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「航の体操服が無くなったんですよ!!!」
「俺ら教室中探したけどなくって。」
「航、ずっとフックにかけてたって言うし、無くなるはずないのに!」
「ひょっとしたら誰かに盗まれたんじゃないかって!!」
クラスメイトたちは口々にるいにそう説明してくれた。だが様子がおかしい。
様子がおかしいのはるいだ。
「……るい?」
るいは無表情で一歩後ろに下がった。
一歩、そしてまた一歩。
クラスメイトは不思議そうにるいを見る。
無表情なるいは、そうして何も言わずに教室を出て行ってしまった。
「……え、るいどうしたんだ。」
「…心配してくれてんじゃねえの?」
「まさか体操服探しに行ってくれたとか?」
今度は口々にるいの様子を見て話すクラスメイト。
その僅か数分後、再びるいは、俺たちの教室に現れた。
……無くなったはずの、
俺の体操服が入った手提げ鞄を持って。
「……あっ!!!」
俺はそれを見て声をあげる。
るいは、ちょっと笑いながら、俺にそれを差し出した。
おい、その笑みはなんだ。
クラスメイトたちなんか、滅多に見ることのないるいの笑みに、ポカンと口を開けてるいを見る。
みんながポカンとする中、るいは口を開いた。
「すっかり忘れてたけど、航の体操服借りたんだった。」
「「「「「……は!?!?」」」」」
みんなの驚きの声が見事重なった。
目を大きく見開いて、俺の手提げ鞄を差し出するいを見るクラスメイトたち。
「お騒がせしました。」
ぺこりと頭を下げるるい。
クラスメイトはいまだに固まっている。
それもそうだろう、あれだけ体操服の行方をいろいろ考えて、まさかるいが持ち出していたなんて誰も思わない。
「いやいやいや。なんで!?」
「え、持ってくるの忘れたから。」
「いつ借りてったんだよ!!」
「お前移動教室行ってて居なかったから勝手に借りた。ごめん。」
「早く言えよお!!」
「忘れてた。」
「もおおおおお!!!」
俺はガクリと両手を机についた。
「矢田くん逆の立場なら絶対航にキレるよねー。航かわいそー。」
みんながポカンとする中、アキちゃんだけはるいにトゲのある態度で話しかけた。
「ああ、キレてるな。多分。」
「ねえ、航もキレていいんだよー?」
なんだかアキちゃんがキレてるようで、俺にそんなことを言ってくるが、不思議と怒る気にはならない。
それはまあ、日頃しっかりしているるいでも、こんなことがあるのか。と言う一面が見れたのと、るいが俺を頼ってくれたという喜びがあるからなのだろう。
「航、キレていいぞ。」
しかしるいも、アキちゃんに続いてそんなことを言ってくるから、まるで俺はキレないといけないみたいじゃねえかよ。そんなこと言われて本気でキレるやつがいるかよ。
俺は「はぁ。」と息を吐いて、何も言わずにるいから手提げ鞄を受け取った。無言の俺に、るいはちょっと窺うように、チラリと俺の顔を覗き込む。
こんな状況はなかなか味わえないことだな、と思いながら、俺はニッと口角を上げてるいを見た。
「ふふー。そっかそっか。この体操服るいも着たのかー。……明日も着ーよおっと。」
ボソッと俺は呟いて、しれっと手提げ鞄をフックにかけた。
「「「いやいやいや!!!」」」
しかしそれを見逃さなかった我がクラスメイトたち。
すかさずクラスメイトの一人が横から入り、手提げ鞄を再び俺の手に持たせたのだ。
おいこら貴様、なにをする。
「矢田くん、なんか航に言ってやって下さいよ!!」
「こいつ、明日もこの体操服着るとか言ってるんですよ!?」
クラスメイトらはるいにそんなことをチクリはじめてしまったから、俺は素知らぬふりをした。
すると、るいが俺の方を見る。
そしてゆっくり口を開いた。
「お前…それ明日も着んのか?」
「ん?…んー。」
俺はるいの問いかけには頷かず、そっぽ向く。
するとるいは、続けて俺に言ったのだ。
「……びちょびちょだったぞ。」
「矢田くんよくまあそんなの着たね。」
瞬時にアキちゃんの的確なツッコミが入り、るいは口元を引きつらせた。クラスメイトたちも表情を引きつらせた。
え、ちょっと待てよ。
なんか、俺がすげえ悪いことしたみたいな空気になってねえか!?
「なんだよ!汗かいて悪りぃかよ!!」
「…いや、別に誰もそんなこと言ってないけどさ。」
「俺らはその体操服を洗えって言ってるだけで。」
「んで矢田くんがよくもそんな体操服着たな、って話してるだけで…あっ。」
クラスメイトは言ったあと、「やべ」と言うようにるいを見た。するとどうだろう。るいのほっぺたがちょっとぷっくりと膨れているではないか。
「ご、ごごごめ、矢田くん…!」
焦るクラスメイト。
無言でむくれるるい。
暫し沈黙が訪れる。
沈黙の中、はじめに口を開いたのはるいだった。
「…別に俺だってすぐ運動したら汗かくし…。…全然気になんねえよ…。どうせ航のだし…。」
「…う、うん…そうだよね…」
おいおい。そうだよね…って。
クラスメイトよ、なんか無理矢理納得しようとしてねえか!?
俺は唖然としながらそんな状況の中にいると、るいは再び俺の体操服が入った手提げ鞄を手に取った。
「…俺が洗う。」
そう言って、るいはなんだかしょんぼりしながら教室を出て行ったのだった。
「え。え。いいのか航。」
それに戸惑うクラスメイトたち。
「なあ、なんでるいはしょんぼりしてんの?」
俺はなによりそれが気になり、るいの背を指差しながらクラスメイトたちに問いかけた。
「…そりゃ…まあ。航のびちょびちょの体操服着たこと指摘されたからじゃねえの…。」
「俺なら絶対着ないからな。」
「矢田くんに申し訳ないことしちゃったな。」
「ほんとにな。晃に突っ込まれたあと、お前がまた余計なこと言うから。」
「…だよね。反省してる。」
るいに言ってしまったことに対し、クラスメイトもしょんぼりし始めてしまった。
なんだか空気はとても重いが、そんな中ぽつりと誰かが口を開いた。
「びちょびちょな体操服でも、矢田くんは航のを着るってさ、…すげえな航。あの矢田くんに愛されてんね。」
「んなっ…!!!」
ななななんて恥ずかしいことを言いやがる!?
俺はぽつりと言ったクラスメイトの台詞に、一瞬にして顔が熱くなった。
「確かにそうだな。」と他の奴らも頷きはじめ、俺はとにかく顔が熱く、火照った頭を冷ますのに少し時間がかかったのであった。
まあ、なにはともあれ。
体操服泥棒がるいでよかった。
2. 体操服が盗まれた!? おわり
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