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「航お願いがあるんだけどさ、矢田くんと仁くんの2ショット撮ってくんない?」

「お断りします。」


クラスメイトに突如お願いされた内容に、俺は光の速さでお断りした。撮りたきゃ自分で撮れ。とは言わない。だってるいきゅんのお美しい姿を撮っていいのは俺だけだから。なんつって。なはは。


「え〜、航のケチ。お前くらいなんだよ?矢田くんと仁くんのツーショット写真撮っててバレても大丈夫なやつ。」

「そもそも何故ツーショット写真を欲しがる。るいだけじゃ不満なのか?」

「えっ矢田くんの写真くれるなら欲しいよ?もちろんだよ。」

「バカ、あげるわけねーだろ。」

「矢田くんのピン写も欲しいけどさ、ほら、やっぱイケメン2人並んだ写真って最高じゃん?」

「…ん?…あっ。」


『イケメン2人』…そう言ったクラスメイトに、はて、誰と誰のことだって?と俺はやや動作を停止して考え、そしてハッとした。……ああ、仁のことか。


そういえば仁はるいで薄れがちだがイケメン扱いを受けている人気者だった。

いや、仁がイケメンだということが薄れていたのは俺の脳内だけで、そういえば仁はいつでもチヤホヤされていたな。るいがかっこよすぎるあまりに仁がイケメンだということを忘れていた。


「なんだよその反応。」

「仁がイケメンだということを忘れていた。」

「最低だなお前。俺だって航がイケメンだってことはいつも忘れてるからな。」

「お前、それを口にしてる時点で俺のことイケメンだって言ってんぞ。ありがとな。僕イケメン。」

「うわ、なんか腹立つ。」

「僕が好きなのは担々麺。」

「意味わかんねーよ。そんで写真撮ってくれんのかよ。」

「それは先程お断りしましたよね。あんまりしつこいとお巡りさんに言っちゃうぞっ。」

「よし、それじゃあこうしよう。お前がこの前読みたがってた漫画、実はまとめ買いしたんだよ。1巻から57巻。貸してやる。」

「まじか。」


俺は光の速さで頷いた。漫画57冊には勝てない。だって57冊読もうと思ったらかなりのお金がかかるから。俺は人の漫画を借りてでしか漫画は読まないのだ。俺ってばすげえクソ野郎だろ、知っている。


「5冊ずつ貸すわ。」

「おおサンキュー。るいのご飯食べてる写真あとで送ってあげる。」

「まじか。じゃあついでにこの前買った新刊も貸してやるよ。」

「おお。実はそう言ってもらえるのを待っていた。」

「お前クソだな。」

「知っている。」


こうして俺の、るいと仁のツーショットを撮るぞ!ミッションがスタートした。


狙い所は移動教室の時とかか。

正面から2人が歩いてきた時を狙って撮ろうか。いやでも写真撮ってんのバレたらまずいな。なに写真撮ってんだ、っつって怒られんな。るいってば写真撮られんの嫌うから。だからいつもこっそり気付かれないようにスマホの無音カメラというアプリで撮っているのだ。最近の機器は実にハイテクノロジーである。こんなものが人類の手に行き渡るから、犯罪が増えるのだ。主に盗撮など。いけないなあ。まったく。

…ということを考えながら、俺は廊下を歩いてきたるいと仁の姿を見つけたから、スマホを顔の前で構え、無音カメラアプリを起動させた。


「航?」

「…おや?るいきゅんかい?」


白々しいな、俺。写真を撮る前にるいに気付かれてしまった。せっかくだから一枚、無音カメラでるいの顔面アップを撮影すると、るいに頭を叩かれてしまった。

最近るいは、無音カメラでも俺が撮影していることに気付くという技を身につけてしまったのだ、実に厄介な技である。


「なにしてんの?」

「ミッションインポッシブル。」

「それこの前見た映画だろ?」

「そうだった。」


ミッション失敗である。


「航、写真撮れた?」

「ごめんまだ。」

「はい、これ次の5冊。」

「かたじけない。」

「早く撮ってくんないと次貸さねえよ?」

「撮る撮る、日々ミッションに励んでおるから心配するでない。」

「それならいいけど。」


友人に借りた漫画はありがたく読ませていただいている。しかし早くイケメンのツーショットを撮らねばお客様の信用を失ってしまいそうだな。

言わずもがなお客様とは、漫画を貸してくれている友人である。


「仁、仁、ちょっとおいで?」


俺はミッションを果たすために、Sクラスの教室へ足を運んだ。仁の名を呼び、手招きする。


「ん?友岡くん?どうしたの?るいに用事?呼ぼうか?」

「いいや、ちょっと仁に用事があってさ?」

「俺に?…珍しいね。なんか企んでる?」

「人聞き悪いなあ!あ、仁くんってイケメンだよね。」

「やっぱ絶対なんか企んでるだろ!」

「だから人聞き悪いなあ!俺はただ、イケメンのツーショットを欲しててさ?」

「うん。」

「仁とるいでこーやって自撮りしてくんない?」


そう言いながら俺は、仁の顔に自分の顔を寄せ、腕を伸ばしてカシャ、と俺と仁の顔面ツーショットを撮影した。もしものための保険ということで、るいと仁のツーショットがもし撮れなければ友人にはこれで勘弁してもらおうと思う。

ほら、あの友人俺のことイケメンだと思ってくれてるから。優しいね。


「…え、なにどういうこと?」

「だからるいと仁で自撮り写真撮って?っていうお願い。あ、撮ったら俺に送って?ほら、俺イケメンのツーショットが欲しいから。」

「え〜、無理無理、るい写真嫌がるから絶対断られるって。」

「え〜、じゃねんだよ。撮れったら撮れ。」

「ちょっとちょっとぉ!友岡くんって俺のことなんか見下してない!?俺Sクラスよ!?友岡くんEクラスでしょ!ちょっとは敬ったらどうなの!?」

「…はあ。仁くん、キミ器がちっちゃいねえ。頭のよし悪しで人の上下を決めつけてはいけないよ?」

「え、ちょっと待って、すっごくむかつくんだけど!友岡くんむかつく!」

「…なに話してんだ?」


Sクラスの教室と廊下の境目で会話をしていた俺と仁だが、るいに気付かれてしまったようだ。俺は白々しく「ちょっとるいに用事があってさ、」と言うと、仁は「はあ!?友岡くん俺に用事って言ったじゃん!」と言うので、俺は要らぬことを言うなとぐしっと仁の足を踏みつけた。


「いって!!もう!友岡くんなんなんだよ!!なんか俺に恨みでもあんの!?」

「うん。いつもるいと一緒にいれて羨ましいなーって。」


勿論その場で思いついた言い訳だが、まあ間違いでもないから問題ではない。そんな俺と仁の会話を、るいがとてつもなく不審そうな目で聞いているから、ちょいと俺は焦り始める。


「なに。お前、仁にちょっかいかけてんの?」

「かけてないかけてない。」

「じゃあなにしてんの?」

「るいきゅんに会いに来た。」

「嘘つけ、お前仁と喋ってただろ。」

「うん、ちょっとミッションインポッシブルについて話してた。」

「お前その映画好きだな。」

「う、うんまあね。」


俺は苦笑いしながら頷いた。この、漫画57冊と引きかえに受けた任務は、極めて困難である。


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