺の顔を覗き込んでくる。


「るいきゅんちゅーしよぉよぉ〜。」

「もうしてんじゃん。」

「もっと激しいやつ〜!」


そう言った航は、俺の身体をベットに押し倒し、俺の身体にのしかかってきた。


「うわっおいバカ!!」

「ん〜るいきゅんすき〜」


のしかかって、首に手を回され、そしてまた、食い付くように俺の唇にキスをし、俺の唇を舐め、その唇が俺の首筋まで移動したところで、航は動かなくなった。


「……航?」


呼びかけても反応がない。

その数秒後、スースーと寝息の音が聞こえてくる。


「ああもう!!!」


この状況で寝んのかよ!!!

航が眠ってしまったと分かった直後、俺の身体はぐったりと力が抜けてしまい。

暫くそのままの体勢で、「はあ。」と何度も大きなため息を吐いた。


「航くーん…重いんですけどぉ〜…?」


結局俺も、航を上に乗せたまま、いつの間にか眠っていた。


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