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ここ、全寮制男子校、寮においては最高権力者の俺、原田 六郎(はらだ ろくろう)。ハラちゃんやろくちゃんという愛称でここの生徒に親しまれている俺の人生の楽しみは、酒を飲むことだ。


「カーッ!今日も酒がうめえ。」


透明のグラスに注いであるのは芋焼酎。
俺の大好きなのは芋焼酎。

寮監督が勤務中に酒を飲んでいるだなんて。透明なグラスに注がれた透明な芋焼酎が酒だとはまさか誰も思うまい。

こっそりおつまみなんか用意して。

おつまみをつまみながら芋焼酎を口にする。


「カーッ!」


最高である。酒最高。

そんな良い気分になってきた、時刻は夜の8時すぎ。


「なあなあ六郎!!あいふぉんの落し物届いてねえ!?」


うるさい奴が現れた。

友岡 航。2年のバカクラス所属のやんちゃ坊主だ。ハラちゃん、ろくちゃんなら可愛いものを、俺のことを六郎と呼び捨てにしやがるクソ生意気な悪ガキである。


「はあっ、はあっ、ちょ、まじ泣きそうあいふぉん無くしたっ」


息切れしている友岡は、その様子じゃあちらこちらを探したのだろう。


「残念だったな、届いてねえよ。」


…というのは冗談で、実は数分前に食堂にあったと届けられた。よかったな、多分それが友岡のものだ。

そう言おうとした時、俺の目は大きく見開いた。


「はあっ、水、喉かわいた…水くれ…っ」


そう言って友岡は、俺の芋焼酎が入ったグラスを手に取ったのだ。


「おまっ…!それ俺の…!」


芋焼酎!!!!!…とはまさか言えまい。

ゴクゴクと友岡の口内に流し込まれる芋焼酎。俺がちょびちょび飲むはずだった芋焼酎が。これはやばい。


「ぅえっ…なんかこの水へんだ。」


そりゃそうだそれは水じゃねえ。


「うー。腐ってんじゃねえかあ!?」


失礼な、芋焼酎に今すぐ謝れ。

…しかし水割りにしておいて良かった。
ロックだったらとんでもなかったな。

…と思った直後のことである。


「お〜れ〜の〜あ〜い〜ふ〜ぉ〜ん〜っどこどこどこどこどっこもっだけぇ〜」


あ、最悪な事態だ。こいつ酔ってやがる。


「なあなあなあどこぉ?どこいったのぉ?あいぽんちゃんいつもいっちょだったじゃんかぁ〜」

「よかったな、ちゃんと届いてるから安心しろよ。ほら、これだろ。お前のiPhone。」


俺は面倒なことになる前に、すぐさま友岡に先ほど届けられたiPhoneを差し出した。しかし友岡はそれを受け取らない。


「……これおれのじゃないっ。」

「うっそ、まじかよ。」


友岡はそう言ってそっぽ向く。
おいおいどうすんだよこいつ。

酔っ払いの生徒を誰かに見られちゃまずいっつーの。

焦った俺は、とりあえずグラスに本物の水を注ぎ、友岡に飲ませることにした。


「ほら、これは美味しい水だ。飲め。」

「あいふぉん無いとやだっ!」

「だからこれだろ?お前のiPhone。」

「おれのあいふぉんにはるいからでんわがかかってくるんだよ!!」

「はあ〜?そのうちかかってくるんじゃねえの、ほら、これがお前のiPhoneだろ?」

「ち〜が〜う〜!!」


……ああもうめんどくせえな!!!

つーかあれだろ?るいってやつは友岡がいつも仲良く登下校してるイケメン生徒会長さんだろ?まさかこいつが酔ったところなんかその生徒会長さんに見られるとまずいよな。…と思った俺は、やはり早く水を飲ませて、酔いを覚ましてもらわなければ。ともう一度友岡に水を勧める。


「ほら、美味しい水飲めよ。頭がスッキリしたら、これはお前のiPhoneだってわかるから。」

「ちがうんだよお〜!!!おれのあいふぉんは、」


友岡がそうめんどくさく否定している最中のことだ、友岡のものと思わしきiPhoneが、着信を知らせる音楽が流れた。


「あ〜!!おれのあいふぉん!!」


ああ…よかった。やっと自分のものだと分かったか。とホッと息を吐いた俺は、後に酔っ払いの友岡の手にiPhoneをやすやすと握らせてしまったことを、後悔することになる。


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